了
あれから私はすぐに引越し、もう二度と自撮りをしないことを誓った。
今はもう結婚し、娘は今年、高校に上がる程大きくなった。
念願の学校に合格したご褒美にスマホをプレゼントした時には、娘の成長が素直に嬉しかったものだ。
自撮りさんのことを娘に話すかどうか悩んだ私は、結局話すことをやめた。
あれは、知らないほうがいいことだ。
この世をさまよっている幽霊が生きている人間の肉体を乗っ取ろうとしているのか、それとも自分の中にいる、もうひとりの自分という生き物なのか。
今の私には、もう知るすべがない。
そして、知ろうとも思わない。
あれはきっと、知ってはいけないものだったことのように思える。
一時話題になった自撮りさんも、今となってはもう見る影もない。SNS、若い者のブームというものは燃え上がるのも早ければ、冷めるのもまた早いものだ。
あの出来事は、私の中に閉じ込め、もう二度と誰かに話すことはないだろう。
そんなことを考えていると、今日届いたばかりの高校の制服に着替えた娘が、部屋から出てきた。
娘は私の膝の上に座り、髪を結ってくれと甘えてくる。
娘というものはいくつになっても甘えん坊なのだ。
やれやれと言いながら、私が髪を結んでいると、娘は買ってもらったばかりのスマホを取り出し、カメラを起動した。
「へへ、初めての写真はお母さんと一緒に撮ろうと思ってたんだー」
スマホのカメラが自撮りモードへと変わる。
私が止めようとした時にはもう遅かった。
黒い靄が画面いっぱいに広がる。
靄の中から現れた私は、あの日見せたような笑顔を、もう一度私に見せた
「やっと、会えたね」
視界が暗転した。




