31、ドラナルドに帰ろう
舞踏会も終わり、私達はドラナルドに向けて出発しました。もうこの国に来ることは、二度とないでしょう。
すぐに帰ることにしたのには、理由があります。舞踏会の後、私に嫌がらせをしていた令嬢や貴族夫人、貴族達が一斉に謝罪がしたいと押しかけて来たのです。ゆっくりするどころではありませんでした。別に謝罪が欲しかったわけではないので、皆さんにお会いすることなく、急いで出発したというわけです。
「何だか、慌ただしかったですね」
「すぐに出発しなくても、よかったと思うが? 謝りに来たのだから、謝らせてやればよかったんだ」
「それでは、謝ったことで満足してしまうではないですか。私は許さないと思って、これから先も同じことをしないように心がけて欲しいのです」
お姉様のような人にはなって欲しくない。だから、皆さんは反省して生きてください。
「君はすごいな。そこまで考えていたとは」
「すごくなんかありません。1番身近だったお姉様を、改心させることが出来ませんでした」
「それはアナベルのせいじゃない。イザベラには、良心というものがない。いくら改心させようと頑張ったところで、無理だったんだ」
良心……溺れた私を見捨てた時の、お姉様の目を見た瞬間、悪魔だと思いました。冷たくて、おぞましくて……あの時から、私はお姉様が怖かったのです。だけどもう、怖くなんてありません。
ルーク様が居てくれるだけで、私は強くなれます。
「ルーク様……ありがとうございます」
「急にどうしたんだ?」
「お礼が言いたかっただけです」
ルーク様はにっこり笑うと、私のとなりに座り、肩を抱き寄せました。
「お礼は言葉だけ?」
「え……?」
「君からキスして欲しい。感謝は、態度で示さないと。ほら……」
唇を尖らせながら、私のキスを待っているようです。
「……何をおっしゃっているのですか? 私の感謝の気持ちが台無しです! まったく!」
「やっぱり君はツンデレじゃないか! 」
「そうですね。私はツンデレです。何か文句ありますか?」
「……ありません」
私が素直になれるのは、いつになることやら……
―ブライト公爵邸―
「調べはついたか?」
「はい。奥様は、ホーリー侯爵と関係を持っていたようです。それを夫人に知られた後も関係は続き、夫人が妊娠をしたことで、奥様はゴロツキを雇い暴行させ、流産させたようです。それと、相手はホーリー侯爵だけでなく、調べがついただけでも30人はくだらないかと……
アナベル様の元夫だった、エルビン様もその中に含まれています」
「とんだアバズレだな。いや、娼婦か。そんな女を、私は信じていたとはな」
ブライト公爵は、溜息をつきながら頭を抱えた。
「それだけではないようで……」
「まだ何かあるのか!?」
「やはり、夫人を殺したのは奥様のようです。ホーリー侯爵に夫人を殺させ、自首しようとしたホーリー侯爵も事故に見せかけて殺したようです」
「はあ……あの女は、なんてことを……」
「調べたことを、役所に知らせますか?」
「……いや。知らせなくていい。私がこの手で裁いてやる。
イザベラを捕らえ、地下牢に入れておけ。それと、イザベラと関係を持った男達を連れて来い。
エルビンはアナベル様のことがあるから、捕えなくていい」
イザベラはすぐに捕まり、邸へと連れて来られた。
「離しなさいよ! 私を誰だと思っているの!?」
連れて来られる間、ずっとこの調子だったイザベラ。
「誰だと言うのだ?」
イザベラが騒いでいる声を聞き、ブライト公爵は姿を現す。
「旦那様! 助けてください! この者達が私を無理矢理……」
「お前を捕まえさせたのは、私の命令だ」
イザベラは、驚いた顔をしている。
「どうしてですか? 私は旦那様に尽くして来ました!」
白々しく嘘をつくイザベラに、ブライト公爵は怒りが込み上げてきた。
「私に尽くしただと? 何人もの男と関係を持っておいて、よくそんな嘘を平気で言えるものだな。イザベラを牢に入れておけ。
お前は俺が裁いてやるから、覚悟しておくんだな」
ブライト公爵は、背を向けて奥に消えて行った。
「旦那様! 旦那様ーーー!!」
イザベラは暗い牢に放り込まれた。




