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ホワイトデー当日、和葉と瑞樹はアフタヌーンティーに来ていた。お目当ての菓子がネットで買えた和葉はご機嫌だ。
ホテルの最上階のラウンジ。半個室でゆったりとした座り心地の二人がけソファー。窓からは春らしいぽかぽかとした陽射しが降り注いでいる。
すごい!見晴らしいいね!と和葉は目をキラキラさせている。それを見た瑞樹も笑顔が溢れる。
スタンドで出てきたアフタヌーンティーはストロベリーとホワイトチョコレート尽くしだ。
さすがホワイトデースペシャル。いつもよりデコレーションが甘め仕様らしい。
「美味しそう!くーちゃんも来れたらよかったね。」
「悪魔はいらんだろう。」
「お土産に焼き菓子買って行こうか。このマカロンとか好きそうじゃない?」
ラズベリーのマカロンを摘んだ和葉が、甘酸っぱい!と目を開いた。
「美味しいね。」
「美味しいな。」
最近少しギクシャクしていた雰囲気がほどける。
やっぱり二人の時間が少なかったのがよくなかったな。これからはデートでいろいろ出かけよう。ドライブしながら少し遠出をするのもいいかもしれない。
和葉を見つめていた瑞樹に気づいて、和葉が瑞樹のほうを見た。
お互いにっこり笑い合う。
楽しいね。と目で会話をする。
ーーブブブブブブブ
瑞樹の携帯が鳴った。一瞬眉を顰めた瑞樹だが、会社からの電話だと分かると取るしかない。和葉とのデートに浮かれていた瑞樹は、うっかりオフィスの静かな時間にデートで休むと言ってしまったのだ。
「ごめん、仕事の電話出てくる。」
瑞樹は携帯を手にすると、足早にラウンジを出ていった。
それを見送った和葉は、セイロンティーを飲みながらふう、と息を吐いた。
どうしよう。午前中はお目当てのお菓子が買えて、午後はこんな素敵なアフタヌーンティーなんて、幸せすぎる。ホワイトチョコって自分で敢えて買うこともなかったけど、このいちごとのコラボ、やばい。早くも今年のヒット商品を見つけてしまったかもしれない。
和葉がホワイトチョコレートに想いを馳せていると、コトンという音に我にかえった。
「こちらもどうぞ、お嬢さん。オランジェットだよ。」
テーブルに小皿が置かれた。オレンジピールにチョコレートがコーティングされている。
あ!これオランジェットだ!バレンタインの時に買おうと思ってたやつ!
和葉が顔を上げると、バレンタインの特別催事場にいたイケメンパティシエが立っていた。
「あっ!」
「やあ、また会ったね。」
イケメンンパティシエがウィンクした。
「あっあの!あの時買ったチョコなんですけど。」
「ね、効いたでしょ?」
「恋が叶うチョコレートって本物なんですか?」
「ふふふ。」
「あれは…あれを…」
「どうしたの?今の彼にあげたんでしょう?もう効き目が切れてきた?もっと欲しい?」
心の中を見透かされた気分になった和葉は、慌てて否定した。
「いえ!そういうわけでは。」
「…その、魔力が入ってるって聞いて。」
「うん、僕は魔族だからね。」
「え、くーちゃんみたいに?」
「くーちゃん?君は魔族を使役しているの?」
「いいえ、魔族では…ないかな。悪魔だと聞いてますけど。」
「じゃあそいつは魔族だよ。どう名乗るかは…あー…なんて言ったらいいかな、自由だから。」
「そうなんですか。じゃあお仲間なんですね。」
「ははっ、まあそうとも言えるかもね。」
パティシエはさもおかしそうに笑う。
「あの…」
魔族といえば。魔族の代表格といえば。
和葉の中の好奇心がむくむくと頭を上げる。
「何?」
「こんなこと聞いていいのか分からないんですけど…」
「聞いてごらん。」
パティシエはにこりと笑った。
それに背中を押された和葉は、
「魔王とかいるんですか?」
と真剣な顔をして聞いた。
「はははははっごめん、でも、はははははっ。君、おもしろいね。魔王、魔王か。そうだね、いるよ。」
「ええ!世界を乗っ取ったり?」
「しないしない。魔王もただの呼び名だからね。自己申告制だったり周りのニンゲンが言い出したりいろいろだけど。で、君の使役してる悪魔はどんな奴なのかな?僕も聞いていいよね。」
「…知り合いの悪魔です。」
「ぷはっ。知り合いの悪魔って君おもしろいね。もしかして彼氏の悪魔かな?」
あー…
喋っていいのかな?
どこまでが秘密なのか分からなかった和葉は口を閉じた。




