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ウグイス

前話

蘇生手段確保

「あら、本当にとんぼ返りなのね。おかえりなさい」


 結局、アマルダ宅は一人で訪ねた。

 二日を空けたのみだが、扉を開けたアマルダはさらに女の色気が上がっているように思えた。

 緩んだ口元は以前よりもつやめき、下がる目尻は以前よりも親愛を伝えてきているかのように錯覚する。


「さっき戻りました。今回はワインだけじゃなく天然蜂蜜酒もあります」

「やった。私、飲んでみたいと思ってたの」


 いっそう無邪気に笑う様子を見て、今日も特に支障なく仕込みに入れることを確信したが、アマルダは少し戸惑い気味に難色を示す。


「今日はこれからお買い物に行こうと思ってて。準備もあるし、よかったら夕方の鐘ぐらいまで、時間もらってもいい?」

「はい、突然来てしまってすみませんでした」

「あ、いいの。今日はちょっとだけ、手の込んだお料理も出してあげたいし。だって美味しいお土産を持ってきてくれてるのに申し訳ないわ」


 謝ってみせるこちらをあわててとりなす様子に、なぜか加虐心が心の底から湧き上がる。

 本当に呑気な女だ。

 気づかぬうちに、身の破滅と息子が陥る窮地は一歩ずつ近づいているというのに。

 土産に釣られているのか、それとも身体の悦びが心にまで伝染しているのか。

 おそらくは両方だろう。よだれを垂らさんばかりの喜色めいた口が記憶をよぎった。


「少し用事もあるので、それを済ませてからまた来ます」

「ふふ、楽しみだわ」

「ええ、またあとで」


 本当に楽しみだ。心からの同意と笑顔で手を振り、いったん別れを告げた。





 時間潰しと情報収集を兼ねて、大通りを挟んだ向かいの冒険者組合所へ入った。

 掲示板は変わり映えもなく、メンバー募集、狩場情報、買取希望品についてのありふれた紙しか貼られていない。

 収穫なしかと思い始めた矢先、ゴル金属の買取カウンターから一人の男戦士が立ち上がる様子が目に入った。

 防具はメルバランの最強装備、武器は炎の剣を下げている。メルバランでは売られていない武器に「収穫」の匂いを感じ取り、横目で様子をうかがった。

 男はメンバー募集の紙を一つずつ確認しているが、特に戦士募集の紙もなく、次第に渋い顔色となっていく。


「調子はどうだ」

「おっ、勇者パーティのオズバルドさんじゃねえか。抜けたってのは本当だったか」


 どうやら男は俺のことを知っているらしい。

 よくよく思い出せば、選抜会に炎の剣を持った相手がいたような気がしなくもないが、強さとしては印象に残るものではなかった。


「新規メンバーに押し出されてな。最近は、同じくそこを抜けた僧侶と組んで動いている」

「そうかあ。やはり腕利きだとすぐに僧侶もつかまるもんだなあ」


 募集がかかる職は圧倒的に僧侶が多い。

 旅の安全・効率・快適に大きく関わる教会魔法が使えるのは僧侶、賢者、勇者だが、世間一般的には後者二職は勧誘しようにも対象がいない。

 四人のうちの一枠を確実に占める一方、冒険の旅に出ようとする僧侶は少ないことが僧侶不足の主な理由だ。

 市井においても重要な役割を担うため、待遇も悪くなく、あえて危険な境遇に身を投じることもないと考えるのは自然なことだろう。


「いつぐらいから僧侶を探しているんだ」

「戦士枠の空きでもいいんだがなあ。実は半年ほど組んでたパーティの僧侶が抜けてしまってな。その直後、他の二人はちょうど残り一人の募集がかかって、独り残されたってわけよ」

「ああ、『ホトトギス』だったということか」

「だと思う。今は地元の村の教会に戻っているらしい。最初は、兄がいるから継ぐ気はないなどと言っていたくせにな」


 教会魔法の習熟のために魔積値を得ることは重要だが、僧侶一人のモンスター討伐は厳しい。特に女僧侶はなおさらだ。

 そこで冒険の旅に向かうパーティに入り、誘惑の遺跡に入れるぐらいの強さとなったあたりで、用済みとばかりに脱退する手口を使う者がいる。

 都合よく他人に育ててもらう身の振り方が、まるでウグイスの巣で育ててもらうホトトギスのようだと揶揄されているのが呼称の由来だ。


「悪い女にその気にさせられて、騙されたって気分だな。アイテムで回復や治療をするのは実入りが減るが、今は楽なモンスターをぼちぼち一人で狩りながら、僧侶から探してるところだ」


 持っている炎の剣は、念じて振るえば複数のモンスターに炎を放つことができる。

 威力はたいしたものでもないが、この大陸の弱いモンスターであれば、どこに行っても苦労することはないだろう。


「そうか。いやしかし、ままならんものだな。ロームでは戦士が足りぬ足りぬと嘆いていたパーティがいたというのに」

「へえ、本当かい」

「ロームじゃ後衛余りでな。先日も女三人、戦士を探していて『来週も見つからないなら、もう商人を最前列役で誘おうか』などと言っていた」


 持っていたサルタナレーズンの小袋を差し出し、少しつまませながら行き来している状況についても話す。


「あぁ本大陸に行きたいもんだなあ。父ちゃんから継いだ冒険心とこの剣は、こんなにも燃えてるって言うのによお」


 男は胸に手をあて、剣を横に倒して掲げてみせた。

 目には剣先に揺らめく炎が映り込み、それは口にした志を現しているかのようにも見える。


「まったくだ。ここに一人でいては、その恵体も武器も宝の持ち腐れというものよ」

「だよなあ」

「お前がロームに行けば、全員が幸せになれる。俺たちは今三人でな。三日後、千五百ゴルで同行移動を引き受けてもいいぞ」

「本当か。だがロームの冒険者パーティに、急に俺が入ってやっていけるものだろうか」


 燃える炎は一転、不安の闇へと変わった。


「強いモンスターほど魔積値は多く、パーティの差は時間がすぐに埋めるものだ。ただし着いたらすぐ、防具はローム最強装備に買い換えたほうがいいだろうな。勧誘する側にとって安心する材料となる」

「それはそうだろうな。買値はいくらだ」

「六千六百だから、報酬合わせて八千百ゴルだな。それだけ持っていけば、今の防具の売値で体裁が整う程度の手持ちにもなる。準備はできるか」

「むう、手持ちは足りないな」

「そうか、残念だ」

「いや、待ってくれ。これは俺の勝負所だ。両親の残した家があるが、本格的に大陸を出るなら売りに出さねばと思っていた。三日後となれば多少買い叩かれるかもしれんが、金は作れる」


 男はにこやかな顔でどんと胸を叩いた。


「じゃあ三日後の昼の鐘で、ここで会おう」

「おう、おれはノーキンだ。よろしく頼むぜ」


 別れを告げて外に出ると、すでに日は落ちて暗くなりかけていた。

 しかし町にはまだウグイスの声がケキョケキョと鳴り響いている。

 それはモンスターを避けて町の木々に棲むようになった日々を嘆き、広い空に恋い焦がれているように聞こえた。

恵体はめぐたいが正しい読み方だそうですが、筆者は心の中ではえたいと読んでいます。

造語ですが、正しい日本語入りしてほしいです。

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