440 天使の墜落
ニフェトは一瞬で一樹の傷を治すと、慌てて二人を戦車の中へ押し込んだ。
「俺についてこい!!!」
リオが叫ぶと、戦車はついに泥沼を抜け出し、斜面を駆け上がった。生き残った歩兵たちも、そのすぐ後ろに続いた。
「早く破壊しろ! 上がってこさせるな!」
山頂の大賢団は即座に浮遊する鏡の角度を調整し、和也と百賢の旅はすぐに分かれて動いた。
「何、この乗り物!?」
加奈は戦車の中へ飛び込むなり、耐えがたい蒸し暑さに襲われた。
リオはすでに上半身裸になっていた。汗が座席を濡らし、床にまで滴っていた。
加奈は片手でハッチを押し開けた——
「お前、バカか!? 早く閉めて鍵をかけろ!」
一樹は仰天し、すぐに加奈をはしごから抱き下ろすと、ハッチを閉めて鍵をかけた。
「こんな悪臭まみれの公衆便所にいるくらいなら、死んだほうがましよ!」加奈は鼻をつまんで怒鳴った。
「通常弾!」
リオは潜望鏡に全神経を集中させ、加奈の悪態を無視した。
「装填完了!」一樹はすぐに砲に装填した。
リオは浮遊する鏡が自分を追尾し始めたのを見て、すぐに戦車を加速させ、鏡の射線に入らないよう、進路を変えた。
「待ってくれ!」
古志は戦車が加速して味方の歩兵を引き離し始めたことに驚き、慌てて車体を叩いた。
「FIRE!」
ドン! 強烈な反動で戦車が激しく揺れ、すぐそばにいた歩兵二人にぶつかって気絶させてしまった。
巨大な浮遊盾の下から、百枚もの小さな鏡の盾が飛び出し、砲弾の進路に幾重にも重なった。
ドォン! 砲弾は小さな盾を次々と砕いたが、そのたびに勢いを削がれ、巨大な盾へ届く前に食い止められた。砕けた鏡の破片が、星屑のように降り注いだ。
「何だと!?」リオは内心ぎょっとした。
減速を余儀なくされたチビガメに、赤い光線が追いついた……。赤い光が閃き——すさまじい勢いで真紅の雷が襲いかかってきた!
リオにはわかっていた。この光の砲撃を避けるわけにはいかない。避ければ、背後の仲間は命を落とすか傷を負う。
「くそっ、受け止めるしかない! しっかりつかまれ!!」
リオはシートベルトを握りしめて叫んだ。
「どういうこと?」
加奈は眉をひそめた。二人が何をしているのか、まだ理解できず、ぽかんと見つめていた。
加奈のすぐ横の装甲が、突然赤くなった————
「加奈!!!」一樹は叫び、加奈のほうへ飛び込んだ!
ドン!!
ドイツプレイヤーの赤い砲撃が戦車上部の砲塔を貫き、砲身まで危うく断ち切られるところだった。
砲塔の旋回レールに鉄片が挟まり、砲塔は向きを変えられなくなった。
リオはすぐに溶接トーチを取り出し、鉄片を切断し始めた。一樹は言われるまでもなく、潜望鏡でドイツプレイヤーの動きを監視した。
「リオ! みんな、怪我はない!?」ニフェトが車外から車体を叩いて尋ねた。
「大丈夫だ! だが、今すぐ砲塔を修理しなきゃならない。待ってくれ!」
リオが怒鳴った。
「私にも何か手伝えることはない……?」
皆がそれぞれの役目を果たす中、加奈は自分だけ何をすればいいのかわからず、そわそわしていた。
「百賢の旅が魔力砲をチャージしてる!! 見たところ、あと30秒!」
一樹は山の上に広がる赤い光を見て、二発目の魔力砲が間もなく撃たれると察した。
「見せて!」
加奈は悔しさをにじませて潜望鏡の前へ割り込み、つま先立ちでのぞいた。そこに見覚えのある顔を見つけた——和也だ!
「またあんた…………」
「あと15秒!」一樹がせかした。
「もっと時間が要る! このトーチじゃ温度が足りな—————」
リオは焦りを募らせた。
「どいて!」加奈が怒鳴った。
ゴォッ!!!!
