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182/182

182 だから、絶対に言えない

「お前が囚われていた世界の俺と……いったい何があった」



「…………え?」


 ジェラールにそう問いかけられた途端、オルタンシアは息が止まりそうになってしまった。

 まさに、今一番聞いてほしくないことだったのだから。

 オルタンシアの動揺は、ジェラールにも伝わったのだろう。

 彼はオルタンシアの肩を両手で掴み、重ねて問いかけてきた。


「あいつは『俺のオルタンシア』などとほざいていただろう。あれはどういう意味だ」

「っ……!」


 核心を突くような言葉に、オルタンシアはとっさに目を逸らしてしまう。

 ……言えるわけがない。

 あの世界では、ジェラールとオルタンシアは兄妹ではなかったから。

 身分の差こそあれども、他人として出会ったから。


 ――「お前が泣いている姿を見るたびに、心が搔き乱される。……お前だけだ。俺を、こんな風にするのは」

 ――「今まで他の誰にも、こんな感情を抱いたことはなかった。だが、すぐにわかった。これが……愛という名の感情なのだと」

 ――「貴族とか使用人とか、そんなものは関係ない。俺はお前がいい」


 あの世界のジェラールはオルタンシアのことを愛してくれた。

 ……家族愛ではなく、恋愛として。


 ――「これから先、何があっても俺が必ずお前のことを守る。だから……俺の妻になってくれ、オルタンシア」


 そして、プロポーズまでしてくれたのだ。

 あの世界は魔神の作りだしたまやかしの世界で、なんらかの作為があったのかもしれない。

 だがそれでも、ジェラールがオルタンシアに恋愛感情を抱き……それがきっかけでオルタンシアも自身が抱えるジェラールへの想いに気づいてしまったのは確かなのだ。

 ……だがまさか、そんなことを目の前のジェラールに言えるわけがない。


(言ってしまえば、もう元の関係には戻れなくなる)


 オルタンシアははっきりとそうわかっていた。

 ……今の関係を壊したくなかった。

 オルタンシアが抱いてしまったこの想いを押し付ければ、「家族」ですらいられなくなるだろう。


(だから、絶対に言えない)


 ……結ばれなくたっていい。

 永遠の片思いのままでいい。

 せめて「妹」として、今まで通り彼の傍にいたかった。

 だから、あの世界で何があったかは隠し通さなければ……!


「な、何もありませんでした。お兄様がお気になさるようなことは、何も……」


 だが切羽詰まったオルタンシアの頭はうまく回ってくれなかった。

 通常であれば、こんな言い方をすればますますジェラールが不信感を抱くなどわかりきっていたのに。

 案の定、ジェラールは怒りを押し殺すように眉根を寄せ、オルタンシアの肩を掴む手に力を込めた。


「……俺に言えないようなことをされたのか。『俺のオルタンシア』などとあいつが勘違いするような、下劣な行為を――」

「ち、違います……!」


 ジェラールがとんでもない方向に勘違いし始めているのを察し、オルタンシアは慌てた。

 あの世界のジェラールは、常に誠実だった。

 公爵家の跡取りとしての矜持を忘れず、身分を笠に着るようなこともせず、まっすぐにオルタンシアを愛してくれた。

 オルタンシアの存在を軽んじたり、貴族と使用人だからといって無理強いをするようなことは一度だってなかったのだ。

 だからこそ……あのジェラールのことを悪くいうのはいくら本物のジェラールといっても看過できるはずがなかった。


「あの方はそんなことをするような方ではありません! お兄様の誤解です」

「随分とあいつの肩を持つんだな」

「だって、あの人は……」


 あの世界で一人ぼっちだったオルタンシアの手を差し伸べてくれた。

 そんな彼に、確かにオルタンシアは救われたのだ。

 視線を逸らし、あのジェラールのことを思い出すオルタンシアを見て本物のジェラールがどう思ったのかはわからない。

 彼はオルタンシアの肩から手を離すと、今度はオルタンシアの顎を掴むようにして顔を上げさせる。

 強制的に彼と視線が合い、オルタンシアは息をのんだ。


「あいつと何があったのか言え。俺が危惧するようなことがなかったのなら言えるはずだ」

「っ……!」


 恐ろしいほどの気迫でそう凄まれ、オルタンシアは震えあがる。

 彼の瞳には、押し殺しきれない怒りの念が滲んでいた。

 オルタンシアには何故彼がそんなに怒りの念を抱いているのかわからなかった。

 ……やはり、自分を模した存在が義理の妹に何かよからぬことをしていたのではないかと苛立っているのだろうか。


(……私が話さなければ、お兄様は納得しない)


 いつになく乱雑な態度を見れば、今のジェラールの意志が頑ななのはよくわかる。

 オルタンシアは変に隠し立てすれば、ジェラールはますます誤解を深めていくことだろう。


(たとえ幻とはいえ、あの世界のジェラール様のことを悪く思ってほしくない……)


 オルタンシアは迷ったが、すぐに覚悟を決めた。

 せめて、あの世界のジェラールの誇りを守りたかったのだ。

 ……たとえ、これから話すことが原因で本物のジェラールとの関係がぎくしゃくすることになったとしても。


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― 新着の感想 ―
おおう、兄様妬いてるw めっちゃ続きが楽しみ!
本人モデルのラブラブ二次創作を 本人に内容説明する地獄
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