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032 アニータの実力

こんにちわ。

現在、私はインドネシアに来ております。

これで、二回目となりますが、此方は日本と真逆で暑いです。それもジメジメしております。

如何やら雨季に入りかけの様で、雨も前が見えない程降るそうです(やばいな)。

では、皆さんは本編?をお楽しみください。

 アニータがチームに加わって既に半年が経過した。


 現在は、王都アルデレートへ向かって移動中だ。と言うのも数日前に冒険者ギルドイリード支部の支部長ギルベルトより、指名依頼が舞い込んできた。


 依頼内容は、半年前に起こったスクリーム襲撃事件の話し合いを行うとの事で、討伐に成功した者たちを集め事情聴取をするそうだ。それに、あれ以降スクリームは出没していない上、裏で糸を引いていたと思われる魔族も姿を見せていない事から、何らかの秘策を練っている可能性も含め、今後の行動の対策等も兼ねての話し合いだそうだ。


 この半年間、レオンハルトたちの行動と言えば、基本的にアニータの戦闘訓練や実地訓練など行うほかに、討伐から採取、お使いなどの依頼も数多く熟してきた。所謂、冒険者として全うに依頼を受けていたと言う事だ。


 ただ、アシュテル孤児院をアニータと共に旅立ってすぐに、女性陣が多く身内贔屓しても皆可愛らしい為、自分たちの事を知らない新参者の冒険者に絡まれたり、戦闘力の高さや魔導銃に日本刀と言う珍しい武器を使用する事で、勧誘を受けたりと慌ただしかった。


 それ以外にも、後輩たちの職の斡旋も行ったりした。交易都市イリードを始め、海隣都市ナルキーソ、商業都市プリモーロなど知人たちに声をかけ、働き口が必要か若しくはそう言う人を知っているか尋ねて回る。


 交易都市イリードでは、宿屋、道具屋、鍛冶職人トルベンの工房へ。海隣都市ナルキーソでは、ナルキーソの領主、ヴェロニカ・イーグリット・フォン・ヴァイデンライヒ子爵が推進している新料理開発の人手に加え、商業ギルドナルキーソ支部支配人ヴィーラントの伝手で商人のお店、ナルキーソ支部の冒険者ギルドへ。此処の冒険者ギルドを選んだ理由は、新人冒険者が多くチームを作りやすいと言う事と、新人育成に力を入れ始めているからで、これから冒険者になろうとする者にとっては他の街の冒険者ギルドより条件が良いと言う事、とは言っても他も徐々に新人育成に力を入れ始めているそうだが、ナルキーソ支部は最初に行ったために体制が整っている。商業都市プリモーロでは、仕立て屋ハンナのお店、その父親の経営するお店へ受け入れが決まった。


 他の街へ連れて行く子供たちには、事前に『転移(テレポート)』を口外しない事を言い聞かせて連れて行った。


 驚いたのは、何処も話を持って行ったら受け入れ許可してくれた事だろう。ダメと言われる可能性の方が高い中でこの成果は、単にレオンハルトたちとの関係を強めようとしている部分もあるが、何処もレオンハルトたちからすれば、頼りにしている場所なのでその程度の事は問題なかった。


 他にも、意外と言えばまだ、孤児院に居ても良い年齢の子供たちも早速、職にありつこうとしていた事だ。現に年齢制限のある冒険者ギルド以外の所で言えば、ナルキーソ支部の商人やプリモーロのハンナの父親のお店に八歳になったばかりの子供が、職に就いているし、他の所にも九歳の子供が職に付いた。


「お兄さん。弾倉(マガジン)用の魔石の魔力補充をお願いします」


 旅に同行する事になったアニータは、レオンハルトの事をお兄さんと呼ぶようになった。孤児院にいた頃はレオンお兄ちゃんと呼んでいたが、それは他の子供たちや自分よりも年上が多く血は繋がっていないがお兄さんの立ち位置にいた子供多くいた為、名前も一緒に呼んでいた。今は、一人しかいないのでレオンと言う呼び方は無くなり、まだ成人していないが、孤児院を離れたと言う事で、少し大人に近づいた節目と言う事でちゃん付けからさん付けに変更された。


 ただ、未だにシャルロットの事はお姉ちゃんと呼ぶし、リーゼロッテの事はリーゼお姉ちゃんと呼んでいる。ダーヴィトとエッダに関してはさん付けで呼んでいる。


 アニータから魔導銃用の魔石を受け取り、魔力を補充する。


 あの夜からアニータは、この魔導銃、試作品のアインスヴェルグとツヴァイトレーゲを巧みに使いこなしている。練習を始めた頃はアインスヴェルグのみで扱っていて、魔導銃を撃った反動に悪戦苦闘いしていた。


 何せ片手撃ちの反動が強くてできず、当面は両手で構える事になった。それに伴い基礎体力と無駄のない筋力を鍛える事も始まり、最初の十日ほどは、まともに日常生活を送れない程だった。


 あんまり酷使したつもりはなく。寧ろ過度な訓練やトレーニングは、身体に負荷を掛け過ぎて逆に悪くするから、慣らし程度に行っただけだ。ではなぜ、日常生活を起これないほどに至ったのか、それは自主トレーニングを過剰にしていたからだ。


 それが分かったのが丁度十日当たりだった。早くうまくなろうと魔導銃で的を撃ったり、肩の練習に明け暮れていた。


 発覚後は、逆に弱くなることを説明すると大人しく指導を聞く様になり、無茶をする事は無くなった。射撃能力も弓を教えて主武器にしていただけの事はあり、始めはまともに当たらなかったが、次第にコツを掴み、的に七割近くの確率で当てる事が出来るようになった。