加奈は手を突き出し、青い炎を噴き出した。わずか数秒で鉄片が柔らかくなり、リオはすかさずそれを挟んで取り除いた。砲塔は再び旋回できるようになった。
「つかまってろ!」リオがアクセルを踏み込み、戦車は再び走りだした。
戦車は山頂へ続く斜面を駆け上がった。だが、大賢団の本隊はまだ稜線の向こうにいる。空に浮かぶ巨大な鏡だけが、こちらを見下ろしていた。
「予備の武器を出せ! 接近戦に備えろ!」
白が急いで指示した。
残兵の魔法使いたちは、普段パンを切るのに使っている小刀を取り出した。素手で戦うしかない者さえいた。皆は頭を低くし、魔法弾が頭上すれすれをかすめる中、戦車について進んだ。
車体表面の耐魔法塗料はほとんど剥がれ落ち、下の鉄がむき出しになっていた。もはやドイツプレイヤーは、魔力砲を使わなくてもリオの戦車を撃ち抜ける。
「これがお前の実力か……加奈。まったく期待外れだ。盾を分割しろ!」
和也は眉をひそめて言った。その一声で巨大な浮遊盾が3枚の大盾に分かれ、3方向から戦車に狙いを定めた。
「まず——」
リオは愕然とした。側面の装甲を撃たれたら……
「撃て!」
和也の一喝で、大賢団が再び赤雷砲を放った。
赤雷砲の光は3本に分かれ、リオの戦車の砲身と左右の履帯へそれぞれ向かった。どれも急所だ!
チビガメが戦闘不能にされようとしたそのとき、カミコが手を上げた。数百枚の小さな銀の盾が浮かび上がり、三筋の赤雷砲の軌道を追い始めた。
広範囲を襲う魔法とは違う。狙いが砲身と左右の履帯に絞られているなら、軌道は読める。
パチン、とカミコが指を鳴らした——
銀の盾が戦車の右側へ集まり、鋭い角を持つ、いびつな星形の盾を組み上げた。右から迫る赤雷砲がその表面で何度も反射し、中央の砲撃へとぶつかった。二つの魔力が激しく干渉し、砲身を狙っていた光が逸れる!
だが、左側へ盾を回す余裕はなかった。
ドォン!!
左の履帯が赤雷砲に撃ち抜かれ、火花とともに何枚もの鉄片が飛び散った。
「ありえない!!!」
和也は驚愕した。連携による魔力砲を反射できる鏡像使など、これまで一度も出会ったことがなかった。
「計算——やめた。このセリフ、つまんない」
カミコは眉をひそめた。
リオの戦車は左の履帯を破壊され、そこから火の手まで上がった。
「ふん、見くびっていたようだが……これで終わりだ!」
和也が再び手を上げ、大賢団はまたチャージを始めた。
「大賢団を狙えば氷の盾に防がれる……大きな鏡の盾を狙えば、小さな鏡の盾に防がれる」
リオは狂ったように指をかじり、いくら知恵を絞っても敵を倒す策が浮かばなかった。
「リオ、鏡の盾は物理攻撃には弱い。徹甲弾はある?」
カミコは車窓を叩いて尋ねた。
「ない! 通常弾じゃ、何枚も重ねられた盾を抜けない——」
リオは絶望しきった声で答えた。
「ねえ……」加奈が低くつぶやいた。
「けど、俺たちは斜面の低いところにいるから、射線が通らない。上空の浮遊する鏡しか狙えないんだ。百賢の旅の攻撃を妨害できない——————」
リオは加奈を無視して続けた。
「ねえ!!」
加奈が怒鳴った。その目には歓喜と不安が入り交じっていた。
「どうした?」一樹が眉をひそめた。
「自然の力で電子を生み出すには、大気の流れが必要なんだよね。だから電子を高密度に生み出すことはできないけど、電子が流れる向きなら操れるでしょ……」
