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地球ダンジョン  作者: 涼夜
37/39

37、シルバ・ゴルディ


私はシルバ・ゴルディ19歳のヴァンパイア


魔人族の街で母と二人で暮らしていた。


私達魔人族と人族は長い間争っている。

数年前から冷戦状態になったものの、私の父は人族との戦争に参加して人族に無惨に殺された。


私達、魔人族は実は人族以上に血族を大切にするのだ。

私もその例外ではなく大切な父を殺した人族をとても憎んでいる。


だけど、それでも人生を楽しんでいた。

自分で言うのもなんだけど、容姿やスタイルが良かったので街の演劇倶楽部にスカウトされて活躍した。

活動しているうちに【演技】スキルも習得し、どんな場面でも色んな表情を出せるようになり、ファンも沢山できた。


魔人軍の軍人さんのファンからはこっそり人族の捕虜から採血した血を何度もプレゼントされた。

魔人族の中でも人族の血を飲むのはヴァンパイアぐらいしかいないけど、軍人でもなければ市民が飲める機会なんてそうそうない。

なのでプレゼントされた小瓶に入った血を喜んで飲んでた。


魔人軍には色んな部隊がある。


数だけ多い悪魔部隊、武具の扱いに長けた鬼人部隊、走破性が売りのケンタウロス部隊、野性的戦闘が得意な獣人部隊、等々…


そしてその中でも最強と言われるのが吸血鬼部隊。

ヴァンパイアは通常時は人族よりほんのちょと身体能力と感覚が優れているだけ。だけど、人族の血を飲むと、ステータス値は1.5倍となり、羽を生やして空を飛べ、五感が強化されて索敵も広くなる。

だから、吸血鬼部隊は人族の戦争中は夜襲でかなりの戦果をあげてた。

数で劣る魔人族が人族とわたりあえているのも吸血鬼部隊あってのもの──だった。



ある日からパタリと軍人さんのファンが人族の血をプレゼントしてくれなくなった。


理由を聞くと、どうやら捕虜の人族が急に次々と自害したらしい。そして瓶に入れてストックしてあった人族の血液も瓶が割られてなくなっていたそうだ。


◇◇◇


そして翌日、昼頃、今夜の演劇の本番を楽しみにしながら棺の中で寝ていた私を母が慌てた様子で無理やり起こした。


そして、鳴り響く鐘の音と外の騒ぎを耳にし、ただ事ではないと直ぐに察した。


どうやら、鬼人部隊の軍人数名が裏切りを行い、街の壁門を開いて人族の軍隊を招き入れたらしい。


母は私の手に、『転移石の欠片』を託して言った。


「お母さんは走って逃げるからシルバは転移石の欠片を使っておじいちゃんのいる魔王都へ逃げなさい!」


レアアイテムの『転移石の欠片』は一人を転移させたら砕け散ってしまう。


私は、「お母さんが使って!」と言うも、母に涙を流して怒られた。


私は決心し、魔王都で必ず再開する約束をして転移石の欠片に魔力を流す。


その瞬間─部屋のドアが蹴破られ人族が入ってくる。


母は私を庇うように立ちはだかり人族に剣で斬り殺された。


【精神耐性スキルを習得しました】


頭にスキル習得のアナウンスがかかると同時に転移が発動し、私はその場から消えた。



◇◇◇◇


「ここ…どこ?!魔王都じゃない!!」


気づくと私は見たこともない造りの建造物が立ち並ぶ場所にいた。


「転移中にマナの流れがおかしくなったのと関係が?…とりあえず日差しを凌げる場所……あの空き家に入ろう!」


日差しによって露出した肌がヒリヒリするので誰も住んでなさそうな平屋に急いで入りこんだ。


つい母の死を思いだし、焦って窓ガラスを割って不法侵入してしまった。


屋内に入ったはいいがカーテンがないので日差しが眩しい…


そんなことを思っていると部屋にデカく重く頑丈そうなクローゼット棚があることに気づいた。とりあえず入って落ち着くことにしたのだが。

暗く狭い所に入れて緊張の糸が切れたのだろう、母の死の心労やあまり寝れていないこともあって眠ってしまった。




目が覚め、クローゼットから出ると夜中になっていた。

ヴァンパイアの種族特性で暗闇でもある程度視界は確保できるのだがそれとは関係なく周りが少し明るく、叫び声が響いていた。


火事だ!

