36、決闘
魔物発生から34日目──
各学校から生徒や住民など約500人がショッピングセンターの移住を希望してやって来た。
最初は移住者をバスに乗せて護衛しながら安全経路を使って送迎していたのだが、人数も多く、志雄子小と正忠大は大回りになって時間もかかったので、途中からヤマタノオロチを討伐したときに得た《転移石》を匿名で寄付し有効活用してもらうことにした。
転移石の片方をショッピングセンターに設置し、もう片方を全ての学校と安全経路で繋がっており、かつ、色々と方針や対策の話し会いの場として重要視されてるカキ工拠点に設置されることとなった。
おかげで、人の移動だけでなく物資の運搬などがとても効率よく進んだ。
そして現在、ショッピングセンター拠点に約500人、カキ工拠点に約600人、志雄子小拠点に約350人、正忠大拠点に約500人、北校拠点に約450人の人が生活しているらしい。
一ヶ月たって各学校には多くの人達が避難してきてはいるが、町の人口を考えると全然少ない。
魔物発生初期にどれだけの人達が抵抗できずに殺されていったのかが伺える。
最近はどの遠征パーティもショッピングセンターを居住空間にするための設営や、地下の大自然空間を農地にするための開拓に手を回しているので遠征は進んでいない。
そして、異世界魔人のシルバは"ショックで記憶を失った外国人を保護した"という設定で受け入れられた。
とりあえず、この世界の常識やら知識を教えている段階だ。
そしてシルバの日本人とはまた違った可愛いさで男性陣からの注目を集めている。
だが、シルバは俺にしょっちゅうべったりとくっついてくるので周りの男性陣達からの嫉妬の視線が痛い。
なんだか夏子まで機嫌悪くなるし、
挙げ句の果てには地下の農地開拓作業中─
─────────
〜果たし状!〜
赤井涼夜、お前に決闘を申し込む!
正々堂々と俺と戦え!
今日の正午にショッピングセンター中央テラスに来い!
〜《野球部隊》パーティリーダー、大石
────────────
─と書かれた紙をくるんだ石が俺に飛んできた。
「まったく…本当に勘弁してくれよ」
本当に頭を抱えてしまいたくなる。
こんな紙無視してもいいんだが…相手が大石ってことが気になる
ふと時計を見ると正午までは残り15分。
果たし状を申し込んですぐ決闘って…
正々堂々とかいいながらこちらの準備とか考えないのかよ
仕方ない─
「シルバ、ちょっと用事ができたから抜けるわ。夏子達が来たら適当にごまかしといてくれるか?」
夏子達は現在、近くに流れる綺麗な水源の調査に向かっており、今ここには俺とシルバしかいない。
「えー、自分で伝えればいいじゃん!連絡とれる指輪もあるんでしょ?」
シルバは面倒くさそうに言う。
俺が汗水たらして畑を作るため、木を切り倒し、切り株を除去し、畑を耕したりと頑張ってるなか、ずっと日向ごっこをしていただけのシルバにこんなことを言われるとさすがにうざい。
「それぐらい頼まれてくれてもいいだろ?この用事はあんまり知られたくないんだ。特に夏子には」
決闘を申し込んできたのが大石だからな
「仕方ないなー!じゃあ、アカイのこと聞かれたら"大がヤバくてトイレに行った"って言っといてあげる」
「…まぁ、それでもいい。じゃあ行ってくる」
そうしてシルバに伝言を残し、俺は長い螺旋階段を登って地上へむかった。
螺旋階段を登り終えるとそこにはヤマタノオロチがいた球場のように広く、暗い洞窟に出る。
ここは現在、スポットライトが出口まで設置されてるだけだが、今後は農作物及び物資の保管場所兼、ショッピングセンター内に魔物が押し寄せてきた時の第1避難所とされるらしい。
転移石も最終的にここに固定される予定だ。
そうして、そこを通りすぎ地上への階段をさらに駆け上がる。
階段を登り終えると人で賑わうショッピングセンター内の一階に出た。
移住してきた多くの人が商品棚の移動やこびりついた血痕の清掃等の作業をしていた。
皆、表情は明るくご高齢の方も張り切って作業している姿が見てとれるので嬉しい限りだ。
「ってそんなこと考えてる場合じゃない!」
壁に掛けられた時計を見ると正午まで残り4分しかなかった。
俺はテラスまで急いで走る。
テラスはそこそこ広く、イベントとかでは舞台などが設置されたりする。
そして現在テラスにあったテーブルや椅子はどかされ、中央に大石が立ち、その周りを三十人ほどのギャラリーが立っていた。
俺がテラスについたのは正午ぴったりだった。
俺が現れるなり周りのギャラリーが「ハイオーク戦の英雄が来たぞ!」「まってました!」と騒がしくなる。
