壱
「ねぇ、智子、自撮りさんって知ってる?」
高校二年生の夏休み、部活帰りに友人の圭子と帰っていた私は、彼女の口から”自撮りさん”という言葉を聞いた。
「えとね、幽霊の一種で、自撮りしている時に画面の中に現れるんだって。なんでも、二メートル越えの大男で、手には刃物を持っていて、自撮りしている人を襲うらしいよ!」
「なにそれ、嘘くさ……」
「ホントだよ! 自撮りさんを見た人は、全員死んじゃってるらしいよぉ……」
圭子は、うなだれるように頭を下げると、髪を前に下ろし、貞子のように私の襲いかかるふりをする。
私はその手を軽く払いのけると、それでも迫って来る圭子の頭を頭を軽く叩いた。
圭子は昔からこの手の都市伝説やら怪談話が大好きだ。私も嫌いな方ではないが、彼女の熱の入れ方を見ているうちに、いつしか冷めてしまった。
今回も、新しい怪談話に興奮している圭子を見ると、心の奥がすっと冷めていくのを感じる。
「全員死んじゃってるなら、どうやってその話が広がったのよ。大方、自撮りに迷惑した、どっかのおじさんおばさんの作り話でしょ?」
「……確かに。そう言われればそうだね。なーんだ、面白そうだと思ったのになぁ……」
圭子と別れ、帰宅した私は、部活で汗をかいた体を冷たいシャワーで流すと、タオルで髪を乾かしながら、何気なくスマートフォンをいじる。
特にやることもないのだが、惰性で見てしまうSNS。
どうやら”自撮りさん”という幽霊の話はうちの学校以外でも話題になっているようで、SNS上でも、その名前を何度か目にした。
「……アホらし」
SNSを閉じ、スマートフォンのカメラ機能を起動。右上に表示されているカメラのボタンを押すと、カメラが切り替わり、画面にはお風呂上がりで髪がボサボサの自分の顔が映し出される。
―――― カシャッ
一瞬暗転したあと表示された画像には、あいも変わらず仏頂面の見慣れた顔と、壁に貼られたカレンダーしか写っていない。
私はスマートフォンを閉じると、ベットの上に放り、私自身もベットへと倒れ込んだ。寝転んだままクーラーの電源をいれ、お気に入りの本を開くと、昼間聞いたくだらない話など、私の頭の中からはすぐに消えていった。