いや、それどころか─


通りには人族の死体が転がり、魔物が闊歩し、人族を襲っていた。


窓の外から見る景色はまさに地獄。


魔物は私にも例外なく、襲ってくる。


だが、私は【パルクール】スキルを持ってたので何とか屋根に退避することはできた。


大蜘蛛は屋根に逃げようがお構い無しに追ってきたが屋根づたいに逃げ回りながら近くの人族に大蜘蛛の標的をなすりつけて逃げ延びることができた。


罪悪感を感じつつも、"あれは人族だから…"と何度も自分に言い聞かせた。


なんとか高い建物の鍵の掛かってない部屋に入りこんで一息つけた。


それから大変なサバイバル生活が始まった。


自由に活動できる夜中に食料を探しに行く。

感覚を研ぎ澄ませながら魔物に遭遇しないように移動した。

それでも、逃げ場がなくなり追い詰められた場面に直面し、私は近くに落ちていた包丁で初めて魔物を殺した。

その後も魔物を倒すこともあったがどれも九死に一生の運で何とか倒せただけ、でもLv1だった私も今ではLv7になった。


そしてわかった。

この世界は私のいた世界とは全く異なる世界だということに。

高度な文明を感じさせる物の数々、全世界共通言語が通じない黒目黒髪の人族ばかりの国なんて聞いたことない。そして、日が変わる周期が私のいた世界に比べて遅いことで、ここが異世界だと確信した。


◇◇◇◇◇


その日はいつものように食料探しをしていた。


そして私はあいつに出会った。

私の世界の言葉を理解できる人族

─アカイ・リョーヤに


父と母を殺した憎き人族であったが唯一私の言葉を理解できたので、怒りを圧し殺し、充分に利用してやろうと思った。


それに、ヴァンパイアの種族特性の【実力色覚】によるとアカイはかなりの実力があるっぽい。

現にアカイは【瞬間移動】や【収納】みたいなレアスキルを見せた。


どうやら、アカイは私のいた世界のことを多少知ってるっぽいけど、魔人族が存在してたことすら知らないようなので、少しぐらい嘘をついてもバレないはず。

私の【演技】は完璧。不運な目にあっても明るく生きている可愛い美少女にしかみえない。

アカイに対しては私が好意を向けるような素振りをしても"好きな人がいるから"と言われてフラれたみたいになってしまったが…。



アカイと出会った後から一夜が開けた昼頃、アカイは私に衝撃の事実を告げた。


私がこんな世界に来てしまったのは自分が原因で、全部俺に責任がある、のだと──


私の怒りは大爆発した。

私をこんな意味不明で死の危険と隣合わせな世界に連れてきやがって!

飢えと恐怖に怯えてろくに寝れない日々。最後の大切な血族のおじいちゃんには異世界に連れてこられてしまったためにもう二度と会えることはない…


全てアカイのせいだ!!!


その時はアカイには関係のない両親を人族に殺された恨みも何もかも全てがアカイのせいに思えて怒りは心の奥底で煮えたぎった。


【条件を満たし、固有スキル【憤怒】を獲得しました】


アナウンスが脳内に流れるが、怒りで気に留まることはなかった。


私は【演技】スキルで心の奥底の怒りを何とか隠し平然とした表情で「どうせ、終わったことだし。恨んでもしょうがないしね~」と自分の感情を偽った。



そして決意した──

アカイに必ず復讐してやる!

私が経験したようにアカイにも大切な人を失う思いを味合わせてやる!!そして殺してやる!

──と。



それからは自分の本当の感情を【演技】スキルで圧し殺し、アカイを万全な状況で復讐できるよう準備した。


アカイ達に上手く取り入って利用し、学校の結界内に入れるようにしてもらい、情報や知識を色々と集めた。


手っ取り早く「アカイがこの世界を壊した!」と人族達に言いふらしてアカイの地位を貶めてもよかったのだが、新顔の私がいくら訴えても信頼や信憑性が欠け、「ショックで錯乱してる」「かわいそうな子…」と思われるのが落ちなので、まずは男性陣に愛想を振り撒いて私の地位を確立し、【日本語】を習得してからアカイの秘密暴露を実行することにした。


アカイに気があるような【演技】をして付きまとい、アカイが何かボロを出すのを期待した。

それで私に手を出そうもんなら「アカイに襲われた!」とでも言いふらして、周りの男性陣に袋叩きにさせ、アカイの好きな人に幻滅させる作戦だった。

が、悔しいことに失敗。アカイは私のスキンシップに少し照れて困った顔をするだけで私を本気で好きになってくれる気配がない。


それどころか逆に私自信がアカイが気になりだす始末。

よく考えれば今まで、舞台で大勢の男性陣に愛想を振り撒くことはあっても特定の人にここまでスキンシップを取ったことはない。アカイに対しては貶めてやる、利用してやるって気持ちが先行してたから過度なスキンシップに躊躇いがなかったけど……冷静になって考えたらかなり恥ずかしい。


それに、よく考えたら、私の人族に対する怒りや恨みは、私のいた世界の人族に対する怒りであってこの世界の人族はまったく関係ないじゃない!それどころか皆私に親切にしてくれるし…

そして、両親が殺された責任をアカイのせいにしたのもこじつけ過ぎる…


何でずっと、こんなに無茶苦茶な思い込みで怒り続けてたんだろ?