 一丁から二丁に変えての練習。接近された時の体術と近接銃術を教え、魔導銃の属性魔法の発動練習まで行った。


 魔導銃には、魔力を貯め込みそれをエネルギーとする魔石これを弾倉(マガジン)用魔石と呼び、エネルギーに属性を与える魔石を属性魔石呼んでいる。普通の魔法の弾を撃つ時は、弾倉(マガジン)用魔石から魔力を吸い出しそのまま魔法の弾として使用するが、属性魔石を使用する場合は、弾倉(マガジン)用魔石から魔力を吸い出し、属性魔石を通って魔法として撃ち出す。そうすれば、炎の魔弾を撃ち出したり、風の魔弾を撃ち出したりする事が出来るのだ。


 この方法なら、それぞれの属性魔石に魔力を補充する必要がないし、複数の属性魔法を瞬時に切り替え、戦闘状況に合わせた属性が使えると言う事だ。


 ただし、良い事ばかりではない。属性魔石は一般的には出回らない上、出回っていたとしても非常に値段が張る代物だ。それに純度の問題も出てくる。低純度だと魔力への変換率が悪くなり、必要以上に魔力を消費するだけでなく。使える魔法も下級程度のものしか使用できない弱点がある。


 アインスヴェルグもツヴァイトレーゲも何方も、八つの属性用の魔石と四つの系統用の魔石を嵌め込む場所を設けているが、アインスヴェルグに火属性、ツヴァイトレーゲに水属性の属性魔石を嵌めている以外は空席状態だ。因みに系統用の魔石も属性魔石と呼んでいる。そうしなければ、魔石の種類が多すぎて訳が分からなくなるそうだ。まあ呼び方としては聖系統の属性魔石か聖属性魔石のどちらかで呼ばれる様で、国によってどちらかに分かれるのだとか。


 正直、そこまでわかり難いのであれば、属性魔法も系統魔法もまとめて属性魔法と呼べばいいのにと思ったのは、他の者には内緒である。


 若干、考え方が異なるだけでなく。属性だの系統だのに拘る人間も多い。


 そう言えば最近、弾倉(マガジン)用魔石の消耗が激しくなっている気がする。魔導銃を渡した当初の魔力消費量は今の四分の一ぐらいだった。


 二丁使っているから消費はその分倍に増えるのはわかるが、それでも予備も含めて一日持たない状態だ。


 一丁で練習していた頃を思い出しながら、弾倉(マガジン)用魔石に魔力を籠める。










「もっと肩の力を抜いて、もっとだ」


 数日、魔導銃の練習を行ったが、どうしても反動に恐れがあるのか、全身に力が入りすぎる傾向にある。と言うのも最初に魔導銃を撃った反動で驚きすぎて尻もちをついてしまった。その時の事が原因であるが今の所克服できずにいるのだ。


 因みに魔導銃で使用する魔弾の反動は、実弾の反動に比べてかなり抑えられているが、もしこの魔導銃に実弾銃の機能が正常に稼働していた場合は、危なすぎて実弾銃の方は使用禁止にしていただろう。


 事前に用意した的に目掛けて撃つも、当然当たる事は無い。全身に力を入れ過ぎていて、仮に当たったとしてもそれは単に止まっている的にのみ辛うじて当てれると言う結果に過ぎない。


 戦闘になれば的は動くし、前方や的に集中しすぎて後ろからの奇襲への対応がまるでできない。それどころか、的が急に接近してきた際も全身が強張っている場合は、反応は出来たとしても身体がついて行かない。


 出来るだけ全身の力を抜く様に指導をする。


「力を押さえようとするな。反動の流れを受け流すようにするんだ」


 普段は、アニータに対して此処まで厳しい発言をしないレオンハルトも、銃と言う分類の武器を使用させるのであれば、それ相応に教え込まないといけない。


 剣や斧、弓などと違い容易に生物を殺める事が出来るほどの殺傷能力を持つ武器。しかも下手をしたら、子供でも熟練の手練れを殺す事も可能にしてしまうのだ。


 何とか、レオンハルトの指示に従うように魔導銃の引き金を引いて的目掛けて撃ちこむが、やはり結果は変わらず、引き金を引いた反動時に銃身がずれてしまい的に掠めるどころか大きく外れてばかりいる。


 手本を見せる様に彼女の持つもう一丁の銃、ツヴァイトレーゲを手にしたレオンハルトは、両手で構えると的に目掛けて数発撃ちこむ。


「こんな感じに撃てば良い・・・・もう少し撃ったら今日は終わりにして、基礎トレーニングを始めるぞ」


 このような感じで、トレーニングと射撃訓練、実地訓練等を熟し、始めの頃は魔導銃の撃つ頻度が少なかったが、徐々に増えてきたと言うわけだ。


 半年前の事を思い出しながら手早く弾倉(マガジン)用魔石に魔力を込めて行った。


弾倉(マガジン)用魔石をもう少し増やしたほうが良いのかな?)


 消費が激しくなれば、その分今の様に補充する時間が必要になる。今はまだ、戦闘中に魔力切れで攻撃手段を失うと言う事は無いが、いずれはそのあたりの事も考えなければならない。


 最後の弾倉(マガジン)用魔石に魔力を籠め終えた頃に『周囲探索(エリアサーチ)』に魔物の反応を見つけた。


 現在、レオンハルトたちは指名依頼によって王都に向かう場所の護衛を行っているが、護衛を行っている集団は、彼ら以外にも複数のチームが依頼を受けている。


 (ディー)ランク冒険者たち四人で構成している剣士の集いと言う名前のチームと(イー)ランクや(エフ)ランク混合のチームが他に二つ。雑用の為に(ジー)ランクが集まっているチームの合計五つのチームが護衛や雑用で集められていた。


 因みにだが、レオンハルトたち五人は既に(ディー)ランク冒険者になっており、アニータに関しては、(エフ)ランク冒険者になっている。半年間の間に実施訓練としてゴブリン討伐など多くの依頼を熟してきたため、半年と言う期間で(エフ)ランクまで昇格する事が出来た。