大石「逃げずに来たみたいだな赤井涼夜!」
大石は俺に向かって堂々と言った。
「別にこんな急な呼び出しなんて無視してもよかったんだがな。それでこの人だかりはなんだ?」
「なに、《ハイオークナイト戦の英雄》と決闘するっていったら勝手に集まっただけだ。そして来なかったら根性無しとして噂になったろうけどな!」
ギリギリの時間に果たし状を出しておきながら…
「で、要件はなんだ?」
「だから決闘だっていってんだろ!」
「なんで?」
「くそがっ!お前、青景と付き合ってるくせに最近外国人少女とイチャイチャしたり《北校の聖女》白川恵さんと親密に話してたりしてんだろが!!」
夏子は偽の恋人だし、シルバは責任で面倒みてるだけ、恵は元カノってだけなんだが…
というか恵って《北校の聖女》って呼ばれてるのか…
「俺は思うんだがよぉ!お前【魅了】とかのスキル使って女をたぶらかしてんじゃねぇのかぁ??」
大石はわざとらしく周りに聞こえるように大声で言った。
なるほど。大石の目的は俺の評判をおとすことか。
「【洗脳】の件でもそうだったが【魅了】なんてスキルはいっさい使ってない!本当マジで、言いがかりは止めてくれないか?」
こんなのやつが現れるから目立ちたくなかったんだがな
「挙げ句の果てにはハイオークナイトの戦いでちょっと活躍したからって《ハイオークナイト戦の英雄》とか呼ばれて調子乗りやがってよぉ!」
「調子にのったつもりはないんだが…逆に目立って困ってるぐらいなのに。それで?大石は俺に嫉妬して決闘を挑んできたってわけか?」
「うるせぇ!赤井涼夜!俺と青景を賭けて勝負だ!俺が勝ったら青景とは別れてもらう!」
「随分自分勝手な要求だな?というか大石はすでに夏子にフラレてるんだろ!」
「関係ねぇ!女は、当たって砕けても諦めない心の強い男に最後には折れて好きになるらしいんだよ!だからその為にもまずは俺が勝って青景にフリーになってもらわないと困るんだよ!」
「どこから聞いた情報か知らないが、脈のいっさいない男は何度向かってきてもウザがられるだけだと思うが……」
「う、うるせぇ!お前の意見なんて聞いてねんだよ!」
本当にキレまくってるな。
口も悪ければ気も短い…こいつは夏子とは釣り合わない
「そうかそうか。じゃあ俺が勝った時は夏子のことはきっぱりと諦めてもらおうか。夏子は誰にも渡すつもりはない!」
「いいぜ!万が一俺が負けた時は男としてきっぱりと諦めてやる」
「どこからその自信がくるんだよ…」
「とりあえず赤井が約束守らない可能性もあるから【契約】スキルを結ばせてもらう。サラリーマンのおじさん来てくれ!」
大石は周りを囲むギャラリーの中から【社畜の魂】パーティの一人を呼びつけた。
「大石君、おじさんとは酷いな~。僕まだ26だよ?」
呼び出された男性はこんな世界になってもスーツ姿をピシッと着崩さない物腰弱そうな男性。
「俺からみたらおじさんだ」
「あはは…それじゃ、【契約】スキルをかけるね。大石君が勝ったら赤井君は青景さんと別れる。赤井君が勝ったら大石君は青景さんをきっぱり諦める。でいいよね?」
【契約】スキルはお互いの了承を得て成立し、確実に契約内容を強制させるスキルだ。
「おう!」
「ああ!」
俺と大石は了承し契約は発動した。
「それじゃ僕はこれで失礼するね」
と言って男性はギャラリーの中へと戻って行った。
大石「それじゃ、決闘を始める前に基本的なルールを決めとくぜ」
「ルールか…そうだな」
「まずは、基本的なこととして赤井が俺と赤井自身に5枚づつ【バリア】を付与すること。そしてその5枚を先に消費した方の負け。じゃないと大怪我をするだろ?」
俺が【バリア】スキルを持ってることは完全に知られてるな。
恵の【結界】スキルと同じだからスキル詳細もバレバレだな。
恵は公表してるみたいだし。
「考えたな大石。"怪我をしないように決闘する"って大義名分で俺の【バリア】スキルを戦闘で使えないようにしたのか」
「固定結界とやらで閉じ込められたら敵わんからな!当たり前のハンデと思え」
「ふっ、そうだな」
「そして最後に、周りの人や建物に被害が及ぶようなスキルや銃火器の仕様禁止─」
確かに最大火力の極炎魔法なんて使ったら大変なことになるしな
「了解だ!じゃあさっそく─なんのつもりだ?」
と青剣を構えようとしたのだが
大石は俺に手を差し出していた。
「決闘開始は握手してからだ」
大石は試合前のような真剣な顔だった。
どんな競技でも作法?や挨拶みたいなスポーツマンシップがあるし…
「ああ。恨みっこ無しでよろし──ん?!うわっ!」
─バシャァ!
