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セレニア王国物語  作者: みの
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第一章 異世界アルデリア 1.可能性の境界

1


 視界が明けると、目の前には真っ白な空間が広がっていた。ただ、振り返った後方にはぼんやりと先ほどまでいた林の光景が見えている。いや、見えていたが、それも間も無く消えてしまい、ただ真っ白な空間となった。

 自分が地面に立っているのか、浮いているのかわからない不思議な感覚だ。


「ここは?」


『ここは聖樟が繋ぐ世界同士の境界。可能性の境界である』


「可能性の境界? 世界を繋ぐ? 何を言っているのか……」


 いや、言葉の意味としては理解出来るが、自分の置かれた状況についていけていない。先ほどまで公園の林を歩いていたはずだが、光る樟に触った途端にこんな何もない空間に飛ばされてしまった。

 来週の展望を考え、少しだけ新しい明日に期待感を抱いた矢先の出来事である。


『理解をするのも難しいとは思う。しかしこの空間にいて、君とこうして話をしていられる時間も限られている。したがって君には伝えるべきことを伝える。なんとか理解して欲しい』


 声だけの存在はどこか申し訳なさそうなトーンで話す。そのおかげか、少しずつ混乱していた思考が落ち着いてくる。

 この声はさきほど、自身のことをアルゴスと呼んでいた。そして異世界に転移してもらうと。


「確かあなたは自分のことをアルゴスと名乗っていた。それがあなたの名前で間違いないですか?」


『いかにも私はアルゴスである。精神の精霊アルゴス』


「精神の精霊?」


 よくファンタジー物語で聞く()()だが、精神の精霊というのは初めて聞く。どんな精霊なのだろう?

 そう思っていると目の前に透き通った中性的な人物が浮かび上がってきた。白髪は長く目は青い、背丈は丁度自分と同じくらいだろうか。不思議なローブを纏っている。

 透き通っている以外は人間に見えなくもない。アルゴスであろうか?


『可能性の境界では私をこうして視覚的に捉えることが出来る。改めて、私が精神の精霊アルゴスである』


「あ、俺は……」


『佐藤 晴太それが君の名であろう』


「どうして俺のことを?」


『君の事を長い間待っていたと伝えたであろう? ()()()()()の地で我々精霊と話し、共鳴することが出来る存在が現れるのを待っていた。アルデリアの地にその存在が産まれなかったのは残念ではあるが、この聖樟で繋がる世界で君が産まれたのは望外の喜びであった』


「アルデリア? 精霊と共鳴?」


 また少し理解が追いつかない。

 しかしアルゴスの話は続く。


『アルデリアは可能性の境界を彼方に抜けた先にある世界だ。君のいた世界とは異なる理で成立する世界である』


 そうして何もない方角を指し示す。ただ白いだけの世界で、その方角には何もない。こうしてアルゴスと話をしていないと、頭がおかしくなりそうである。


『アルデリアはその地を巡る魔流の力、そして聖樟の存在によって、複数の世界と繋がっている。君の世界だけではないいくつかの世界と。その中の一つ、影の次元と呼ばれる暗黒世界がアルデリアに過度に干渉するようになってきた。ここ数百年で徐々にその干渉度合いは強まり、ここ数年でそれはさらに顕著となった。世界を調停する我々精霊が看過できぬほどに』


「暗黒…世界」


 凄くファンタジーモノっぽい。他人事のような感覚で捉えれば、話もなんとなく理解出来る。以前やっていたネットゲームの世界も光と闇の戦争が主たるテーマだった。


『その影の次元から進出してくる存在、アルデリアの人々の言う悪魔達は、優劣はあれど非常に危険な存在だ。今は力を持つ者達によって抑え込めている被害も、間も無く対処が不可能なモノとなるであろう。悪魔達には精霊の力でないと対処が出来ない。しかし世にいる精霊の力を引き出せる者達であっても、そこで扱える力は本来我々の持つ力のごく僅かなものに過ぎない』


 精霊の力を引き出せる者。精霊使いや魔法使いであろうか?

 

 アルゴスは晴太に向けて右手をかざす。


『しかし、君であれば違う。我々の力を受け入れる器を持つ君であれば、精霊共鳴の神技を扱うことが可能となろう』


 アルゴスの指先が光る。その光は指先から晴太の額に渡り、一瞬で全身を包み込んで、そして消えた。


『これで君は私以外の精霊とも意識的に触れ合えるようになった。今すぐにその力を使って何かを成すことは出来ずとも、必ず君の道標となり、アルデリアを救う切り札となろう』


「世界を救う?! 俺が世界を? そんなことなんで」


 黙って聞いていれば、いつの間にやら自分が世界を救う役割になっている。一サラリーマンである自分に何が出来ると言うのか。武道の経験は元より、喧嘩すらしたことない一般人の代表だ。


『君には申し訳ないが、君にしか出来ないことなのだ。そして私がしてやれるのは君に精霊共鳴の種を与えてやること、そしてアルデリアに導くことのみ。そんな私の力もそろそろ限界を迎える。一時的に世界を繋ぎ君を連れてくること、そしてこの可能性の境界に留まることは私の全て賭けねばならぬ』


 すると先ほどアルゴスが指し示していた方角にぼんやりと何処かの景色が見えてきた。

 緑地公園の林に見えなくもないが、この話の流れでそんなことはないのだろう。あの先に見えるのが異世界アルデリアなのだ。


『最後に君に助言だ。君はアルデリアを救う鍵だが、しかし君一人で成せるほど安易なことでもない。まずは信頼出来る仲間を探すのだ。精霊の導きにより、必ず君の力になる仲間だ。幸いなことにこの先のエーレウッドの大森林には、君に力を貸してくれるであろう人物が一人。まずはその者を探すのだ』


「え? 俺、この格好で大森林に行くの!? 武器は防具とか無いの?」


『すまないが物質的なものを君に与えてやることは出来ない。だが、君は既に精霊の声を聞くことが出来る。精霊の導きを頼りなさい』


 身体がぼんやりと見える森の方へ引っ張られる。受け入れられる状況ではないが、しかし現実である。理解して覚悟を決める時間すらない。


「アルゴス! どうしようもないのはわかったけど、最後に教えろ! 俺は帰れるのか!? 元いた世界に」


『……全てが終わった後に、もう一度エーレウッドの聖樟へ』


 全てを聞き終える前にまた視界が光に包まれる。

 

 さようなら現実世界。来週からの仕事、無断欠勤になってしまうだろうか。

 捜索願いとか出されたら申し訳ないなと心の中で思いながら、佐藤 晴太は異世界アルデリアに降り立つ。

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