78 死線の渡河
「どこだ?!」
まつみは土壁の小屋を荒々しく探る。
毛布をめくり、床下を覗き、棚を探るが見つからない。
「見つけたぞ!!!」
トリの声が響く。
井戸から動力魔油の桶を引き上げたその瞬間、背中に激痛が走った。
「ぐあっ!!!」
薄く湾曲した鱗刀が背中を裂く――神曲の副長が緑砂トカゲにまたがり現れた。
トリは悟る。三次職相手では勝ち目がない。油桶を抱えたまま味方の方へ走る。
だが緑砂トカゲは二歩で追いつき、今度は刃が腰へ深く突き刺さる。
【システムメッセージ: ギルドメンバー トリ HPが20%になりました】
トリは地面へ崩れ落ちる。それでも油桶を放さない。緑砂トカゲが体を踏みつけ、騎手が刀を振り下ろす――
「影縛り!」
黒い縄が副長の身体を引き止める。刃はトリの頭上で止まり、落ちない。
まつみが背後から影で緑砂トカゲを絡め取っていた。全身の筋肉が震えている。
「早く……行って。こいつ……力が強すぎる」
トリはすぐに村外へ駆け出す。
緑砂トカゲはすぐ拘束を振り払い、振り向きざまに斬りかかろうとするが、まつみの姿はすでに消えていた。
「ちっ……アサシンめ……!」
……
村では神曲とKanatheonが激突していた。
神曲は聖職者の多さを活かし、全体HPを立て直していく。
一方Kanatheonは数名を失い、突破から包囲へと追い込まれ、徐々に中央へ圧縮される。
時間が経つほど不利になる。
むぐち やよいには戦術を練る余裕すらなく、ギルドメンバー全員が死に物狂いで斬り合っていた。
「むぐち やよい! 油を確保した!」
トリの叫び。
「回復!」
かなが叫ぶ。
緑金の旋風が敵を弾き飛ばし、わずかな隙間を作る。
「退くぞ!」
むぐち やよいは突破口を切り開き、トリを回収して桟橋へ向かう。
「こっちも油を確保した! 追え!」
緑砂トカゲ騎兵も油桶を抱えて戻ってくる。
戦場は一瞬で競走へ変わる。両軍が全速で鉄皮艇へ駆ける。
五隻の小艇が同時に給油を完了。
【システムメッセージ: 獣鉄艇は10秒後に出航します】
「各艇、重装最低一名、聖職者一名。残りの重装は俺と第一艇だ!」
むぐち やよいが即断する。
エンジンが唸り、小艇は自動でハググ城塞へ進み出す。
「重装を集中させて先陣を切らないのか?」
パシュスが問う。
「見ろ」
むぐち やよいが神曲側の艇を指す。
双方の鉄皮艇は、『>』の字を描くように急接近している。同じ桟橋へと収束する、衝突必至の軌道だ。
「この鬼畜仕様、プレイヤー同士を戦わせる気だな……」
まつみが呟く。
「詠唱準備!」
むぐち やよいが叫び、艇上の魔導士たちが一斉に詠唱を開始する。
小艇は左右に揺れながら進む。敵の顔が徐々に鮮明になる。
パンッ。
乾いた銃声。
「ぐっ……!」
むぐち やよいの左胸を弾丸が貫き、血が噴き出す。
「聖母の祈り!」「憐憫!」
ニフェトが胸に手を当て、治癒を施す。
カン、カン。
パシュスが盾で銃弾を弾く。
「指揮官を狙ってるな」
「構うな……準備だ」
むぐち やよいは立ち上がる。
魔力の風が艇上を吹き抜け、ローブがはためく。
心臓が激しく打ち、血管が張り裂けそうになる。
第一艇が射程へ入る――両軍とも動かない。どうやら近接主体だ。
第二艇が距離を詰める――
「撃て!!! 黒雷!」
かなの怒号と同時に、両軍が一斉に火を噴いた。
数条の雷撃と紅白の魔法が空中で激突し、爆風が湖面を揺らす。
轟音。両軍の小艇が次々と魔法を受け、大きく傾く。Kanatheonの一人が宙へ放り出された。
「助けてくれ!!!」
「掴まって!」
まこが必死に手を伸ばす。
ドボン。黒い影が水中から伸び、その身体を深淵へ引きずり込んだ。
【システムメッセージ: ギルドメンバー 脇役は死なず HPが20%になりました】
【システムメッセージ: ギルドメンバー 脇役は死なず HPが0%になりました】
まこは青ざめて手を引っ込める。
「止めるな! 白の矢!」
かなが叫ぶ。
大技のクールタイムが明けるのを待つ間、双方の魔導士は手近な攻撃魔法を乱射する。