 なので、俺たちのチームとしてのランクも(ディー)ランクに位置づけされているが、当初、集合場所に集まった際に剣士の集いのメンバーに雑用を担当する冒険者だと間違われてしまった程だ。


 依頼主の冒険者ギルドイリード支部支部長のギルベルトがきちんとそれぞれのチームの説明をした際は、他のチームは驚いていたが、剣士の集いのメンバーは此方を鋭く睨み付けていた。


 それぞれ割り当てられた馬車で、こっそり冒険者ギルドの職員に尋ねた所。彼らは冒険者になって早十五年、漸く(ディー)ランクと言う中堅から一流の狭間ぐらいのランクに辿り着けたそうだ。だが、冒険者になってまだ一年の俺たちがすでにその領域に至った事に対して思う事があるようだ。


 つまり、一方的な嫉妬である。


 そうギルド職員は教えてくれたが、嫉妬かどうかはあくまでその職員の見立てだと言っていた。それに対して、凡そ当たっていると判断し、なるべくトラブルにならない様に動こうと決意していたのだ。


 そして『周囲探索(エリアサーチ)』で捉えた魔物は、その剣士の集いが護衛している前方の馬車の方から反応があった。


(剣の集いのメンバーはまだ、魔物の接近に気が付いていない?どうする。相手はゴブリンの様だが、流石に馬車の近くにまで現れたら、馬車を牽引する馬たちが興奮してしまう可能性もある・・・)


 そして出した結論は、まだ誰も気が付いていない現状にあるため、気が付かれる前に狙撃すると言う事にした。


「シャルにアニータ、前方に魔物、狙撃にて迎撃してくれ」


 攻撃の指示を受けた二人は速やかに荷馬車の屋根へ移動し、弓と魔導銃を構えた。


「アニータ、敵の場所を教えるからそこを狙って」


 指でゴブリンの居場所を教える。それに合わせてシャルロットが編み出したオリジナルの魔法『視覚同調(シンクロヴィジョン)』を発動。この魔法は、シャルロットが見た物を同じように捉える事の出来る魔法で、これに似た魔法は既に存在していた。


 召喚士が召喚獣を呼び出し、その召喚獣の見た物を共有する『視覚共有(アイズシェア)』と言う魔法、それをイリード支部の冒険者ギルドで知り合った召喚士に教えてもらった。それを元に改良したのが、この『視覚同調(シンクロヴィジョン)』と言うわけだ。因みに誰でも発動可能かと言われればそうではなく。メンバーの中ではシャルロットとアニータの二人でしか発動できなかった。


 未完成もあるが他に理由もあるのだろうと現在は、そのあたりも模索中。急いで改良しなければならない訳でもないので、当面はアニータの補助として使用している。


 教えてもらった場所にゴブリンの姿を見つけるとアニータはすぐに魔導銃で狙いを定める。八体のうち四体をアニータが仕留める様で、残りの四体を倒すためシャルロットは、腰に身に着けていた矢筒から四本の矢を取り出して連続で放てるように持ち替えた。


 この段階では、レオンハルトたち以外では気が付いたものは居ないが、彼らの後ろを進んでいた冒険者チームの一人が、彼らが戦闘準備を始めた事で察知は出来ないものの戦闘の準備を始めた。


「捉えたっ・・そこっ!!」


 静かに矢を射抜くシャルロットに対し、アニータは遠距離での攻撃になると時々撃つ時に声が漏れてしまう。


 だが、それは些細な事で、アニータはこの半年、死に物狂いで身に着けた技術は確実に功を成しており、吸い込まれるように先頭の馬車たちでも捉え切れない距離の魔物の心臓部を一撃で撃ち抜いていた。


「ま、魔物は・・・・?」


 準備を終えて出てきた冒険者たちは、何処に魔物が居てどうなったのか分からず、混乱気味だったため、討伐した事を説明した。


 それから、暫く進むと先程倒した魔物の死骸が転がっているのが見つかり、回収を他の冒険者に任せて周囲を警戒した。


 殺した魔物の血で、他の魔物を誘き寄せてしまう事があるが、今回は周囲にそれらしい反応は無く。襲われる心配がない事も含め伝え終わると、倒した魔物をどうするか回収した他の冒険者に尋ねられたので、好きにして構わない事を伝えた。


 今更、ゴブリンを八匹倒した所で大した成果にもならないし、討伐証明部位を提示して冒険者ギルドから討伐金などいただいても大した金額でもない。


 倒したゴブリンは、結局回収をしてくれた雑用で呼ばれていた冒険者に譲ると言う形で、解決し、そのまま王都目掛けて進み始める。


「対して、面白い事も起こらないな」


 それから数刻後に、不意に呟くダーヴィト。だが、それがフラグだったのかと言うタイミングで、前方の馬車馬が歩みを止めた。


 そして、前方に待機していた冒険者が慌ただしく馬車から出てきて、何かと戦闘を始めた。


「何の音?」


 戦闘音に気が付いたリーゼロッテが尋ねて来たので、前方で行われている事を教えた。


「如何やら、盗賊が出たみたいだが、剣士の集いのメンバーがきっちり対応してくれているようだな。この様子なら俺たちが出なくても問題ないだろう」


 戦闘は瞬く間に終わり、襲ってきた盗賊は数名が命を落とすも残りの者は拘束した。盗賊を討伐、捕縛をすれば国から報奨金がもらえる。そして捕縛の方が、報奨金が多くもらえるのだが、大体の冒険者は討伐して、その証拠を持ち帰る方が多い。


 報奨金が多いと言っても、移動中の面倒や最低限の食事などを摂らせなければならない。食事を与えなくても良いのだが、そうなると体力の低下などで、移動速度が低下。戦闘時にはお荷物になって魔物に殺されると言う事も少なくないそうだ。


