弐
その話を聞いてから三日後、この日も昼間から部活があり、また圭子と二人の帰り道。
「ねぇねぇ、あの自撮りさんのことだけどさぁ……」
校門を出てすぐ、圭子は嬉嬉として私に話しかけてきた。この日は記録的な猛暑で、疲れていた私は、圭子の話に生返事を返しながら、額の汗を拭う。
「……それでね! ついに私、自撮りさんの撮影に成功したの!!」
「…………は?」
圭子は私の前に出ると、スマートフォンを操作し、私にある画像を見せつけた。
そこに写っていたのは、ちょうど今私たちが歩いている学校脇の通学路と、A子、そしてA子の顔の右側あたりに浮かぶ、謎の黒い靄
「これ! すごくない!? 自撮りさん発見だよ!」
興奮しきった圭子は、私の顔に当たるのではないかというくらいにスマートフォンを近づけてくる。私はそんな圭子をなだめながら、もう一度スマートフォンを確認する。
「何かの間違いじゃない? 大体、自撮りさんって、大男の姿なんじゃないの?」
「うーん…でもこれきっと自撮りさんだよ! 今日も夕方に撮影行くけど、来る?」
「行かないよ。暑いから帰る」
圭子は連日のように自撮りさんの撮影に行っているようで、週に何回かある部活の帰り道では必ずと言っていいほど、私に新しい黒い靄の写った写真を見せてくる。
画像は相変わらず黒いわたがしのような物しか写っていなかったが、日を重ねる度、私にはその色が薄くなっているように感じられた。まるで霧が晴れていくように、中に潜む何かが少しずつこちらへ近づいてきているような。
そして薄くなった靄の中で、誰かがこちらを見ているような気さえする。
圭子が初めて”自撮りさん”の撮影に成功してから一週間後、怖くなった私は、圭子の持ってくる画像を見ることをやめた。
部活帰りも、圭子が自撮りさんの話を持ち出さないよう、なるべく早く帰り、自撮りさんの話が始まったとしても、すぐに別の話へとすり替えた。
「ねぇ! 昨日も撮影に行ったんだけどさ、今回もね……」
「そういえば、駅前に新しいケーキ屋さん出来たってね、今度行こうよ」
「そんなことより自撮り鬼が……」
「あ、私、今日買い物して帰るから、こっちだ、またね」
いつからか私は圭子と一緒に帰らなくなっていた。
少しだけ寂しい気がしないでもなかったが、彼女と一緒に帰らない帰り道は、静かで平和だった。