加奈は全身を震わせ、ぞっとするような笑みを浮かべた。
「できるけど、どうして……まさか!?」
一樹は突然顔面蒼白になり、恐怖で固まった。
「試してみよう……」加奈はごくりと唾を飲み込んだ。
「全員、山を下りろ! 俺たちから離れろ!」
一樹が怒鳴った。
「はあ!? こっちは命懸けで———」
皆が不満の声を上げた。
「説明してる時間はない!! とっとと行け!!」
一樹はバタンとすべての観察窓を閉めた。
「行こう!」
ニフェトはつらさをこらえて言った。今は仲間を信じるしかなかった。
「来い!」一樹は両手で砲身の根元をつかんだ。
加奈は深く息を吸い、銀の杖を砲身に向けた————
「多重詠唱!」……
「静電荷!!」加奈が絶叫した。
砲身の内部が、加奈の生み出した青白い雷光で満たされた。
一樹は目を閉じ、砲身の内部へ意識を集中させた。膨れ上がる力を抑え込みながら、磁場を制御する。
「暴れるな……俺の言うことを聞け……!」
雷光が一樹の制御に合わせて渦を巻き始めた。
戦車が熱を帯び、低くブーンと唸った。その音は次第に甲高くなり、砲口から青白い光が漏れ始めた。
大GMとGM02、GM15が同時に現れ、震えるチビガメを呆然と見つめた。
「和也……」
加奈は歯を食いしばり、さらに電子を注ぎ込んだ。ツインテールが浮き上がり始めた。
「決着をつけよう、宮本加奈」
和也が手を振ると、ドイツのプレイヤーの巨大な赤い魔法陣がチャージを終え、チビガメに狙いを定めた。
「来なさい! 宮本和也!」加奈は銀の杖をリオの頭に思い切り叩きつけた。
「レールガン、発射!」
ブゥン———————————
その場にいた全プレイヤーの視界が真っ白に染まり、3秒間、何も見えなくなった。それに続いて、世界から音が消えた。
【システムメッセージ: フレンド 加奈 HP残り20%】
【システムメッセージ: フレンド リオ HP残り20%】
【システムメッセージ: フレンド 一樹 HP残り20%】
和也は突然、地面が激しく揺れるのを感じた——一発の砲弾が、地面を突き破って飛び出してきた!
「な———」
ドン!!!!
レールガンの一撃が山頂を下から貫通し、射線上にいたドイツプレイヤーは全員、一斉に消えた。
大量の血肉が1万フィートもの上空へ飛び散った。リオの砲弾はわずか半秒で2キロ先の空に達し、上空で爆発した。爆音はまだ届かず、遠い空に小さな閃光だけが見えた。
GMも残兵もドイツプレイヤーも、そろって言葉を失った。砲身が曲がり、濃い煙を噴き上げるチビガメを、口をあんぐりと開けて見つめていた。
加奈が電力を供給し、一樹が磁場を制御し、リオが発射した。三人が魔法と機械で実現した電磁加速の一撃は、山頂を貫き、空へと抜けるトンネルを穿った。
皆がまだレールガンに怯えている中、ニフェトはすでに我に返っていた。
「加奈!!」ニフェトは危険も顧みず、山頂へと駆け上がった。
# 第54.3章—天使の墜落
世界がぐるぐると回る。ぼやけた視界に焦点が合い始め、景色が再びはっきりしてきた。
「何が……あったの……」
加奈は熱を持った床に横たわったまま、意識を取り戻した。
発砲の瞬間、加奈はリオの後ろに立っていた。ちょうどそこには空きスペースがあり、受けたダメージは最も少なかった。