 このあたりの情報は、前に冒険者ギルドの受付の人から聞いた事があり、その訳もアニータを除く全員が理解していた。


 アニータは、盗賊に出くわす機会がなくまた、その知識を教えていない事もあり、馬車の中で盗賊に襲われた時の対処法を教えていた。


 襲ってきた盗賊は全部で十二名。うち五名が討伐され、残りの七名が捕縛される事になったが、そのうち二名が戦闘による怪我で動けない状態にあった。


 また、盗賊と戦闘を行った剣の集いのメンバーに、もう一グループ(エフ)ランクと(イー)ランクの混合のチーム。チーム名を疾風の矛と言うらしいが、その疾風の矛の二人が戦闘により負傷した。


 戦闘が終わっても馬車が動き出す気配が無い為、事情を聴きに行った結果分かった事だ。


 一人は持ち合わせの薬で対応できたが、もう一人は腕を斬り落とされてしまい出血が止まらない事と、腹部に短剣が二本突き刺さっていて、処置に手間取っている。


「私が観てくる」


 事情を聴いたシャルロットは、その怪我人の治療に名乗りを上げようとしたが、レオンハルトはそれを素早く止める。


「シャル。此処は俺が行こう。剣の集いが此方を若干敵視していたのも気になるから、手のうちは余り見せたくない」


 シャルロットを静止させたレオンハルトは、そのまま自身たちが乗っていた馬車から前方に怪我人が居る場所まで歩いて向かう。


「失礼。彼らの治療は俺がやろう」


 剣の集いの一人が重症者の治療(止血等)を行っていたが、彼の言葉を聞いて睨みつける様にレオンハルトに視線をやると、何も言うことなくその場を譲った。


 疾風の矛のメンバーが本来仲間の治療を行ったりするのだが、此処までの重傷者は初めてでしかも、仲間が二人も負傷した事で、冷静でいられなかったのだろう。経験豊富な剣の集いが、治療を行っていたようだが、それも一時的にしか過ぎない。


 治療の担当をレオンハルトにした所で結果は同じだろうと治療に当たらなかった他の剣の集いが、小声で話しているのが聞こえた。


 剣の集いの言う事も最もで、彼の状態はかなり状況が良くない。腕からの出血が多く一応止血にと傷口辺りを縛っているが、完全に止血できていない上、腹部からの出血もある。時間がかかれば出血死もあり得る状態。


 斬り落とされた腕を持ってくるように指示を出したレオンハルトは、腕が届くまでの間に腹部の処置に当たる事にした。


(短剣を抜いていないのは、流石だな。冒険者としての経験がそうさせたのだろう)


 二本の短剣を見ながら、剣の集いの対応に少し感心する。ある程度知識のある者は、無暗に抜いたりはしないが、あまり経験がない者や自信だけの者は良く、こういう場面では短剣などを抜いてしまう場合がある。


 確かに、短剣を抜かなければ治療する事は出来ないが、その場合素早く治療しなければ、その傷口から血が大量に出て失血死へのカウントダウンを速めてしまうだけになってしまう。


(一本目を抜いたら、止血に合わせて、傷口の確認だな。場合によっては、全身チェックもする必要があるか)


 治療の手順を瞬時に考えたレオンハルトは、腹部に突き刺さった短剣の一本を素早く抜き取ると『治癒(ヒール)』をかけて止血を開始。同時に抜いた短剣の刃の部分を確認した。冒険者や兵士などが使用する武器はある程度手入れされているが、盗賊や魔物が所有する武器は手入れが行き届いていない事の方が多い。


 と言うのも、手入れされていない武器は、手入れされている武器に比べて、治療後に体調を崩し死に至る場合もある。原因は、()び付いた刃物から病原菌などが身体に侵入し、破傷風(はしょうふう)などの感染症や敗血症など様々な感染症で死に至るからだ。


 病原菌や細菌の概念がないこの世界では、対処の使用がなく運任せや上級水薬(上級ポーション)などで対応するしかない。


 一般的に『治癒(ヒール)』を使える者もそのあたりの知識が無い為、傷は治せてもそれ以外は何もできていないのが現状にある。


 毒素に対する抗体の投与や抗生物質、抗ウイルス薬などがないのでどうするかと言えば、答えは簡単だ。それに見合う薬の調合ができる高位の薬師や超が付くレベルの治癒士にお願いするしかない。


 刃の確認を行ったレオンハルトは、余りに手入れのされていない状態から感染症を今後起こしうると判断し『治癒(ヒール)』に加えて『構造解析(スキャン)』『分析(アナライズ)』を使用。その結果、二本の短剣の傷口の他にも数か所の傷口からも病原菌の反応が見つかる。


 病原菌に合わせて即座に魔法を構築。この世界の魔法は想像力でその効果を上げる事が出来るのであれば、体内から不要な病原菌を取り除く事も可能である。


 現に聖魔法の中には『解毒治癒(キュアヒール)』が存在しているので、理屈さえ分かればさほど難しいものではない。毒を病原菌に置き換えた『解毒治癒(キュアヒール)』の改良版『抗菌治癒(アンチバクテリアヒール)』を作り即座に発動させる。


 似て非なるその魔法は、魔力制御(マナコントロール)が非常に難しい上に思いのほか魔力消費量も大きかった。


 『抗菌治癒(アンチバクテリアヒール)』を使用した際は、既に二本目の短剣も抜き終えている状態で、素早くその傷も『治癒(ヒール)』で直していた。


(何とかなった様だな。この魔法も今後の事を考えたら要練習だな。あとは・・・)


