お礼参り
前話
アマルダ三回目
「今日は夜更けどころか早朝まで忙しいかもしれん。しっかり睡眠はとったか」
「ばっちりです」
「ぐっすりちゃんよ」
「万全の体調でございますぞ」
ジーロ村の制圧、運搬、蘇生、売却と夕方以降の予定はかなり詰まっている。
意図的に午前を寝て過ごし、昼の鐘が鳴り響くメルバランの門外で待ち合わせて出発した。
道々、カンターが今日の準備内容を聞いてくる。
「ロームで運ぶのは馬車だよな。もうあてはあるんかね」
「当然、賃借り馬車を予約済みだ。夜でも出発できるよう割増で金を払っている」
「準備がよろしいこって」
腰を叩きながら伸びをする緊張感のないカンターだが、今日はしっかり働いてもらわねばならない。
四十人の小さな村なら、十軒程度は家屋があるだろう。となるとついでの家探しも迅速に済ませる必要がある。
昨日の夕方以降は思い思いに過ごしているため、軽い休養にもなっているだろう。そのように考えていると、真面目なコージーが一日でやり遂げた「宿題」を披露してきた。
「麻痺針装着用の金具、四人分作ってきました。靴をはいたまま取り付けられますし、ここの金具を起こすと針が突き出ます」
「へぇ、すげえな……こんなの自作できるんかよ」
「器用ですな」
「針をしまう際に毒液を注いで閉められる作りです。つま先の保護でも役に立ちますし、足音が鳴りすぎないよう底面は革張りにしました」
コージーの手先の器用さはかなりのものだった。聞けば一家で職人と防具商人を兼ねていて、自身もちょっとした防具の補修などはお手の物らしい。
「素晴らしい。期待以上だ」
「はは、やっといいところを見せられました」
またしても上向き材料が舞い込んできた気分だ。
金具は青銅で作られているが、早いうちにロームで鉄製品の加工も習得してもらうべきだろう。
「カンターも手先が器用だからな。これは金儲けにできる材料だ。考えておこう」
三人も急に考え込む様子となったが、今日の作戦もあるためいったん話題を変えることにした。
ジーロ村は最南端にある集落で、海に面した断崖絶壁に位置すること。
崖に堆積する海鳥のフンは上質な肥料となり、その出荷が村の産業であること。
回収が忙しい今頃は村と町の行き来もないことなどを説明した。
「フンねぇ。崖に積もったのをどうやって回収するんだ」
「綱を体にくくって降りるそうですぞ」
「くっさそう」
肩をすくめるカンターには気負いは感じられないが、ロウガイは朝から気合が入っている。
死体放置の元凶とも言えるマリアの故郷には、込み上げてくるものもあるだろう。
「最近は無関係な連中相手が多かったが、今日は張り切っていこうか。少しマリアについて話す」
「おっさんと交代入りだっけか」
「そうだ。先祖は勇者の血を引き、魔王討伐同行は一家の悲願だったらしい。僧侶枠はすでに王家が決めていて、いったん他のパーティで戦闘経験を積んでいたようだがな」
「へっ、利用できるもんは見境なしか」
これも一種の「ホトトギス」というやつだ。
「冒険者組合の伝言掲示板で、よくレオ殿に連絡を取っていたのは知っておりました。取り入る目的とは気づきませんでしたがな」
ふと隣を見ると、ロウガイは苛立ちのまま顔面中央に目鼻口を寄せて歯ぎしりをしていた。
「レオはロウガイが死んだら即、遺体を預けてすぐに冒険者組合所に向かった。つまりお前を亡き者にする話はついていたということだ」
無謀な狩場選択をしがちなレオだったが、帰還の判断はいつも早めだった。
そう考えると解毒ポーションが残り一つでの無茶はらしくない。だがロウガイを殺すために無理して危ない橋を渡ったと考えれば辻褄はあう。