車内は炎で赤く照らされ、床には鋭い鉄片が散乱していた。リオと一樹は衝撃波で車内の隅に叩きつけられていた。二人の体から流れ出した血が溜まっており、生きているのかもわからなかった。
「ザコ……」
加奈が身を起こすと、突然胸に鋭い痛みが走り、体が崩れ落ちた。慌てて腕を伸ばして床に手をついたが、そこにあった鋭い鉄片が手のひらを貫いた。
加奈は痛みで目の前が真っ暗になった。それでも気力を振り絞り、どうにか立った。布のブーツも鋭い鉄片に切り裂かれ、鮮血が流れ続けた。
「ザ……ザコ……」加奈は天井を伝う炎に焼かれないよう、腕を上げて頭をかばった。
加奈は杖で二人を軽くつついたが、どちらも反応しなかった。まずいと悟り、すぐに床の鉄くずを払いのけ、腰を下ろして二人の応急処置を始めた。
まず、二人が失血死しないよう、応急用ポーションを口に流し込んだ。加奈は何口も何口も二人に飲ませ、自分の分にはほんの一口だけ残した。
一樹は致命的な内出血の状態で、カウントダウンは10分。リオは骨折と内出血のうえに足まで失い、致命的な出血で残り8分となっていた。
加奈はリュックを開けたが、入っていたのは包帯やガーゼ、解毒剤といった基本的なものだけだった。内出血を治せる奇跡の聖水や再生ポーションはない。
そのとき、強烈な眠気が押し寄せた。加奈の視界に砂嵐のようなノイズが走り、意識を失いかけた。
「二人を……助け出さなきゃ……」
「加奈!!」
戦車の外から聞こえてきたニフェトの声は、まるで天使の声だった。
「ここ……」
加奈は弱々しく答えたが、その声は車内の炎が爆ぜる音にかき消された。
「返事をして、加奈!!」
ニフェトの声が、今度は車体の反対側から聞こえた。
コツ・コツ・コツ!
ニフェトは車体後部の隅から響く、何かを叩く音を聞きつけた。装甲の破れ目から中をのぞき込み、ようやく三人の姿を見つけた。
「大地の聖歌!」「再生術!」「聖母の奇跡!」「天使の祝福!」「浄化術!」
ニフェトは神杖を戦車の中へ突き入れ、必死にスキルを連発した——————
【システムメッセージ: スキル使用 失敗 理由:視線が通っていません】
「ちゃんと見えてるのに!!」
ニフェトは苛立ち、神杖を引き抜いてもう一度突き入れた。
「その穴からじゃ、視線が通ったことにならないんだ……」
黒衣をまとった大GMが、ニフェトの隣に現れて言った。
「BUGよ!! 早くDEBUGして!!」
ニフェトは片手で大GMをつかもうとしたが、その手は空を切った。
「今からじゃ間に合わない……急いでほかの方法を考えて」
大GMは眉をひそめて言った。決して手は出さなかったが、自分の襟元を軽く引っ張り、二度咳払いをした。
「加奈、これを受け取って!」
ニフェトははっと気づき、奇跡の聖水を二本と大量の超級回復薬を戦車の中へ押し込んだ。
加奈がすぐに二人へ薬を飲ませると、リオと一樹はたちまち目を覚ました。
「うわあ!!」二人は燃える車内に怯え、互いにしがみついた。
「どうする!?」一樹がうろたえた。
「弾薬が!!」
リオは車内の別の隅を見てぎょっとした。燃える鉄片の下敷きになった砲弾が、今にも爆発しそうだった。
「ハッチだ!」
リオはすぐにはしごを登り、一樹はリオの周囲の炎を払いのけた。
ジュッ!!