 一段落終えたあたりで、腕の回収に行っていた冒険者が戻ってくる。


「これがその方の腕ですけど・・・どうされるのですか?」


 誰もが思う疑問を持って来てくれた冒険者が代表の様に尋ねて来た。


「ああ。これから魔法で治療しようかと思ってね」


 斬り落とされた腕をくっ付ける事が出来る程の治癒士は、殆どいない。そんな中で、それを行おうとしているのだから、レオンハルトの答えにその場にいた一同は驚愕の表情を示す。


(くっ付ける事はさほど難しくはないんだが・・・。それよりも神経の縫合にどれだけ集中できるか)


 腕の状態を確認し、先程と同じように『抗菌治癒(アンチバクテリアヒール)』を発動させて、鋭利な刃物ならともかく、お粗末と呼べる代物で斬り落とされている事もあり、切断面がかなり荒々しい。


 持っている刀で極薄と呼べるレベルの切断面を綺麗に斬り揃える。斬り落とされた腕のみならず、本体の方の腕の切断面も同様に斬り落とした。それだけでかなりの痛みを伴うはずだが、そこは事前に用意した感覚麻痺の効果を持つ薬草で痛みを感じなくさせていたので、本人に掛かる負担は最小限に抑えられた。


 この処置はレオンハルトが施した物ではない。先に止血を行った剣の集いのメンバーによるもので、彼がそこまで見越しての対応と言うわけではなかったが重傷者に少しでも痛みを軽減させるための処置として取られていた行動だ。


 両方の切断面が綺麗に斬り落とされた事で、本来は潰れてしまう細胞核もくっ付ける事が出来る。潰れていない細胞と潰れた細胞同士をつなぐだけでは、潰れた細胞の方が後の動作に支障が出るからだ。


 今後の事も考えて、両方を綺麗に切断したのだが、普通に考えればまず行わない処置方法だ。だが、その分くっつきやすくなる上に、くっついた後の後遺症もかなり抑えられる。不便になる点としては数ミリ単位で短くなってしまった事ぐらいだが、それは些細な事だろう。


 流石に『治癒(ヒール)』では、限界があるので上位の魔法である『中級治癒(ハイヒール)』にて、斬り落とされた腕をくっ付ける。さらに細かく言えば、細胞同士だけでなく骨や血管、神経に至るまですべてを元通りに近いレベルで修復させた。


「・・・・神の御業」


 一人の冒険者が周りに聞こえないレベルの音量で呟く。そして、それは言葉通り、神の奇跡と呼べるレベルの高等技術を披露した。


「これで、腕の方も問題ないでしょうが、大量出血に加えて、腕も繋いだばかりです。最低でもこの旅の間は、安静にしておいてください」


 医師にでもなったかの様に彼の仲間に指示を出して、重傷者だった冒険者の今後の事を説明した。出血多量だった点に関して言えば、輸血があれば安心できるが流石にそこまでのものはレオンハルトも持ち合わせていない。


 なんちゃって点滴で血の量を少しでも増やす程度しかできないので、以前助けた女の子同様の処置を行い。自分たちの馬車に戻る。


「レオン助かった。彼らはこれから伸びるであろう冒険者でな。そんな彼らが、盗賊ごときで活動できなくなるのは実に残念だと思っていたところだ。それにしても戦いだけでなく、治癒に関しても高度な知識を持っているとはな」


 馬車に戻る途中で依頼主でもある冒険者ギルドイリード支部の支部長ギルベルトに声を掛けられた。


 見知った仲という事もあり、その場所で軽く立ち話をして、馬車に戻ったが、その話の最中に捕縛した盗賊の処遇について尋ねた所。次の街で兵士に突き出して、それ相応の対処をしてもらうそうだ。


 因みに、他の怪我人も『抗菌治癒(アンチバクテリアヒール)』のみ施して、怪我の具合が知れていたので、水薬(ポーション)や薬草で対処してある。盗賊の中で重傷者は、流石に水薬(ポーション)を使用するのがもったいないと言う事で、レオンハルトが手早く魔法で治療した。


 まあ、王都へ向かう一団に安静にして措かなければならない者や捕縛した盗賊と言う荷物を抱えて歩みを始める。

 


 その日のうちに街へ到着する予定だったが、時々魔物に襲われたり、安静者の容態を診たり、暴れる盗賊を押さえつけたりで、そこまで距離を進める事が出来ず、野宿する事になった。


 明日には、街に着けると言う事なので、若干遅れたぐらいで、この程度はよくある事だ。










 それから数日、盗賊はその後最寄りの街で兵士に引き渡し、休んだのち出発。再び盗賊や魔物の襲撃があっては同様に対処していった。


 そして今は・・・。


「そっちに向かったぞッ!!」


 冒険者の一人が、俺たちに声をかける。


 斬り殺したばかりの魔物から此方へ襲い掛かってくる魔物へ視線を向けると、襲い掛かってこようとした魔物は、上半身と下半身が分かれる様に斬り殺された。


「まだ押し寄せてくるのか!?」


 剣の集いのメンバーの一人が、双剣を振るいながら、一向に減らない魔物の群れを確認してぼやく。


 今の俺たちは、大量に押し寄せてくる魔物と戦闘を繰り広げている最中だ。しかも、草原や荒野と言った広く戦いやすい場所ではなく。小さな集落のど真ん中での戦闘だ。


 遡る事一刻前。


 王都まで三日程で着く距離にいた俺たちは、昼間と言う時間だが、近くに集落があるとの事で、少し早めに宿を取る事に決め、そこへ向かっていた。


 だが、集落を目前にすると、人々の悲鳴やかすかに聞こえる戦闘音。建物が燃え、煙が上空へと昇り、焦げ臭さと血の臭いが混ざり合った臭いが、一行の鼻を刺激した。


「くっそっ!!襲撃されている。急いで人々の救援に向かってくれ」


 支部長ギルベルトの指示で、戦闘が行える者はすぐさま装備を整え、数人のギルド関係者と雑用の冒険者、安静にしていなければいけない者たちを隠れる様に言いつけ、集落へ走った。


