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母親失格  作者: アザとー
『妹』という生き物
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 さてこの娘、外面が良いためにお兄ちゃんのような評価を受けたことはないのだが、決して育てやすい子ではない。

 ともかく一日中、こちらの神経が磨り減るほどにしゃべりたおす。

 もともと口の早い子で、耳が良いのか一歳を数えないうちにサザンを歌っていた。もちろん音コピであるから「みつめあ~とに~」と謎の言葉に変換されてはいたが、滑舌が悪かった兄に比べれば言葉に関する心配はない。

 ただ、口数は……言っちゃいけないと解っていても「黙れ」と言ってしまうほどである。だって二時間物の映画一緒に見ていて、登場人物たちの台詞より娘の言葉のほうが多いって、すごいよ?

 

 友人関係も、我が家では誰も驚かないが狭く、深く。担任の先生にも心配されたことがあるが、休み時間ごとにクラスの離れた友達に会いに通うタイプだ。

 それでもクラスメートとトラブルを起こすことなく、和やかに過ごすことが出来る。学習面も問題なし。

 だから対外的な心配はしていないが、親しいものに対しては多少手荒だ。

 

 家人に対しても椅子にする、足蹴にする、寄りかかりもすれば押しつぶしたりもする……抱きつくを超えたスキンシップを求められるのだから、どうしても「やめろ!」と言わざるを得ない。

 家に良く来る兄の友人にも遠慮無しで、飛びつく、跳び蹴る、昨日など負んぶして振り回してご機嫌だった。幸いにも懐がでかいというか、スルースキルの高い彼は幼いころからそんな娘の扱いに長けているので怒りもしないが、親としてはハラハラするほどの暴君っぷりである。

 家庭内で問題児なのはむしろ娘の方であろう。

 躾? 一通りしていますよ?

 優しく諭せば拗ねて自傷行為に走る、叱り飛ばせば暴れて聞き苦しい悪口を吐き散らす、叩けば家を飛び出す……反応がハンパなく過剰なんです。いつか解ってくれれば良いと鷹揚に構えて、毎日のように同じ説教を繰り返しておりますが……

 それでも、デレがハンパなく可愛いんですよ、この娘。普段が粗暴だから余計に可愛い。

「あのさ、買って欲しいものがあるんだけど……」

「ん? なに?」

「ん~、やっぱ、いいや」

「良くないよ、言ってごらん」

 で、百発百中陥落させられる。アザとーキャラにいてもおかしくないほどの性能なのです。


 こうしてアザとー家は毎日怒声が響き、泣き、笑い、なんら普通のご家庭と変わることはないのです。ただ、母親向きでない俺がひいひい言いながら母親をこなしている以外は。

 それでも良くしたモノで、母親の足りない部分は子供たちが埋めてくれる。

夜中のパートをしていたころは朝に弱く、ほとんど死んだようになる母親を気遣って、うちの子供たちは朝飯など自分で済ませてくれました。それは昼パートに移った今でも変わらず、むしろ楽をさせてもらっているくらいです。

 割れ鍋に綴じ蓋とはよく言ったもので、アザとーはこの子供たちがいてくれるからこそ拙いながらも母親として立っていられる。例え人様から弾かれようと、笑われようとこの世でたった二人だけは『母』と呼んでくれる。

 そのプライドだけが、今日もダメ母を支えてくれるのです。


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