「俺もマリアには苦々しい思いをさせられた。レオの言いなりどころか、率先してレオの意見が万事正しいと押し付けてくるやつでな」
説明も聞かず、二言目にはまとまるために俺に折れろと主張してくる面倒なやり取りを思い出す。
「口癖は『魔王討伐のため、自己犠牲と寛容の精神を持つべきです』だったか」
「ははっ、今日の展開は見えました」
察しのいいコージーが笑うも、やはりロウガイは邪悪極まる顔のままだ。
「まとめよう。一時の寄生で他パーティを利用し、レオをしゃぶって前任を亡き者にして装備も奪い、レオの意向を神の意志として振りかざす女だ。気合は入ったか」
ロウガイが口を開くより早く、カンターが口調を真似ながらつばを飛ばす。
「子供の不始末は親がわびるものですぞ! 拙僧の拙僧もぱんぱんに膨らんでおりますぞ!」
「あっはははは! 似てなくて笑いますよ!」
「くく……ばかか、似てなさすぎだろう」
「ちょ、そんな発言、今までしたことありませんぞ!」
ロウガイは針を出さずに足の甲でカンターを蹴りあげ、器用にかわしたカンターはおちゃらけた雰囲気で走り先行する。
街道のはるか先にはわずかに大陸の突端が見え、その先には海が広がっていた。
「この季節、南の海は大荒れだろうな」
下手な物真似よりもっと愉快な余興になるだろう、そう思うと足取りも自然と軽くなった。
「教会魔法を使えるものが必ずいるはずだ。特定のために怪我をしてから向かえ」
「了解です」
コージーはためらうことなく、自らの顔や腕に工具の刃を滑らせた。
このあたりに出没するオオガラスやカギヅメアリクイに害された傷跡にうまく似せているあたり、やはり手先が器用だと感心させられる。
蜂蜜の壺とワインの樽をヒノキ棒に吊り下げて肩に担ぎ、コージーは遠目に見える村へと一人向かった。
「俺たちは遠回りして村が見える位置へ進む。いったん左の山の斜面へ行くぞ」
道なき山を進みながら、コージーに伝えた手はずを二人にも説明する。
「レオとマリアからの差し入れと伝えるように言ってある。女子供は蜂蜜、大人はワインを先を争ってむさぼるだろう」
「粉は入ってんだよな」
「当然でございましょう。本当に差し入れに来たわけではありませんからな」
「あながち間違いでもない。三つの意味で差し入れだな」
「三つはわかんねぇ」
「子供は変態貴族への差し入れ、男には剣を差し入れ、女には『拙僧』を差し入れる」
「把握ちゃん」
「しばらくその言い回しを引っ張りそうな雰囲気ですな……」
「おれが考えたんだからな」
どうでもいい手柄を主張するカンターを放置し、木々の隙間から村の広場が見える場所で足を止めた。
「ここならいいか。少し待機だ」
村の広場には村人が集まりだし、たき火の用意も始まっていた。
「コージーが手を挙げたら合図だ。突入して、眠りきってない者は粉をまぶした布で落とす」
念のために布でバンダナとマスク、外套も装着して二人にも手渡す。
四十人ともなるとコージーだけで全員眠らせるのはつらい。
ある程度眠気が回ってそうなタイミングで、教会魔法を使える者を制圧して合図を出すように伝えていると説明をした。
「眠りが浅いやつは殺してもいいのかね」
「子供と若い女はできれば眠らせるか麻痺させたい。だが安全第一で構わん」
広場には各家庭からの料理も持ち込まれているようだ。
薄暗くなりつつある頃に宴会が始まったようで、コージーが村人に囲まれて何やら話をし、拍手と共に乾杯の音頭が聞こえた。
「もう少し近づく」
そろりと歩を進め、木々の隙間から顔色がやっと見えるぐらいの距離で再び足を止めた。