「うあっ!」
リオは熱く焼けたハッチで両手に火傷を負った。だが、いくら回そうとしてもハッチはびくともしない。明らかに壊れていた。
「この裂け目からすり抜けてみよう!」
一樹は車体の亀裂を指さした。体の半分を通すのがやっとの隙間だった。
「私がやる……」
加奈は杖を支えにし、破れ目を杖先で軽く突いた。そこはたちまち白く凍りつき、一瞬でひび割れた。加奈が軽くつつくと砕け、拳ほどの大きさの新しい穴が開いた。
「俺も——」
一樹は車内の水分を集めようとした。だが、戦車全体を凍らせるには、到底足りなかった。
「待ってくれ!」
リオは突然車体後部へ走り、レンチを手に鉄板を何枚も取り外し始めた。
「早く出ろ! 間に合わなくなる!」一樹がせかした。
「熱源を外して持っていくんだ! 戦車は鉄さえあればまた造れる。でも熱源はこいつの動力源、つまりエンジンなんだ。俺の魂なんだよ!」
リオは必死に訴えた。
「なら、加奈が先に出ろ!」一樹がせかした。
「穴を広げなきゃ………」
加奈は全神経を集中させ、少しずつ穴を広げていった。
「水を出してくれ! そうすれば俺が—————」
「もう試した……この戦車は狭すぎる。天洪を使うには、もっと広い場所が必要なの」
加奈は眉をひそめて答えた。そのころには、穴はどうにか体をねじ込めるほどに広がっていた。
「早く出てきて!!」
車外にいるニフェトは、中の三人以上に焦っていた。
穴が広がっていく一方で、車内に残る砲弾が熱を帯び始めていた。時間との勝負だった。
大GMは表情を曇らせた。ある結末を予見したかのように、そっと立ち去った。
「いいから出てきて! ぐずぐずしないで!」
ニフェトが怒鳴った。
一樹の心は乱れていた。加奈を置いていくなんて、できるはずがない。
「行って、ザコ……私には護心石がある」
加奈はうなずいた。
「外せた!」リオは歓声を上げ、すぐに熱源を革鎧で包んだ。
一樹はため息をつき、車体後部の裂け目へ頭から体をねじ込んだ。外の仲間たちは足を踏ん張り、芋虫のように這い出してくる一樹を引っ張った。
頭と胸は抜けたが、腰が裂け目につかえた。いくら体をひねっても、それ以上は抜けなかった。
一樹は意を決し、自分の腹を手で押さえた。
「受け止めてくれ、ニフェト! うおおっ!!」
一樹は雄叫びを上げ、へそから下の体を一瞬で凍らせ、硬い氷に変えた。そしてバキンと自分の体を力ずくでへし折り、ようやく車外へ転がり落ちた。
【システムメッセージ: フレンド 一樹 HP残り20%】
パシュスがすぐに一樹のちぎれた体を受け止め、ニフェトはすかさず神術で治療した。下半身がたちまち再生し、一樹は意識を取り戻した。
「加奈は?」
一樹は真っ先にそう尋ね、ニフェトと一緒に再び裂け目へ身を寄せ、救出にかかった。
その間も、加奈は内側から裂け目の縁を凍らせ、杖で砕き続けていた。一樹が抜け出したときよりも、穴は一回り大きくなっていた。
「リオ……」
加奈は手招きした。リオの抱える熱源が自分たちの希望だとわかっていたため、先に逃がすと決めた。
リオは懸命に体を穴へ押し込んだ。加奈が尻を力いっぱい押し、外ではパシュスがリオを強く引っ張った。
ポンと音を立て、リオは赤ワインのコルク栓のように飛び出した。
「加奈……侮っていた……」
和也はレールガンの射線のすぐ脇にいた。先ほど強い光が閃いた瞬間、右肩を丸ごと撃ち砕かれ、慌てて傷口を氷で塞いで止血した。杖を支えに山頂へ上がり、ちょうどリオが熱源を抱えて脱出するところを目にした。
「これだけの代償を払って手ぶらで帰れば、ビスマルク様の面目が丸つぶれだ……」
和也は怒りに歯ぎしりした。
加奈が戦車から這い出そうとしていた。体はいちばん小さく華奢だったが、それでも外から手を貸してもらわなければ抜け出せなかった。
「加奈………」
一樹がようやくほっとした、そのとき——
ドン——!
チビガメの中で強い光が閃いた。耳をつんざく衝撃音が響き、皆の鼓膜が破れそうになった。
「うあっ!! うわああああああああああああああっ!」
「……」
山の上に立つ和也も含め、誰もが恐怖に凍りついた。
「うわあっ!!」
加奈は火だるまになり、裂け目に挟まれたまま激しい炎に焼かれていた。
...