俺は快く握手をした。─と思ったら急に大石は俺の手を引っ張りバランスを崩させ、俺に大量の液体をぶっかけた。
「くそっ!なにするだ!」
俺はすぐに立て直しバックステップで大石と距離を取る。
「不意討ちも立派な作戦だろ?それより今何をかけられたかわかるか?」
大石の言葉に警戒を緩めず全身にかかった液体が何か考えた。
「この匂い……ガソリンか!」
「そうだぜ!これで赤井お得意の【火剣】は使えねーだろ!引火して火だるまになりたいなら使ってくれてもかまわねぇけどな!」
バリアの次は【極炎魔法】も封じられたわけか。
よく調べてる…というか、大石に初めて会った時に火剣は俺がみせたんだったな
「大石も危険物取扱者資格を持っていたんだな」
【危険物生成】スキルを手に入れるための職業【危険物取扱者】持ちは数少ない。
今でこそ増えたが俺を含めて30人もいないだろう。
「俺は危険物の資格なんて持ってねぇ…よっと!」
大石は右腰のウエストポーチから手裏剣を取り出し、俺めがけて次々投擲した。
【空間認識能力】【先読み】発動!
─キンキンキン
俺は手裏剣を次々と青剣で弾いたり避けてかわす。
空間認識能力でよくわかった。
俺の背後はデカイ花壇が場所をとってるので観客がいない、だから大石は躊躇なく手裏剣を俺の方へ投擲できた。逆に大石の背後にはギャラリーが大勢いるので青剣は投擲できない。
大石は勝つための入念な下準備ができてるってわけか
「じゃあどうやって【危険物生成】スキルを手に入れた!!」
俺はハルが殺した相手からスキルを奪えるかもしれないという話しをふと思いだした。
「勉強したからだよっ!仕方ねぇ!特別に公表してやろう!職業【学生】で獲られる【学習】スキルはな、ただテキストを速く読めるだけの使えないスキルだと思われてるようだが、実は違う!テキストを何度も何度も【学習】で読み返しいるとな、職業は手に入らないが関連したスキルが手に入るんだよ!」
「初耳だな。つまり何度も危険物取扱者のテキストを読み込んで【危険物生成】スキルを手にいれたというのか?」
「そういうことだ。理解力と根気のいる作業だったぜ。二週間寝る間を惜しんで読み込んでやっと昨日習得できたんだからな」
大石は余裕な感じで話しを終え、俺に続々と手裏剣を投げてくる。
弾かずに避けた手裏剣は【軌道操作】と思われるスキルでブーメランのように俺めがけて戻ってくる。
かといって弾き落とそうとしても弾いた時に火花が飛び散るので引火しないよう一つ一つ慎重にならざるを得ない。
それとなぜかいつものように体が上手く動かない。
俺の周辺をぐるぐると飛び回り死角から狙ってくる手裏剣を【空間認識能力】と【先読み】でなんとか避けているが、致命傷にならないような小さな切り傷は沢山受けた。《超高速再生》効果の固有スキル【神様の応援】のおかげで傷はすぐにふさがるので周りの人には無傷だと思われてるようだが……
「あー!鬱陶しい!【創造:金網】!おらぁぁ!!」
俺は【創造】から1m×1mの金網を創りだして振り回し、手裏剣を全て叩き落とした。
「やるな……【スティール】」
大石は【スティール】を使って俺の足元に落ちた手裏剣を手元に引き寄せた。
「それじゃあ今度は俺から攻撃させてもらう!」
俺は大石向けて青剣を構えながら突っ込む。
大石はそれに対し手裏剣を次々放つが、俺は【創造】から30㎝×40㎝の木製の盾を創り出し全て受け止める。
全ての手裏剣が盾に突き刺さったことを確認し盾を後方に投げ捨てる。
盾の重さと距離的に【スティール】で引き寄せることは不可能だろう。
俺は青剣を振りかぶりながら接近し大石の胴体に青剣を両手で振り下ろす。
大石は焦った様子で左腰に携えていた鎚矛を構えて青剣を受け止める。
数秒の鍔迫り合いが続く。