 そこからは、逃げ惑う人々を誘導したり、襲われている者を助けたりで、乱戦状態が続く。


「シャル。アニータは屋根に上って上から狙撃。エッダは、人々の避難誘導。ダヴィとリーゼは、俺と主に周囲の敵を蹴散らすぞ」


「俺たちも敵を蹴散らすぞッ!!」


「コンラート、アデリナ。僕たちは、逃げ遅れた人の救出だ。無理はするな?僕たちは今ロルフたちが居ないのだから」


 レオンハルトが仲間たちに指示を飛ばすと同時に剣の集いのリーダー、疾風の矛のリーダーもそれぞれに指示を出す。


「ベッカー、リースマンと共に避難した者たちを守れ、他の者は俺に続けッ」


ギルベルトも愛用の武器を構えて、前線に赴いた。


 襲ってくる魔物は、基本ゴブリンで構成されているが、ゴブリンに混ざってバンタムオークの上位種であるオークやゴブリンの亜種の姿も複数みられる。


 そして何より厄介なのが、三体いるオーガの存在だろう。それも、亜種の類と来たものだから余計に質が悪い。攻撃力の高いレッドオーガ。耐久力が高く並みの攻撃では傷つけるのも難しいイエローオーガ。他のオーガに比べて若干細身の小柄なブラックオーガ。ブラックオーガは、攻撃力も防御力も他に比べて低い分、俊敏力が高いので、ベテランの冒険者チームでも苦戦を強いられる個体だ。


「オーガは俺が相手をする。他の者は速やかにゴブリンどもの駆除に回れ」


 ギルベルトは、剣の集いや疾風の矛たちに指示を飛ばすと、果敢にオーガに向かって走り始めた。


 実際、通常のオーガであれば、剣の集いたちが連携をして漸く倒せる強さ。それが亜種となれば束になっても勝てない程の戦力差がある。


 ギルベルトは、冒険者時代に(ビー)ランクと言う一流の冒険者として活躍していた。現役から退きはしたが、(ディー)ランクの剣の集いのメンバーより実力は上である。


 レッドオーガの持つ片刃の大剣とギルベルトの持つ両刃の大剣がぶつかり合い火花を散らす。ギルベルトは、元々二本の斧を使うが、相手が大型の魔物になると自分自身と同等の大きさの大剣で戦う。


「どりゃー」


 レッドオーガとイエローオーガがギルベルトと戦闘を行い。かなり押され気味だが、二体を食い止めておくことには成功している。ブラックオーガも足止めをしたいが、二体が限界なので、出来るだけ早く避難してくれることを願う。


 ガアアアアアアッ。


 レッドオーガの渾身の横一閃。ギリギリの所で躱すも追撃を仕掛けてきたイエローオーガの鈍器を避ける事が出来ず、大剣で受け止めた。


 当然、オーガの方が圧倒的に力を持っているので、ギルベルトは半分近く力を受け流したのにも関わらず、後方へ吹き飛ばされる。


「ッチ。やってくれたな―――ッ!!」


 吹き飛ばされた先を追撃してきたレッドオーガ。今度は上段からの振り下ろしによる攻撃。それを間髪入れずに今度は完璧に受け流した。


 敵の攻撃を受け流す防御技。どの流派でも広く使用される技『パリィ』。主に相手の攻撃に合わせて攻撃し、軌道をずらす技だが、それを行った事で後方に建っていた家屋の一部が綺麗に斬られる。


 それだけ見ても、レッドオーガの攻撃力の高さを伺える。更に厄介なのが、これがただの攻撃だと言う事だ。


 幾度となく『パリィ』で対抗したり躱したりしていたギルベルトだが、彼も体力が無尽蔵にあるわけではない。ましてや現役時代からかなり経過している身として、そろそろ受け流したり、躱したりも余裕がなくなって来ていた。


 グアアアアアアア―――――。


 突然、悲鳴を上げるブラックオーガ。何事かと振り返ると片腕を失ったブラックオーガが膝をついた状態で、怒り狂っていた。


「ギルベルトさん。大丈夫ですか?」


 冷静に話しかけてくるレオンハルトを見たギルベルトは、彼がブラックオーガの片腕を斬り飛ばしたのだと理解した。


「ああ。助かった。しかし、君たちはオーガ以外の魔物にあたってくれ」


 オーガを食い止めておく事が出来れば、集落に住む人々の命が救われる。今回同行したチームの中で最も実力を持っていると判断している彼らが此方に来ていては、彼方側が手薄になって被害が出てしまう。そう判断しての言葉だったが、レオンハルトはそれに対して現在の状況を簡潔に説明する。


 と言うのも現在二人は、レッドオーガと言うのもイエローオーガの攻撃を防ぎながら対話していたのだ。


「ゴブリンはもう直片付きます。あの場所からシャルとアニータが殲滅してくれていますので」


 言われた方角へ目を向けると、そこには無数の魔法の矢を展開し、魔物目掛けて射抜くシャルロットと、強力な武器を所持して、見た事がない速さで敵を連続して撃ち抜いているアニータの姿があった。


 百以上居た魔物があっと言う間に殲滅されていく姿を見て、二人の殲滅力の高さに驚きを隠せない。


 さらに言えば、片腕を失ったブラックオーガが、此方を攻めてこないと思い其方にも視線を向けるとリーゼロッテとダーヴィト、エッダが連携して狂乱中のブラックオーガを蹂躙していた。


 実際、全員が全力を出せば、殆どかからずに殲滅する事が出来るが、それを行ってしまうと今度は逆に他の者たちから警戒されかねないし、面倒事に巻き込まれるようになると判断しての行動。


