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突然声を掛けられてびっくりして、水を零しそうになった。
アレクさんが台所の入り口に立って、こちらを見ていた。
慌てて立ち上がり、謝った。
勝手に水を飲んだ事、怒られるかもしれない。
ビクビクしながら、アレクさんの様子を伺った。
あきれたように、ふぅーっとため息をついて、もういいのか?と聞かれた。
何かいいのだろう?
私が分からないと言う表情をしていたのだろう。
「水はもういいのか?」
と再度聞かれた。
本当はもう少し飲みたがったが、頷いた。
アレクさんは、私の返事を確認すると部屋に戻るぞ。と言い歩き出した。
慌ててついて行く。
アレクさんは無言で、怒っているのか大丈夫なのか分からない。
部屋についても、とく何も言われる事無く去っていった。
冷えてしまったベットに潜り込みながら、アレクさんはいい人なのかなぁ。
と考えたが答えが出るはずもなく、だんだん温まったベットの中で眠りについた。
翌朝はリリィさんが起こしにきてくれた。
洋服もシンプルなワンピースを用意してくれてほっとする。
食堂に行くとみんなが揃っていたので急いで言われた席に着いた。
遅れた事を怒られないだろうか。
特にお咎めはなく、食事が始まった。
野菜のスープにパン。卵焼きやハムのようなものある。
大皿に乗っているのを、みんなで取り分けるようだ。
王子様の所の食事のほうが贅沢だったが、冷たくて一人きりの食事だったので、出来立ての熱々をみんなで取り分けるのはとてもいい事の様な気がする。
みんなのように、食べる分をお皿に取った。
「それだけか。」
アレクさんの声がした。
はじめ誰に言っているのか分からなかった。
みんなの視線を感じて私に言っているのだと、分かって戸惑ってしまう。
それだけって、他に何かすることがあるのだろうか?
それとも、なにかマナー違反をしたのだろうか。
こちらの世界の事は、まだ分からないから、
持っていたフォークとナイフを元の位置に戻して、アレクさんを見た。
アレクさんは複雑な表情をして私を見つめ返した。
「サクラ様、アレクはそれだけで食事が足りるのか心配しているんですよ。」
ブラットさんが、絶えかねたように笑いながら私に言い、
アレクさんにはちゃんと言わないと分からないだろうと言えば、アレクさんはぷいっと顔を背けて
「もっと食べないと大きくなれない。」
子供に言うような事を私に言った。
二人は仲がいいようだ。
ふふっ。
思わず笑ってしまった
その瞬間
みんなが手を止め私を見たので、空気がかわってしまった事を感じた。
あぁ、やってしまった。
俯いた私に、バーベナさんがまだ入れていなかったスープを入れてくれて
「さぁ、暖かいうちに食べましょう。」
と言い、また食事が再開したが、先程の様な和やかな感じが薄れた気がして
申し訳なさで胸が一杯になった。




