【脱落者】自主退学の申し出
翌日、一通り集計を終えたであろう亀梨先生が教室に入ると拍手をして告げた。
「みなさん、初配信お疲れ様でした。皆さんのおかげでバーチャル学園プロジェクトはさらに世間から注目される存在になったと言えるでしょう」
亀梨先生の言葉に教室全体が沸き立つ。
私達はバーチャルタレント候補生として最高のスタートを切った。そう思った矢先のことだ。
「しかし、残念ながら退学者が一名出てしまいました」
湧き上がっていた教室が一転、水を打ったように静かになる。
退学の条件は、配信終了後に登録者数が三万人を下回った場合。
自分の見た目は動かない立ち絵とはいえ、4DLIVEが開催した今までにない企画であり、世間の注目度も高い配信だ。
運営の目算では、三万人という登録者数はめちゃくちゃ頑張れば超えられる目標設定だったはずだ。事実、私の登録者数なんてもう十万人を超えている。
私はみんなの配信を見れていなかったからわからないが、何かしらまずい発言をした人でもいたのだろうか。
「誤解のないように言うと、条件だけで言えばこのクラスの全員が達成していました」
「じゃあ、なんで」
「本人による自主退学の申し出があったからです」
自主退学。
その言葉を聞いた瞬間、私は教室内に見知った顔がいないことに気がついた。
「飛乱綺羅莉。本当に残念ですが本人の強い希望もあって自主退学という形になってしまいました」
「なっ……!」
ありえない。
飛乱さんはいつだって一生懸命で、Vたれになりたいという強い思いがあった。
それは近くにいた私が一番よく知っている。
「何で飛乱さんが……」
私にとって飛乱さんは、初めてできた友達だ。いつ誰かが消えてもおかしくないとは覚悟していたはずなのに、こんな形で別れることになるなんて思いもしなかった。
教室内に重い沈黙が流れる中、私は唇を強く噛み締める。
結局、その日は飛乱さんに掛ける言葉が見つからなかった。
飛乱さんが退学になった原因は私にあるんじゃないだろうか。
初配信を見返したら、飛乱さんは自己紹介よりも私に起きたトラブルやとにかく私の配信を見てくれるように訴えかけるだけで自己アピールを全くしていなかった。
そのせいで飛乱さんの話題はほとんど触れられず〝のっふぃの金魚の糞〟なんてまとめサイトで言われる始末だったのだ。
それに対して、私は自分がどういうVなのかを徹底的に語って見せた。
結果的にそれが功を奏して登録者は増えたのだが、それは結果論に過ぎない。
もっとスマートに立ち回れたんじゃないか。
私はそんな後悔を胸に抱えたまま、授業に臨んだ。
「乃尋」
その日の授業が終わると、鶫に声をかけられた。
「飛乱が退学になったのはお前のせいやない」
「わかってる」
「せやったらしゃきっとせい。ったく、調子狂うわ……」
今日一日、ずっと上の空だった私を心配してくれてのことだろう。
何だかんだでお人好しなのが隠せない子だ。
「……せめて最後に会っておかなきゃ」
バーチャルタレント候補生同士の連絡先の交換は禁止されている。
つまり、ここで飛乱さんとお別れになれば今後彼女と会う機会を失うことになるのだ。
授業を終えた私は荷造りをしているであろう飛乱さんの部屋へと向かった。