いや、それより何で急にこの怒りが覚めて冷静に考えれるようになったのかな?


あっ!そう言えばあの時──

◇◇◇◇◇◇


私はアカイの実力を把握する目的と、皆にいつかアカイ手の内をバラしてやる目的でアカイのスキルを人目のつかない地下の森の中で見せてもらっていた。

最初は渋っていたが、「職業選択の参考にしたいの!いいでしょ?アカイは私に責任があるんだから!」と言ったらOKしてくれた。


アカイ「─…さっき見せたのが【創造】スキルだ」


「やっぱりアカイは凄いなぁ!色んなスキル持ってるじゃん!」


「ちゃんと約束守って《色》のメンバー以外には言うなよ。わかってるのか?」


「はいはい。わかってますよーだ!それより早く次の見せて!」


「じゃあ、今度はこの【極炎魔法】で作り出した火球を──」


アカイは手のひら大の火の玉を作り出し、目の前に飛ばした。

その瞬間【瞬間移動】で火球の進行方向にアカイは立ちはだかる。


「【ブレイク】!」


アカイが右手で火球を受け止めたと思ったら火球は跡形もなく消滅していた。


「え?!凄い!なにそれ!」


「これは【ブレイク】スキルだ。手で触れるとスキル等の効果を打ち消すことができる能力……って、おい!シルバ危ない!スズメバチだ!」


「えっ?きゃあ!」


私の頭の周りにブンブンと大きなハチが飛び回っていた。

そして恐ろしいことにハチは私の頭にとまった。


「動くなよ……それ!」


アカイは素早く右手でハチを払いのける。

おかげでハチは逃げ去った。


「─あっごめん!ちょっと手をぶつけたかも」


ハチを払う時に少し私が動いてしまったため、アカイの手が私の頭に少しぶつかった。


「いや、それは全然いんだけど…右手、大丈夫?」


アカイは右手を痛そうに抱えていた。


「ちょっとスズメバチに刺されたみたいだ。…一瞬だったけど念のためため恵の所にいって【お清め】スキルかけてもらうことにする。悪いけど残りのスキルを見せるのはまた今度な…」


そうしてアカイはメグミのもとへと瞬間移動していった。


─────────────

◇◇◇◇


あの時【ブレイク】スキル状態だったアカイの右手が私の頭に接触した─

それで、私にかかっていたこのスキル効果が打ち消され、心中の冷静さを取り戻せたんだと理解した。


私はステータス画面を開いてとあるスキル詳細を確認した。

────────────────

固有スキル/

【憤怒】

→あらゆる攻撃を3倍の威力に引き上げる。また、怒りを原動力とした強い精神を持てるようになるが、冷静な思考ができなくり思い込みが激しくなる。

──────────────


そう表示されていた。


私の怒り感情の爆発によって【憤怒】を手に入れたけど、それが逆に呪いのように私を復讐へと突き動かしていたんだ。


今は【憤怒】スキルをオフにしたので問題ないけど……

あのまま【ブレイク】によって解除されずにいたら、私は半分逆恨みでアカイを陥れ─

最後にはアカイの好きな人を目の前で殺し、アカイを殺す予定だった。ついでに校長を殺し、結界がなくなって押し寄せてきた魔物による人族の大量虐殺も…


恐ろしい…

この世界の優しい人族達を沢山殺してたかもなんて。


「本当によかった」




◇◇◇◇◇◇


でも、アカイのせいで大変な目に遭わされて、おじいちゃんに会えなくなった事実は変わらない!


【憤怒】状態か解けた今は、殺してやろう!とはさすがに思わないけどちゃんと責任はとってもらう。


だから【演技】じゃない本当の私を知って私に惚れてもらうんだから!アカイの好きな人が霞むぐらいに!


そうなってもらわないと困る!

だって、私はもうアカイに惚れてしまったんだから!



そう決意した翌日───



アカイがナツコを賭けて一生懸命決闘している姿を目撃してしまった。


アカイの好きな人ってナツコだったんだ──


「夏子は誰にも渡すつもりはない!」「夏子は命に代えても守る!」


こんな一途な気持ちの中に私の入る余地があるのかな?


そして当のナツコの気持ちを聞いた。


「……好き…かな」


両思い……


私は、アカイを惚れさせてやる!と決意した翌日にアカイを諦めることを決意した。



それでも、一緒にいて楽しいアカイ達とは仲良くしよう。

─そう思った。




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