【システムメッセージ: フレンド 加奈 HP残り20%】
「痛いよ!!」
両手の皮膚が灼熱の鉄片に焼き溶かされ、車体に貼りついて身動きが取れなかった。
【システムメッセージ: フレンド 一樹 HP残り20%】
「加奈! 転送でこっちに来い!!」
一樹は自分の腕をへし折り、加奈を転送で呼び寄せようとした。
「逃げて、ザコ!!! でないと……う、うあああああああっ!!!」
だが、車内から猛火が噴き出し、加奈の全身をのみ込んだ。煮えたぎる油の鍋に放り込まれ、生きたまま揚げられるような激痛が襲った。
そのとき、大GMが再び現れ、一同を見つめた。
「転送先が近すぎるんだ……距離の制限がなければ」
大GMはそう注意を促した。
「絶対に持ちこたえろよ!!!!!!」
一樹は悲しみと怒りに泣き叫び、耐えられる限界までHPを消費して微風を起こし、転送できるだけの距離を稼ごうと全力で駆け出した。
一樹は加奈のそばを離れた。愛する人を守るために、彼女から離れたのだ。
「持ちこたえて、加奈!!」
ニフェトは加奈の目の前に立ち、神杖を激しく振るって必死に加奈のHPを回復させた。あまりに近く、法衣にまで火が移った。古志が慌てて引き離そうとしたが、ニフェトは何かに取り憑かれたようにスキルを連発し、何人もで力を合わせなければ引き離せなかった。
「ニフェト、もう逝かせてあげなよ……護心石があるんだから。あなたが苦しみを長引かせてるんだよ」
カミコは眉をひそめた。
パシュスは戦車のそばに駆け寄り、皮の剥けた加奈の両手をつかんだ。だが、周囲の鉄はすでに溶け、加奈の肌に貼りついていた。加奈は炉に閉じ込められた子豚のように、激しい炎で焼かれていた。
【システムメッセージ: フレンド パシュス HP残り20%】
「早く離れろ、パシュス!」古志は驚いて叫んだ。
「待て……あと少しで————————」
パシュスは加奈の体が軽くなり始めたのを感じた。もう少しで助け出せるという、そのとき————
バチィ~~!@#@$︿$*&&︿%*&%#@$%!#@#$!
一筋の金色の雷が戦車を直撃し、強烈な衝撃で一同を吹き飛ばした。
「加奈……」
ニフェトとパシュスは呆然とした。
【システムメッセージ: フレンド 加奈 HP残り0%】
加奈はまたしても二人の目の前で光の塵となり、消えていった。
「……」
ニフェトは地面に座り込み、黙っていた。
「気をつけろ!!!!!」古志は大きな天秤を呼び出し、地面に突き立てた。
パシュスは涙に濡れた目で、呆然と見つめていた…………
片腕を失った和也が、すでに一同の前に立っていた。
和也は戦車を呆然と見つめていた。加奈の悲鳴が悪夢のように耳の奥へ突き刺さり、戦車の燃え盛る炎さえ、その黒い瞳を照らすことはできなかった。
「お前たちのせいで加奈は……余計に苦しむことになった……」
和也は腰から青い注射器を抜き取り、無言で自分の腕に突き刺した—————全身に青い魔法の紋様が弾けるように現れ、五輪杖から黒い稲妻の刃が突然伸びた。
「十倍にして償わせてやる!!!!!!!」
激怒した和也が杖を地面に突き立てると、黒い雷が炸裂した。
生き残りの兵たちは爆風で四方に吹き飛ばされた。レールガンの一撃で死傷者を出した大賢団も、残った術者たちで陣形を組み直し、攻め寄せてきた。幾筋もの死の光線が残兵を襲い、兵たちは次々とニフェトの背後へ逃げ込んだ。
ニフェトの神の盾に一瞬でひびが走った。何もかもが終わろうとしていた。
そのとき、小さな白い鳥がニフェトの肩にとまった。
【システムメッセージ: 密書 加奈:持ちこたえて、今そっちに向かってる!──01分前】
「諦められるわけないでしょ!!」
ニフェトは聖属性の値が最も高く、神術の効果を高める白天使のシフォンドレスに着替えた。自身の防御力を捨て、神術の効果を限界まで引き上げる。盾の厚みが一気に倍になり、コンクリートの壁のように光の砲撃を食い止めた。
