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あれからしばらく誰も来ず、あの時に何故声を上げなかったのか、かなり後悔することになった。
後悔先に立たず。
しばらくして部屋に来た医者らしき人が背中に何か当てるとスーッと痛みが引いて、また深い眠りへと落ちていった。
そして今、私はかなり困惑していた。
ここは、私が18年間生きてきた世界とはどうも違うようだ。
異世界。
まさか。
私が?
なんで?
どうして?
ぐるぐると同じことが頭の中でこだまする。
「いい加減、現実を受け入れろ。」
いらだった声が、私を現実に引き戻す。
昔のトラウマからか男の人が大きな声を出したり、怒ったりすると心臓がビクリと音を立てる。
怖い。
そろりと伺うように見ると、いかにも不機嫌そうな顔で私を見下ろしていた。
紺色の髪の毛に薄茶色の瞳、意志の強そうな口元。
たぶん、とても綺麗な顔をしているのだと思う。
だだ、表情が怖すぎて見れない。
「ダメだよ、アレク。彼女が怯えている。急に知らない世界に来たんだ。
戸惑うのは仕方の無いことだよ。」
優しい声に恐る恐る顔を上げると
「ごめんね。でもアレクはいい奴だから心配しないで。
そして僕の名前はレオナルド。一応この国の王子だよ。」
そう言い私の目線にあわせて屈んでくれてた。
赤い髪に黄緑色の瞳。
上品な顔というのだろうか、王子様っていうのも納得できる。
彼の切れ長の瞳が優しく微笑んでくれていて、少しホッとする。
それにしても、やはり異世界に来たのだなぁと実感した。
紺色に赤、チラッと目の端に緑色の髪の毛をした人もいたと思う。
もう一度、王子様の赤い髪を見ていると
「そろそろ君の名前を教えてくれる?」
くすくすと笑うように言われてハッとした。
私はどちらかと言えば落ち着いた、真面目な子として生きてきた。
そうしなければ、いけない環境っていうのもあったけれど。
それが、ボーっとしている。
色々これからの生活やお金の事など確認しないといけないのに。
しっかりしないと。
自分に言い聞かせるように心の中で気合を入れた。
「私の名前は、さくら。」
久しぶりに発した声は、小さく頼りないものだった。