「赤井よぉ!気づいてるか?」
「何がだ?」
「徐々にステータス値が下がってることにだよっ!!」
大石はニヤニヤしながら言った。
確かに気づいてる。
遠征パーティのレベルは今のところ高い人でも30らしい
だから今の鍔迫り合いで俺と大石のレベル差と青剣の重量を考えれば(大石に力値の補正系スキルがなければ)俺が押し勝ってるはずだ。それにさっきの手裏剣攻撃程度で切り傷を負うようなことは普段ならあり得ない。
「俺に何をした?!デバフ系スキルなんて聞いたことないが!」
俺は真剣に大石に問う。
「ははは!いい顔だ!特別に教えてやろう俺の固有スキルを!」
「固有スキルだと!?」
俺以外に固有スキルを保有してるやつなんて聞いたことがない。
「そうだ!俺の固有スキル【嫉妬】は、触れた相手のステータス値を戦闘中のみじわじわと時間経過とともに最大で半分まで減らせるんだぜ。どうだ凄いだろ?」
最初の握手で発動させたのか。
なるほど、時間経過とともにか…
【学習】スキルの裏ワザをわざわざ話してくれたのも単なる時間稼ぎだったか。
いや?ただ、自慢したかっただけか?今の説明もそうだが、自分が凄いって思われたくて。
「ああ、凄いな。【嫉妬】…ね。劣等感や承認欲求の塊みたいな大石にはお似合いの固有スキルだ」
「うるせぇ!だまれぇぇ!!!」
大石の鎚矛は【鎚矛(光)】スキルの効果によりテラスを包みこむような目映い発光を一瞬放った。
大石自身は直前に目を閉じて目眩ましを回避しながら俺の青剣を弾き飛ばす。
「えっ?うわぁぁ!」
ドサッ!─バリン!─バリン!バリン!バリン!バリン!
目眩ましで怯んだ俺を、その隙をついて大石は反撃を許さない鎚矛の猛攻で俺のバリアを5枚破る────
──という作戦だったみたいだが………
「俺の勝ち。お前の負けだ、大石」
俺は地面に転がり込む大石に向けて青剣を向けながら言い放った。
大石はとても悔しそうな表情を浮かべた。
周りのギャラリーも目眩ましの残光が消え、その光景を目にして盛り上がった。
いつの間にか人だかりは増え百人以上が周りにいた。
「ハイオークナイト戦の英雄の勝利だ!」「眩しくて決着が見えなかったー」「赤井君かっこいい!」「続けて第2ラウンドやれー」等の歓声が周りを包みこんだ。
………
「くそっ負けた……おい赤井。どうしてあの急な発光の中で動けた?」
大石も悔しながらも負けを認め、俺に疑問を問う。
「俺には【空間認識能力】ってスキルがあるからな。例え周りが見えないような発光の中だろうが暗闇の中だろうが関係なく目を瞑っても相手の動きは認識できる」
そう、俺は【先読み】で大石が目眩ましをすることが予めわかっていたので、突然のことに驚いて怯むことはなかった。
それどころか、大石自身は発光中、自身も目眩ましに巻き込まれないために目を閉じた。その瞬間を狙って俺は大石の脚を蹴り崩し、転倒させ、青剣での連続攻撃でバリアを全て破った。
「ちっ!赤井を張り込んだりして情報をもっと集めてから挑むべきだったか……」
「はは…それはさすがに止めてくれ。でも、俺もあれ以上時間をかけてたら負けてたかもな。正直大石を見くびってた」
【嫉妬】の効果で時間経過で弱体化しただろうし(【ブレイク】で解除できただろうけど)、【バリア】【極炎魔法】も封じられ、人の目もあるから【瞬間移動】【収納】などのスキルは使えなかったしな。大石の隙をつくことが精一杯だった。
俺は転げた大石に手を差しのべた。
大石もそれに答え俺の手を掴んで起き上がった。
「……しょうがねぇ。【契約】もあるし、約束通り青景のことは諦めてやる。金輪際近づかねぇでやるよ」
気づくと低下していたステータス値も元に戻っていた。
「ありがとう」