生き残った兵たちは、武器のほとんどを戦車に踏み壊され、今や素手だった。和也を阻める者はいない。黒雷の鎌が舞い、炎の宝石の効果が発動して、炎の雲が尾を引いた。
攻撃を受けた者は麻痺し、同時に炎に包まれた。魔法使いや狙撃手が和也に拳を振るうも、和也はそのすべてをかわした。激怒した和也は普段よりも冷静で、動きもさらに鋭かった。瞬く間に何人もの命を奪っていく。
不意に大地が揺れた——
「うわああっ!!!」
ゴゴ……土煙がもうもうと立ち上る。和也は、周囲の地面が自由落下さながらの速さで沈んでいくのに気づいた。
「死ね!!」
一樹はまばゆい虹色の光を放ち、両手で地面をつかんで和也を生き埋めにしようとした。
不意に、その力が阻まれた——大GMが現れた。
「鬼畜仕様だ」
大GMは眉をひそめ、和也を山頂へ転送した。
和也は呆気に取られた………
「GM! どういうつもりだ?!」和也は大GMを指さして怒鳴った。
「君を守っただけだよ」
大GMは淡々と答え、そのまま姿を消した。
大賢団はレンズを召喚することにした。戦車さえ破壊できるあの巨大な鏡が、ゆっくりとニフェトに狙いを定めていく……………
「火力全開!!」和也は吠えた。
十数本の赤い雷が同時にレンズへ撃ち込まれ、一つの赤い砲撃となってニフェトに襲いかかった。
神の盾は赤い砲撃の威力に耐えきれず、再びひび割れた。亀裂が蜘蛛の巣のように広がり、溶接の火花のような眩しい光が弾け、土の焦げる臭いが漂った。
「護心石を持っていない人は……早く……離れて……」
ニフェトは両手で必死に盾を支えていた。布のブーツが泥に深くめり込んでいる。
生き残ったプレイヤーが数人、踵を返して逃げ出した。
古志がニフェトの肩に手を置いた。
「護心石がある奴は残ろう」
「護心石を持ったまま戦死すると、どこへ転送されるんだろうな」
パシュスは加奈のことが心配になった。
ニフェトは不平一つ漏らさずに胸を張り、一秒でも長く持ちこたえようと踏ん張った。同時に、誰かが転送してきて命を落とさないよう、すぐに自分の状態表示をオフラインに切り替えた。
神の盾全体が白く染まった。砕け散る、その一秒——
大賢団の浮遊する鏡の上空に、膝を突き出して降下する巨大な女騎士が現れた。
女騎士は飛び膝蹴りで巨大な浮遊盾に亀裂を走らせた。時が止まったかのような一瞬、誰も彼女の動きを追えなかった。
遠くの空から、ようやく空気を切り裂く轟音が届いた。
ブォ————
ようやく、その一秒が終わった…………
ドォン!!!!!!!!!
ゴゴォン!!!!!!!!!
女騎士は空から降り立ち、大賢団の鏡の盾を粉砕した。地面に巨大な聖なる紋様を描く衝撃波が炸裂し、大賢団を百メートル以上も吹き飛ばした。
和也は手にした五輪杖を下ろし、首を横に振って苦笑した。
「ルースも、追い詰めすぎたんじゃないか?」
リオの戦車が山から飛び出してきたとき、誰もが呆然と見つめていた。今はリオが、同じ驚きの表情で女騎士の着地を見つめていた。
白い肌に尖った耳。全身を黒い鎧で包み、赤い髪は地面まで垂れていた。女騎士は何も言わない。
だが——
「はあっ!!」
その戦吼が、今になって空から響いてきた。彼女の叫び声は、数秒も遅れてようやく本人に追いついたのだ。
「まさか……」
レールガンで戦力を削られていた大賢団は、不意の一撃でさらに多くの負傷者を出した。戦える者たちも、傷ついた仲間をかばいながら後退していった。
女騎士は立ち上がり、山の下にいるニフェトを見つめた。バサッと、艶やかな漆黒の翼を一対広げた。
「ニフェト様………ただいま戻りました」
巨体の女騎士は黒い翼を畳み、ニフェトに向かってひざまずいた。
「ブチャ!!」
ニフェトは嬉し涙を流した。だが、すぐに一つの疑問が浮かんだ。
なぜブチャの髪は赤くなっているのだろう?