 だが、あまり悠長にして人々に被害が出るのも後味が悪いことから、皆が避難をしている隙を見計らって攻撃を強めたり弱めたりしている。


 今、彼らは全力ではないにしてもそこそこ本気で戦闘を始めたのには、避難していた者が全員この場を離れたからである。魔物が集落の中を徘徊しているが、人々の姿は既になく。あるのは、救出に間に合わずに無残な姿になってしまった人々の亡骸ぐらい。


 屋根の上から雨の様に魔法の矢を降らせる『アローレイン』。シャルロットの眼と同調したアニータの遠距離から連続攻撃『クイックショット』を繰り出した。魔物が進行してくる森を出た瞬間に撃ち殺される現象は、驚きを通り越して呆れるレベルだろう。


 レオンハルトも半年で此処まで精密射撃が出来るとは想像もしていなかった。彼女に魔力があれば、今よりも段違いの実力を身につけられていただろうと考えてしまう程に。


 兎も角、ゴブリンやオークなどの魔物の排除は二人に任せて、此方は適度にオーガの相手を始めた。


 普通のオーガとの戦闘経験は、数回あったが亜種は今回が初めてである。それも三種類の亜種との遭遇と言う事もあり、レオンハルトは素早く仕留めるのではなく。戦いながらそれぞれの分析を身体で体験しながら戦う。


 これは、シャルロットには珍しく理解してもらえなかったが、逆にダーヴィトは賛成してくれた。


 実際に戦闘で学ぶ経験と知識で知っている内容には相互する点が幾つも起こりえる。それを確かめる必要があると考えての行動は、女性たちからすれば、戦闘狂とみられてしまいやすい。実際にそう言った人が多いのは事実だし、レオンハルトはこれまでの経験を考えても割と戦闘狂の分類に入っているとも思える。


 なにせ、五歳児の頃から訓練を行い鍛えてきたのだから、これを普通の人が聞いたら間違いなく戦闘狂と判断するだろう。


 イエローオーガの足元を流れる様な剣閃が通り過ぎる。その際に両端にそれぞれ一撃ずついれた。


「っち。硬いな」


 腕に伝わる衝撃を確かめながら、イエローオーガを見つめる。両足への攻撃は確かに当たったしその感触もあった。しかし、当たった感触だけで斬れた感触は一切感じ取る事が出来なかった。


 その証拠に、攻撃を与えた場所は薄皮が少し切れた程度のダメージか与えられていない。


 レッドオーガの方はギルベルトが対応していたが、彼はレオンハルトが駆けつけてくるまでの間一人で対応していた事もあり、体力面に若干不安がある状態。周囲の魔物をシャルロットとアニータに任せているが、排除し終えたら其方へ加わるようにも指示を出している。


 魔法で探ってみたが、もう少し魔物の残りが居るので、直ぐに駆け付ける事は出来ないだろう。そう考えれば防御力は高いが一撃の重さが低いイエローオーガを相手にした方が良いのだろうかと考えるも。それはレオンハルトたちの感覚の問題であって、通常の冒険者たちはイエローオーガの攻撃でさえ、致命的になりうる。









 その頃、シャルロットとアニータは、ゴブリンやオークの群れを魔法や弓、魔導銃で次々に打倒していた。


「お姉ちゃん」


 アニータの声を聴いたシャルロットは、すぐさま自身が展開している魔法の範囲にアニータが担当していた場所も含め、攻撃し始める。


 その間にアニータは、魔力が空になった弾倉(マガジン)用魔石の交換を素早く行う。


「交換した」


「アニータ、北の方角にある森から複数接近している。そっちを先に対処して、お姉ちゃんはこのまま全域をカバーするから」


 シャルロットの指示を受けたアニータは、言われた通り北の方角へ視線を向ける。肉眼では厳しい距離ではあるが、何とか見ようと思えば豆粒程度には認識できる距離だ。


 そんな、標的が曖昧な状態にもかかわらず、アニータは魔導銃の銃口をその方角へ向けた。シャルロットの協力があれば、その距離でも問題なく命中させられるからだ。


 二丁の魔導銃がそれぞれ八発ずつ北の方角へ向かって撃ち、その後その魔物が倒せたかどうか確認する前にシャルロットに任せていた範囲の敵の排除に動く。


「次から次に湧いてきて」


 シャルロットが、少し疲れたように呟く。本来の実力の彼女であれば、この程度の戦闘で疲労になる事は少ない。だが、重病者への治癒や妹への『視覚同調(シンクロヴィジョン)』が思いのほか魔力消費を増加させていた。


「お姉ちゃん、皆のところに」


「アニータ、直線上は任せる」


 お互いの考えを即座に読み取った二人は、弓矢と銃口を同じ方向へ向けてそれぞれ攻撃する。


 障害物や人などに阻害されない直線上にいる魔物はすべてアニータが担当し、冒険者たちと乱戦していたり障害物で狙いにくい場所は、シャルロットがすべて狙う。彼女の得意技の一つ、変則矢。魔法の矢もそうだが実の矢も自在に軌道を操り、物陰に隠れている者まで射抜く彼女の技術は、一種の神業の一つでもあった。


 そんな二人が行う攻撃は、まるで魔物に吸い寄せられるかのように次々に命中させ、一撃で魔物の命を刈り取っていた。


魔物に押し倒され身動きが取れなかった冒険者は、突然解放された事で戸惑っている様だったが、そこを気にしていたらきりが無い。


(数もだいぶ減ったから、もう少ししたらアニータに動いてもらうかな。彼からアレを預かっている事ですし)


 魔物も残り一割を切っており、仲間が多く殺された事で、撤退している個体もちらほら出てきていた。


「アニータ、最後の詰めを私がするから、あなたは彼らの元へ向かって。あなたでは、まだ対処出来ない魔物だけど、皆の援護は出来るはずだから」


 アニータは、シャルロットの言葉に返答したのち、彼女からある物を受け取る。魔法で空を飛ぶ事が出来ないアニータの空中移動用に改良した飛行(フライト)する(ボード)。以前エッダに借りた物を改良した物と同じ種類。ただ、此方はエッダに渡している物に加えて幾つか追加機能を施している。


