234 狂竜降臨
「りゅう……竜王……」ただその気配だけで殺されそうな怪物を見上げ、誰もが思考を失う。
「落ち着いて……必ずギミックがあるはず……」ナスティアは立ち上がり、皆を鼓舞する。
雷竜と火竜は近くの峰へ降り、まるで犬のようにおとなしく待機している。
竜王は蟻のような人間を見下ろし、竜爪を前へ踏み出した。その瞬間、複数の魔法トラップが同時に発動する。
竜王に与えたダメージはわずかだが、いくつかの白い鱗が別の色へと変化した。
「淵博の封鎖……スキルが盗まれて、10分クールタイム?!」ナスティアは驚愕し、スキル一覧を確認する。泥沼や氷牢といった魔法がロックされ、使用不能になっていた。
つまり、この先10分間、同じスキルでは竜王に一度しかダメージを与えられない。魔導士の戦力は大きく制限される。
至近距離に現れたことで、狙撃手は距離の優位を失った。彼らは軽装小銃を抜き、構えようとしたそのとき――
「気をつけろ!!!」
白竜王が軽く体を振るい、三本の尾で幾重もの雪を巻き上げ、白い津波となって押し寄せる。
「氷結壁!」ナスティアは巨大な氷の壁を展開し、雪崩を防ぐ。
ドォン!氷壁は衝撃で粉砕され、大量の雪が丸まっているプレイヤーたちへ押し寄せた。
「星火連焼!」賢者たちは足元に溶岩を生み出し、積雪に対抗する。
大量の水蒸気が立ち上り、皮膚を焼くような熱で痛むが、雪に埋もれるよりはましだった。
カルロフは大剣を掲げて吹き荒れる雪を防ぎ、その先に十数メートルにも及ぶ白竜の尾がうねりながら迫っているのを目にした。
ためらいなく踏み込み、そのまま斬りつける。
「グオォォォォッ!!!!!」
白竜王は痛みに吠え、黄金の口を大きく開いて咆哮した。その重い竜の咆哮が雪面の粉雪を震わせ、宙へと舞い上げ、やがてゆっくりと降り積もる。
その一声を合図に、周囲の空に十数体もの青や緑、赤や黄色の飛竜が現れた。
「………………………………」
誰もが言葉を失い、静かに武器を下ろす。
ナスティアはようやく理解した。なぜこのボス戦のフィールドが、これほどまでに平坦に設計されていたのかを。大人数で挑むための場だと。
焦りすぎて、自分は格上に挑んでしまったのだ。
「諦めるな、ナスティア様!竜王は尾への注意が甘い!前で引きつければ三本とも斬れる!」カルロフはなおも諦めず、戦意を燃やす。
「……無理よ、カルロフ……空を埋め尽くすあれだけの数……私たちの手には負えないわ。」ナスティアは苦笑し、薔薇水晶の杖を収め、空を埋め尽くす竜の群れを指差した。彼女の旅は、ここで終わる。
「グオォォォォ~~~!!!ガァァァァァァァ!!!!!!」白竜王が再び激しく咆哮する。
さらに猟竜団の後方に、一体の巨大な黒竜が現れた。
白竜王よりは小さいが、それでも他の上位竜より遥かに大きい。全身に鋭い棘状の鱗を纏い、圧倒的な威圧感を放つ。竜王の護衛と思われた。
それを見たナスティアは、抵抗が無意味だと悟り、その場に座り込む。
「ナスティア様……」仲間たちは為す術もなく、やがて上位竜に包囲されるのを待つしかなかった。
「みんな……ごめん……。もう、できることは全部やった……。黒邪翼は……ここで終わりね……」ナスティアは頭を垂れ、かすかに呟く。
「諦めないでください、ナスティア様!」カルロフが彼女の手を掴むが、彼女はすでに諦めており、ただ微笑み返すだけだった。
白竜王は黄金の翼を広げて飛び上がり、上空から押し潰すように彼らの命を終わらせようとする。
「ありがとう……最後に……仲間と一緒にいられて……」ナスティアはカルロフの隣に立ち、微笑んだ。
白竜王の翼が黄金に染まっていく中、団員たちの心も不思議と穏やかになっていく。もう怯え続ける必要はないのだと。
笑って死ねる――それが、こういうことなのだろうか。
彼らは静かに目を閉じ、この瞬間を受け入れた。
…………………………
ドンッ!骨が砕ける音が響く。
「ガガガガガガガガガガ~!!!グオォォ!!!」
「ギギギギギ~~~ガガガガガガガガガガガ!」
頭上から激しい竜の咆哮が響き、隊員たちは眉をひそめて目を開く――そこには、黒竜が白竜に飛びかかり、狂ったように噛みついている光景があった!
