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1話/カルアミルク


 馬鹿みたいに恋してるって、知ってるよ。

 でも、こんな男、絶対、他では絶対、見かけない。絶対、もう、出逢えない。こんなに、素敵な人は。

 運命とか、そんなの関係ないけれど、私は彼と一緒にいたい。

 これが、私の惨めで情けない恋のカタチ。



 「また、来たの?」


 平然とした顔で、一瞬だけ私を見据えると、彼は、もう一度、グラスに顔を戻した。


 「来ちゃ悪いの?」


 ふわふわの白のロングスカートを、手で押さえて、椅子に座り込むと、私は彼を睨んだ。

 彼は、目鼻立ちの整った顔をしていて、背も高い。顔がカッコいい訳ではない、雰囲気がカッコいいのだ。


 「何、飲む?」


 「カルアミルク」


 「また、それですか。はいはい。」


 彼は、少しだけ呆れ顔で、頷いた。カウンターの向こう側で働く彼の髪は、暗い照明の中に、溶け込んでいる様だった。

 彼の容姿、雰囲気、身のこなし、性格、全てが格好が良いのだ。今も、カルアミルクを作る姿も、すっごく色っぽい。


 「そんなに、見ないでくれません?お客さん。」


 「いいじゃない、お客さんなんだから。」


 彼は、私のテーブルの前に、茶色の液体の入ったお洒落なグラスを置いた。


 「どうぞ、カルーアミルク。」


 「ありがとう。」


 自分の着ている服や雰囲気なんかと、まったく場違いな感じで、私は上品にグラスを受け取った。私はそれを分かっていながら、やっているのだけれど、どうも、やっぱし悔しい。


 「今日も、しっかり、アルコール抜いてあるからね。未成年さん。」


 私が一口、カルーアを口に含むと、彼はイタズラをし終わった少年の様な笑みを浮かべた。歳には不釣合いの笑顔なのに、どうしてこうも、彼は似合うのだろう。


 「また今日も、普通のコーヒーミルクで済ませたの?!!」


 「だって、未成年だろ?」


 「高校卒業したら、社会では暗黙のルールで、お酒もタバコもオッケーなんだってば!」


 「こっちはお店を経営してるんだ。暗黙のルールでも、駄目なものは、駄目。」


 彼は、私の唇に指を当てた。触れ合うだけで、ドキリとするのに、彼はそんな事も知らないのだろうか。


 「気もない癖に・・・」


 小さく悪態をつくと、彼はムッとした。


 「12歳も歳の差があるんだよ。分かってるの?」


 彼は、優しい声を精一杯、喉の奥から出している様に言葉を出した。


 「君の事を、甥っ子とか、妹とか、そうゆう見方しか出来ないよ。」


 低音で心地よい声が、耳をくすぐる。けれど、その声で発せられる言葉は、私を落胆させた。


 「12歳差ぐらい、愛で飛び越えてよ。」


 私は、傷ついた心を隠すために、冗談っぽく笑っていった。

 すると、彼は私を見て、悲しそうに笑った。いつも、そうだ。彼は、私が笑いながら、本気の様な冗談を言うと、その顔を見せるのだ。

 そうして、いつも私はこう言う。


 「不釣合いだね」

 

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