「コージーが寝たりしねぇだろうな」
「解毒ポーションを入れた水筒を持たせている。僧侶を特定して、そいつはコージーが止める必要があるからな」
見たところ蜂蜜もワインもかなりの勢いで全員が味わっている。これなら舌を噛み切るぐらいしなければ、逃げることすらできないだろう。
「マリアって僧侶はたしか銀髪だったよな」
先ほどからコージーが話し込んでいる男女を見てカンターが確認した。
「そうだ。おそらくあの二人だろう」
銀髪はかなり珍しい髪色で、淡い金髪同士の子供でなければほぼ生まれることはない。
おそらくあの二人が両親で、村の教会魔法の使い手なのだろう。
俺から聞いたレオパーティの情報をしゃべりつつ、いつ封じるかを見定めているようだ。
「喜べおっさん。かなり上玉だぜ」
「朗報ですな。漲ってきましたぞ」
遠目も夜目も効くカンターがロウガイの肩を叩く。
もう一度広場に目を戻すと、おもむろにコージーが小さな壺を取り出すのが見えた。
女王蜂用の固形蜜を取り出し、夫婦にそれぞれ手渡したあと、広場の真ん中に壺を置いて呼びかけている。
「そろそろだな」
瞬く間に村人が群がる中、コージーはゆっくりと夫婦の元へ戻る。
取り出した手ぬぐいを少しうつむいた夫婦の口元に、まるで看病するかのようにあてた。
村人が次々とぐったりとした様子になっていく中、コージーは右手を高く掲げた。
「行くぞ」
制圧は粉だけで苦もなく完了した。
「合計四十一人だそうです。全員集まってることは村長に確認しました。マリアの両親はこの二人、そして妹二人と弟があの三人です」
人の群れから少し離れた位置に寝かせてある少女、女児、男児をコージーがあごでしゃくった。
「まず商品にする八人を決める」
男児ニ、女児三、少女ニは文句なしだ。
もう一人はそこそこ若い女を加えて合計八人にした。
八人の手足を縛り、いったん残りの人間を村の端にある崖の突端へ運んだ。
三十三人を運ぶのは多少骨が折れる作業だった。
「ふう、しんどいぜ」
「マリアの母はよく似ているな。美人でなかなか若いじゃないか」
一途な信仰心を表すかのようなストレートのロングヘアと切れ長の目を飾る上向いたまつげは、まるで写し鏡を見ているようにも錯覚した。
両親ともに足・後ろ手・口を縛り、デトクスをかけさせる。
「お目覚めかな、ご両親」
バンダナとマスクを外しながら問いかける。二人は周囲の昏倒した村人を見て異常事態をすぐに理解したようだ。
口布にさえぎられた虚しいうなり声を上げるのみの二人を無視し、こちらの用事を伝える。
「お前らの娘には世話になった。今日は大盤振る舞いのお礼参りだ」
しゃべりながら、一番手近にあった老婆の上体を引きずり起こして剣を突き入れる。
二人のうなり声はいっそう音量が上がるが、気にせず蹴り抜いて崖の下に突き落としてみせた。
どう猛な大型の鮫、長い毒触手を波間に張りめぐらせるクラゲ、大人の胴体を簡単に真っ二つにするハサミを持った蟹のモンスターが海にはうようよとしている。
血が撒き餌となり、崖下はすぐに派手なお祭りとなるだろう。
「なに、所持品なしで放り出されても死ぬ気で奮闘すればなんとかなるものだ。俺など自分の倍もある熊や大猿のいる土地だった」
話しながらも、老いた者を次々に串刺しにしたあと投げ込んでいく。
もっとも、地形的にも海に棲むモンスターのことを考えても崖下に生還の可能性は皆無だ。
マリア母もそれを知っていて目には早くも絶望がただようが、伴侶の順番を告げる発言で目に抵抗の光が戻った。
「次は旦那の番だ。うまく海鳥の巣に紛れ込めば、面倒を見てもらえるかもしれんな。マリアの手際は見事だったぞ」
