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「あの彼、おもしろいね。魔女の気配がする。呪われてるか、近いところに魔女がいるか。」
「……」
「おもしろいな。操ってみようか。」
「やめてください!」
「あはは、冗談だよ。」
でも、とパティシエは和葉の顔を覗き込む。
「どうする?彼を虜にする?君の言うことをなんでも聞くお人形さんにすることもできるよ?」
甘い毒を注ぐように、パティシエが誘惑する。
和葉は必死に首を振った。
違う、そんなことをしたいんじゃない。私はただ…
「ああ、心の底から愛して欲しいってやつ?そういう風にする方法もないことはないよ。精神が壊れるかもしれないけどね。」
「違います!そんな、操るとか、そういうことがしたいんじゃなくて…」
「なくて?」
今まで言えなかったこと。言っていいのか分からなかったこと。
「彼のことが好きなんです。ずっと一緒にいたい。好きでいて欲しい。もっと好きになって欲しい。…ただそれだけなんだけど…でも…」
和葉は言いながらどんどん下を向いていった。…自信がない。
「そっその!触れて欲しいって思うのおかしいですか?」
和葉は赤くなりながらパティシエを見上げた。
ただ一緒にいるだけじゃ嫌だ。もっと近づきたい。でも、そんなこと、恥ずかしくて言えない。言って引かれたら?そんなこと考えてるのかお前は、なんて、瑞樹は決して言わないだろうけど…
「だそうだよ、カレシ君?」
パティシエが和葉より後ろに視線を投げて言った。
和葉はぴしっと固まった。おそるおそる後ろを見ると、そこには赤い顔をした瑞樹が立っていた。
「ごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだけど…」
「あっ!えっ!やだ!うそ!」
え、いつから!いつからいたの!?
「和葉、好きだ。前から好きだった。…和葉がいいって言うならもっと近づきたいよ。」
瑞樹は和葉の手を取って言う。
「…うん。私も好き。」
言った。やっと言えた。
「その、瑞樹、引かない?私がこんなこと考えてたなんて。」
「まさか!嬉しいよ。」
瑞樹は嬉しそうに笑った。その顔を見て和葉はほっとする。
「その彼は魔女の血が流れてるみたいだね。安心して。あの程度の魔力じゃあ体内ですぐに分解しちゃうかな。」
「和葉に近づくな、悪魔。」
瑞樹は和葉を隠すようにパティシエに対峙した。
「おーおー怖いね。」
「瑞樹!この人は私の話を聞いてくれただけで。あの、ありがとうございました。」
「ふふ。また気が変わったらいつでも言ってね。君のことは気に入ったから力になるよ。」
「和葉、そいつの言うことは聞くな。もう行こう。」
「うん。」
安心して力が抜けた和葉は、へにゃっと笑った。そして、無意識のうちに目の前にあった持ってきたチョコレートを食べた。パティシエが持って来たものだ。
もぐもぐ。あ、美味しい。ごっくん。
パタン
和葉はぱたりと目を閉じてソファーの背もたれに体を預けた。
「和葉に何を食わせた!」
瑞樹が和葉の体を抱きしめながら叫んだ。
「何ってオランジェットだよ。知らない?柑橘ピールのチョコレートがけ。たしかに柑橘ピールを煮る時に少しリキュールは入れたけど、ほとんど蒸発してアルコールは飛んでるはずだよ。それよりちょっとお疲れ気味だったんじゃないかな。目の下にクマができてるし。なんだかいろいろ悩んでたみたいだし。」
そう言われると瑞樹も弱い。
「うっ。そうか。和葉、大丈夫か?」
声をかけてみるが、和葉はくーすか気持ちよさそうな寝息を立てている。
「お詫びに部屋を取ってあげるから休んでけは?」
「いや、家に帰る。」
「意識ないまま運ぶの大変だよ。それに、その状態で帰ってご近所とか大丈夫なの?格好の噂の的になるよ。」
「そっそれは…」
確かに厳しかもしれない。瑞樹はなんと言われようと気にしないが、和葉は独身の女性だ。
瑞樹はしぶしぶホテルに泊まることにした。
まあ和葉が起きたら帰ればいいんだし。
「ホテル代は払う。」
「はいはい、〇〇号室押さえておくから。落ち着いたら行けばいい。」
「すまない。助かる。」
パティシエは手をひらひらさせながら去っていった。