両艇の間を無数の光線が交差し、まるで宇宙戦艦の砲撃戦のような乱戦になる。
むぐち やよいは焦燥を押し殺す。接岸と同時に城壁からの猛砲撃を浴び、強行上陸、さらには敵ギルドとの混戦……。もはや、一刻の猶予もない。
第三艇が射程に入る。魔法陣が輝く。
「来るぞ!」
かなが第三艇へ叫ぶ。詠唱が重なり、狩人が矢を番える。
「撃て!!!」
……
砲撃は白熱し、遠距離職は持てる全てを叩き込む。双方に犠牲が出る。
鉄皮艇が桟橋へぶつかる。Kanatheonは矢のように飛び出し、神曲側の桟橋を奪取した。
神曲第一艇も到着し、狭い桟橋で即座に肉弾戦が始まる。
開始早々、何人かが水中へ突き落とされ、大竜亀の餌食となった。
ドォン!!!城から砲声。
【システムメッセージ: ギルドメンバー ……… HPが20%になりました】
【システムメッセージ: ギルドメンバー ……… HPが20%になりました】
【システムメッセージ: ギルドメンバー ……… HPが20%になりました】
【システムメッセージ: ギルドメンバー ……… HPが20%になりました】
【システムメッセージ: ギルドメンバー ……… HPが20%になりました】
人だかりの中央に砲弾が落ち、凄惨な光景が広がった。
衝撃で十数名が湖へ吹き飛ばされた。
水中に潜んでいた大竜亀が素早く群がる。
城壁にいくつもの砲門が開き、黒鉄の大砲が桟橋へ向けて火を噴く。数隻の小艇が爆散した。
さらに星のような緑光が降り注ぐ。
両軍は暗黙の休戦を選び、必死に仲間を引き上げる。
轟音!間髪入れず、第二波の砲弾が叩き込まれた。
Kanatheonの上空に巨大な弧状の鏡盾が二枚展開された。
「位相シフト」
かみこが呟く。右腕の魔符の回転が鈍り、魔力が尽きかけている。
砲弾が左の鏡盾へ吸い込まれ、右の鏡盾から射出されて城壁を逆爆破し、大砲を一門破壊した。
「救助急げ! 重装はここを死守!」
むぐち やよいは虫羽の盾を構え、盾陣へ加わる。
もはや敵味方の区別をしている余裕はない。両軍が盾を掲げ、踏ん張る。
ドォン。
【システムメッセージ: ギルドメンバー 六口弥生 HPが20%になりました】
【システムメッセージ: ギルドメンバー ……… HPが20%になりました】
【システムメッセージ: ギルドメンバー ……… HPが20%になりました】
【システムメッセージ: ギルドメンバー ……… HPが20%になりました】
【システムメッセージ: ギルドメンバー ……… HPが20%になりました】
【システムメッセージ: ギルドメンバー ……… HPが20%になりました】
【システムメッセージ: ギルドメンバー ……… HPが20%になりました】
砲弾がボウリング球のように中央の盾陣を打ち砕き、血飛沫が弾ける。
桟橋は一瞬で修羅場と化し、血が湖面を赤く染めた。
爆風に煽られ、何人もが水中へ吹き飛ばされる。
「連携回復!」
かなが叫ぶ。
「天……天洪!」
「聖……聖域浄化……」
神官は周囲の悲鳴に乱され、集中できない。
「慌てるな! もう一度!」
「むぐち やよい!!!」
パシュスが叫ぶ。
むぐち やよいは砲弾の直撃を受け、虫羽の盾が砕け散る。神曲のメンバー二人を巻き込み、湖へ叩き落とされた。
「むぐち やよい姉さん!!!」
まこは桟橋に身を乗り出し、必死に装甲へ手を伸ばすが届かない。
湖底の闇から黒い影が迫る。大竜亀が口を開き、浮かぶむぐち やよいを呑み込もうとする。
「むぐち やよい姉さん! 起きて!」
まこは半身を水へ投げ出し、指先が装甲を掠める。
「まこ、水際から離れろ!!!」
パシュスが怒号を上げ、天護の衝撃を放って飛び込む。
指先に重みがかかる。
「掴んだ! パシュス、早く――」
ドボン。
【システムメッセージ: フレンド 六口弥生 HPが0%になりました】
【システムメッセージ: フレンド 真子 HPが20%になりました】
【システムメッセージ: フレンド 真子 HPが0%になりました】
今日は頑張ってもう一話書いたので、こっそり置いておきますね。*( ´艸`)