 なぜ、本人が使用する魔道具をシャルロットが持っているのかと言うと、単純にアニータは汎用型の魔法の袋と言った収納を所持していない。


 これは、彼女特有の攻撃スタイルである二丁魔導銃に合わせた収納用の魔道具を現在作成中だからだ。皆が持つ魔法の袋の類では使い勝手が悪いからだ。そもそも現在、他の皆の分も此処に合わせて形を変えようと考えているが、そこまで手を出せていない。それに持ち合わせの汎用型は、すべて使用しているために彼女の分がないのだ。


 だから、代わりにシャルロットがアニータの分も所持していたと言う事だ。


 受け取ったアニータ、すぐさま魔道具を使って空へ上った。


 一方、ブラックオーガを相手にしていたリーゼロッテ、ダーヴィトそれにエッダの三人は、他の冒険者に比べれば余裕に相手にしているが、実際は苦戦を強いられていた。何せ、攻撃力、防御力共にレッドオーガやイエローオーガよりも一段も二段も落ちているが、その分速さが驚異的で、三人が連携して攻撃を繰り出していても、決定打になりえる攻撃は殆ど与えられていない。


 と言うのも、三人は全力を出せないのも一つの原因であるが、周囲の建物への被害を最小限に抑えつつしかも、シャルロットやアニータが撃ち漏らしていた魔物が極稀に戦いに介入してくるのだ。


 正確に言えば、撃ち漏らしではなく家屋に浸入していた魔物で、二人の攻撃が極めて届きにくい場所にいた魔物数匹だが・・・・。


 エッダの連続突きをブラックオーガは手持ちの鉈に近いナイフ、ブッシュナイフを巧みに使用して、捌いていた。


 そこにすかさず、リーゼロッテは斬撃を、ダーヴィトは盾による打撃をそれぞれ繰り出す。ダーヴィトは牽制気味だったが、本命のリーゼロッテの攻撃は完全に死角からの一撃。


 だが、その連携攻撃ですら高速で躱してのける。


「くそっ!!これでも避けるのかよ。だったら・・・」


 リーゼロッテが避けられたことで、追撃するためにダーヴィトは急遽、踏み出した足を強引に変更して、もう片方の盾で殴りつける・・・がそれも躱されてしまう。


(かかったッ!!)


 続くように攻撃したが見事に避けられ跳躍をした所をこの機を待っていたかのようにダーヴィトは、一度目に攻撃した盾に角度を付けて上に打ち上げる。


 そのタイミングを始めから打ち合わせていたようにエッダは打ち上がる直前の盾の上に乗り、押し上げられた力を利用して、上空へ舞い上がる。その先にいるブラックオーガを目掛けて手に持った槍を思いっきり突き出して攻撃する。


 ブラックオーガも流石に空中での不意打ちに対応できない様で、エッダの攻撃は身体を捻って如何にか致命傷を避けたが、槍先は見事にブラックオーガの脇腹辺りを穿つ事が出来た。


 苦痛の叫びをあげるブラックオーガ。ここにきて初めて致命傷とまでは行かないが、かなりのダメージを負わせる事に成功したのだ。


 だが、ブラックオーガの瞳は先程の戦闘の時と少し異なり、怒りをぶつける様な目つきになっていた。


「まずいっ。お前たち直ぐの傍を離れろっ!!」


 レッドオーガと戦っていたギルベルトは、先頭の合間に見えた彼らの戦闘にあるものを感じ取った。それは、ブラックオーガが発する殺気と目つき。そして、何やら構え始めた物を見て過去に同じ事があったのを思い出し、彼らに忠告をした。


「そいつは、『フライングアサルト』を使用する気だ」


 『フライングアサルト』。短剣による暗殺技術の一つ。かなり腕の良い暗殺者が使用する事もあるその技は、本来ブラックオーガが使用していた技を自分たち風にアレンジしたのだ。その技を『フライングアサルト』と言うため、ブラックオーガが使用する方は『元祖フライングアサルト』と呼んでも差し支えがないかもしれないが、今はそこまでこだわる処ではない。


 ブラックオーガが構えた瞬間に、その姿が一瞬残像を残すように消えた。


「―――ッ!!上だ」


 ダーヴィトが捕らえたブラックオーガは、先程の平面による戦闘から建物を活用した立体的な戦闘へ変化。しかも建物の壁を足場に自分たちに突進するかの如く襲い掛かってくるため、対応に難儀し始めた。


 何せ、襲って来る攻撃は一回だけではない。何度も目で追うのがやっとの攻撃を連続して斬りかかってくるのだから、初見のダーヴィトたちは、攻撃の対応が追い付かない。


 結果的に三人はお互いを背にして背中を任せる形で、自身が対応する全方からの攻撃を裁く事にした。


立体的な攻撃に加えて、ブラックオーガの長所を最大限に生かした変則攻撃。


 三人は防戦一方になり始めたその時、上空から三人を救うためにブラックオーガの攻撃の軌道を先読みして、これからその場に現れるタイミングに合わせて、両手に持つ武器の引き金を引いた。


此処まで読んで下さりありがとうございます。

誤字脱字等ございましたら、是非教えていただきたく思います。

海外出張中でも執筆活動は続けますが、ストックがあまりないので、ホテルにいる時は基本執筆になりそう。何せ、TVをつけてもインドネシア語で話しているからわからん。

取りあえず、クリスマス用に一つ。出来れば大晦日用に一つ投稿できればと思っています。

出来るかな・・・出来たらいいなって感じで頑張ります。

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