2話/キス
「不釣合いだね」
私がその言葉を口にすると、彼は決まって、私にアクションを起こす。まるで、不釣合いな。
「駄目。」
そう言い、威圧的な空気を体中に身にまといながら、カウンターに手をつく。
細くもたくましい腕が、カウンターに置かれ、眼の前には、彼の綺麗な顔が現れる。12も年上なのに、その綺麗な肌や体のラインは、私を官能的な気分にさせ、その感情と共に、恐怖と淡い気持ちが同居しながら、私の元へとやってくるのだ。私は、どうしようも出来ないで、いつも、その場に、凍りついたように固まっていた。
その威圧的な空気が アタシに まとわりついて そして 離さない 何かを
唇と唇が触れたと同時に、彼の体温を少しだけ感じる。
それも束の間、すぐに彼は、私との繋がりを離していく。ゆっくりと、何もなかったように。
ぼんやりと、薄暗い店内で私は、彼を見つめた。
「すきなの?きらいなの?」
私の問いかけに、彼は、困ったように笑った。
「その間は?」
「なし」
「じゃあ、答えられないな」
「どうして」
「さぁ?」
「歳とか、関係なしに、あなたは私の何か、根本を嫌ってるよね」
「嫌い?嫌いなんかじゃない」
「じゃあ、好き?」
アメリカとかモンゴルとかにある様な、果てしない大地の果てに向かって、何か質問をぶつけた様な気分だった。
彼は、私に諦めたような顔をした。
「君が好き。だけど、君が嫌い。」
彼は、小さく笑った。
「君は、昔、俺が好きだった奴に似てんの。」
彼は、その風貌や性格に不釣合いな感じの言葉を使った。けれど、すぐにその言葉は、彼の声に同調し始め、美しい音色の様に聞こえる。
「君とその子が、似てるんだ。」
「どこが」
「うーん・・・節々に」
「私は、私よ」
「分かってる。でもね、俺は、その子との終わり方は、あんまり良くないんだ」
「思い出すの?」
「あぁ。君を見てるとね」
私は、歯を食いしばった。目が潤みだす。こらえたい。彼の顔が、あまりにも切なく、私の心に冷たくドロドロしていて、消え去ってしまいそうな、曖昧な気持ちが流れ込んできた。
「俺は、君を好きだけれど、君を愛してしまえば、僕は過去から逃げ出せてない訳になる」
「そんなのただの、いいわけじゃん」
私は、奥歯をかみ締めた。下を向く。私の大好きなエスニック風の茶色のサンダルが、見えた。
「そんなの、いい訳だよ」
私の頬に、液体が流れる。冷たく、重く感じる。
「逃げないでよ、過去から」
彼は、私の涙を見ても、どうじない。
「逃げないでよ、私から」
私は、立ち上がりカウンターの向こう側の、彼の襟を掴んで、引き寄せた。そして、彼の大きな暖かい背中に手を回す。
「私は、私だから」
しゃくりあげた。ぼろぼろと、涙が出る。
「その女の子とは、違う」
私は、彼の胸を強く叩いた。
「私を見てよ」
そうして、顔を上げた。彼は、どんな顔をしてるだろう。もう、諦めたい。彼は、どんな事にも、どうじない。彼の顔を最後に見て、飛び出そう。もう、嫌だ。悲しい。