「かっはっは、崖は拳一つ分の幅だそうですからなあ。気合を入れて掴みませんと」
ロウガイが高々と笑い、両親は涙とうなり声で懇願の意思を伝えてきた。
「だが今日は愉快な夜だ。遠路訪ねてきた俺たちにおもてなしの機会があってもいいだろう」
続いて中年勢の始末をしながら母に提案をする。
「カンター、そこの家で油をとってきてくれ。料理用でもランタン用でもいい」
「へぇい」
次は一番体格の大きな中年男を少し離れた位置に引きずり、心臓に向けて剣を突き入れた。
「制限時間はこの骸の炎が燃え尽きるまでだ。満足のいく歓待ならば命は取らん。ロウガイからいけ」
油をひっくり返し、さっそくコージーが火をつけた。
マリア母の拘束を解いて自由にすると、膝立ちのまま涙を流し、目前に仁王立ちするロウガイを不器用にもてなし始めた。
マリア父は横向きの体勢のまま、血走った目でロウガイをにらみつけている。
「はは、そんな辛気臭いおもてなしでは逆に興ざめですよ」
コージーがマリア父の太ももに剣を突き入れた。
布越しの絶叫と赤く染まる下半身で火がついたか、マリア母は必死にロウガイのご機嫌をとりだす。
「へへっ、『拙僧』は満足できそうかい」
「母親のほうは覚悟も手際も今ひとつですな。娘は前任の死体放置をけしかけ、くそ勇者のけつの穴までなめるというのに」
ロウガイは腕組みの姿勢で眉をしかめ、嫌らしい表情を作った。
「時間もないのにそれではいけませんね」
「娘のほうが世渡り上手ではいかんな。旦那の目の前でしっかり教えてやろう。マリアは心を開くことが重要だと言っていたぞ」
「ウィークネス、ウィークネス」
「へへっ、開いていこうぜ」
「や、やめてっ、ああああっ――」
代わる代わるにぎやかな歓待を受けるうちに、いつしかゆらめく炎は燃え尽きていた。
「先に家探しいっとくぜ」
一番先に二度目の歓待を楽しんだカンターは家屋のほうに駆けていった。
残っていた村人も同じように崖下に落とし、とうとうマリアの両親だけとなる。
「お前たちの子供は貴族のおもちゃとして売り払う。マリアなら『お役に立てさせていただきますね』と言うところ、だっ」
「ぐあぁっ、あああ――」
昨日のように思い出せる発言を借り、マリア父も崖下に蹴り落とした。
放心状態だったマリア母に再び感情の火が灯り、絶え絶えとした息で抗議をしてくる。
「い、命は、取らないって……」
「死地に追いやっただけだ。殺してはおらん」
「うぐうあああっ」
最後に残ったマリア母にも両太ももに剣を突き入れ、うめき声ごと崖下に蹴り落とし、商品以外の村人はいなくなった。
遠く落水音が聞こえた暗い海に向かい、祈りの言葉を投げかける。
「悪いな、俺たちのためだ。だが自己犠牲と寛容の精神で納得してくれ」
締めの言葉を察していたコージーと顔を見合わせ、笑いながら崖に背を向けた。
立ち去る背中に海鳥の鳴き声がわずかに届いた。だが哀愁こもった断末魔にも似たそれは、吹き荒れる風と打ち寄せる波の音に翻弄され、夜の闇に消え入った。
まもなく5000ptとブクマ2000件が見えております。
本当にありがとうございます。
更新がご無沙汰になってますが、聖水騎士のほうも楽しみにしてくれている方がいると信じています。
こちらのポイントの伸びも落ち着いてきたので、今後は必ず聖水騎士のほうも更新していきます。
今でも気持ちはそっちがメインですので!
まだ読んでない方はぜひそちらもご一読よろしくお願いします!
ゲスい敵役に負けず奮闘する主人公のお話です。
今後ともどうぞよろしくお願いします。