「感謝すんじゃねぇ。俺ばかり好条件の決闘だったんだ。あと……そのなんだ…青景を不幸にしたら許さねぇからな!」
「ああ誓って、夏子は俺が命に代えても守る!」
大石はテラスから走り去った。
そうして、俺と大石との決闘は幕を閉じた。
…………
というか…もう完全に目立ってしまったな。
周りに集まった観衆の騒ぎを見て改めて思った。
これは俺も早く立ち去った方がいいな…
「私らのパーティに入らない?」とか「今度はオレと一戦しようぜ」「付き合って」とかいう声が飛んできてる。
立ち去ろうとした、その時、俺は観衆の中に夏子、明良、黄瀬、シルバの姿があることに気がついた。
「なんで…ここに?!」
俺は夏子達のもとへ駆け寄って尋ねた。
明良「なんでって、正午からは昼ご飯の配給があるから地下から上がってきたんだろ」
そう言えば正午は昼の配給時間だ。明良はいつも正午前には配給場所に並んでたな…
黄瀬「それでアキ君が人だかりができてるって連絡してきたから急いで上がってきたんです」
夏子「涼君、なんで大石君と戦ってたの!」
夏子が顔を真っ赤にしながら真剣に問い詰める。
「えーっと…決闘?」
明良「夏子を賭けての男同士の戦いだろ?涼夜、『夏子は誰にも渡すつもりはない!』とか言ってたな!本当に笑ったぞ!」
黄瀬「『夏子は俺が命に変えても守る』とも言ってましたねー!」
明良と黄瀬が俺をいじるのを楽しむようにニヤニヤしなが言った。
聞かれてた……恥ずかしい。
恥ずかしさのあまり俺も顔が真っ赤になる。
「もしかして…夏子も聞いてたりする?」
夏子に尋ねると夏子はうつむきながら小さく頷いた。
恥ずかしい…
「いや!あれは大石が「夏子を賭けて決闘しろ」って言うから、諦めてもらうために偽の恋人として仕方なく!」
明良「─のわりに、仕方なくって感じじゃなかったけどなー」
シルバ「あーあ、アカイの言ってた"本気で好きと思える人"ってやっぱりナツコだったんだー。こりゃ、私に勝ち目ないのかな…」
「だから違うって!そ、そんなことより昼飯食べたか?」
明良「あっ!忘れてた!」
「じゃあ、混む前に行くぞ!俺は浴場で体に染み付いたガソリン落としてから向かう!」
明良「おう!」
俺はそのままその場を誤魔化し明良とともに走り去った。
◇◇◇
黄瀬「逃げましたね…アカイ先輩」
シルバ「それでナツコはアカイのことどう思ってるの?」
シルバは夏子に尋ねた。
夏子「………好き…かな」
夏子は恥ずかしそうにポツリと言った。
それに対しシルバはため息と「あ~あ…」とガッカリする。
黄瀬「えっ!やっぱり好きなんですね!赤井先輩のこと!」
夏子「うん…どうやら私…涼君が好きみたい…本人には言わないでね。…ん?というかやっぱりって…桃ちゃん気づいてたの?!」
黄瀬「それは、まぁ、最近の夏子先輩の様子を見てれば…」
夏子「えぇ!!」
黄瀬「だ、大丈夫ですよ!多分、うちの鈍感男連中は気づいてないと思います!勘ですが!」
黄瀬のフォローに夏子はホッと胸を撫で下ろす。
夏子「それと、シルバ。そういうことだからもう涼君にベタベタしないでちょうだい!涼君は昔、女の子を傷つけてしまった経験があるらしいからシルバをはっきりと拒絶しないけど、本当は困ってるはずよ!」
シルバ「……はいはいわかったわかった。どうせ脈ないのは分かってたし、さっきのでもう諦めがついたしね!」
シルバは少し悲しげな様子を見せるが、いつものように明るい表情で言った。
黄瀬「ま、まあ、まあ、これからも変わらず仲良くしましょうよ!」
夏子「そうね。…なんか、ごめんなさい。シルバも同じ気持ちなのに…私だけ言いたいこと言ってしまって…」
シルバ「もういいって!気にせんで!これからもよろしくね!」
そうして夏子とシルバは仲直りの握手をして終わったのだった。