白竜王の鱗は雪片のように剥がれ落ち、傷口から乳白色の竜血が溢れ出す。
「…………」猟竜団はただ呆然と、空中で激突する二頭の巨竜を見つめる。
その瞬間、ナスティアの体が硬直した。
見えた――黒竜の翼膜に刻まれた、黒邪翼のギルド紋章が。
涙が一気に溢れ出し、魂が叫びを上げる。
「あなた……なの……?」
「誰だ?!」仲間たちが驚いて問う。
「あなたなの……ヴラジ……?!」ナスティアは黒竜を指差し、涙を流しながら叫んだ。
「ヴラジ?!」空中で竜王と互角に戦う黒竜を見て、仲間たちは驚愕する。
複数の上位竜が援護に飛来し、様々な竜息を黒竜へと浴びせ、さらに群がって噛みついた。
「グオオオオオオ!!!!!!」
ドォン――――その瞬間、戦場に銀の光柱が天を衝いた。
ナスティアの金髪は透き通る氷結晶へと変わり、肌は純白に染まり、瞳孔からは青い魔力の炎が噴き出す――過負荷。
「全部、氷になりなさい!!」
ナスティアが薔薇水晶の杖を天へと振り上げると、空にいくつもの巨大な氷竜の頭が出現し、ヴラジを囲んでいた上位竜へ食らいついた。氷花が砕け散り、上位竜たちは一瞬で氷漬けにされ、そのまま地面へと真っ逆さまに墜ちる。
「崩天落雷!」極雷が一本、垂直に叩き落とされ、数体の上位竜を痺れさせて動けなくした。
「ヴラジのためだ、行くぞ!!」カルロフは魂喰の大剣を掲げ、墜落した上位竜へ突っ込む。
「竜王の右翼を狙え、撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」
ドドドドドドドドドドド!!!!!!!
味方の援護を得たヴラジは一気に圧力を減らし、そのまま白竜王へ猛攻を浴びせ続ける!
戦場は一瞬で怒号に満ちた。人間の雄叫びと竜族の咆哮が混ざり合い、地獄の戦歌となって響き渡る。
...
真っ白な竜首氷原は乱れた血痕で塗り潰され、地面には爆発で穿たれた無数の穴ができ、プレイヤーたちの即席の隠れ場所になっていた。
何体もの上位竜族が倒され、プレイヤーたちはすぐにドロップを確認する。だが、それでも肝心の竜玉は出ない。
決戦はすでに白熱の極みに達していた。両軍とも疲労困憊し、死傷者は増える一方だ。
猟竜団は残り二十人にも届かず、竜族も生き残りは上位竜二体と竜王のみとなっていた。
「グオォ……..................」空から低い悲鳴が響く。
黒竜が白竜王に高空から叩き落とされ、その体には、もはや無傷の場所など一箇所も残っていなかった。
滑らかな鱗は削がれ剥がれ、まるで疥癬に冒された犬のように大片の血肉が露出している。左翼は竜王に食い千切られ、尻には数メートルに及ぶ三本の裂傷が刻まれ、骨が覗いていた。爪はすでに剥がれ落ち、口元も端から一メートル近くまで生きたまま裂かれている。
ヴラジは戦いの間ずっと竜王に食らいつき、さらに他の竜族の攻撃まで受け続けていた。ついに竜王に隙を突かれ、深手を負わされたのだ。
だが、白竜王も無傷ではない。
雪のように白い体表はあちこち焦げ、全身に狙撃手の弾痕と風穴、そしてヴラジに噛まれた跡が刻まれていた。
竜王は地面へ叩きつけられ、そのままヴラジの竜の胸を押さえつけて、口を開いて狂ったように噛みつく。
二頭の巨竜は雪原の上で互いを引き裂き合い、尾が振るわれるたびに大雪が舞い、地が揺れ、プレイヤーたちは近づくことすらできない。
ナスティアの過負荷による疲労は限界に近い。決着は一刻も早くつけなければならない!
だが、魔法は竜の姿となったヴラジまで巻き込んでしまう。そのため、彼女はずっと手を出せずにいた。
その時、白竜王が不意にヴラジの左肩へ食らいつき、肉を塊ごと引き裂いた。
黒竜は耳をつんざくような悲鳴を上げ、地面の白雪は一面、黒泥のような血で染まる。
ドォォ~~!
数発の麻酔弾が白竜王に命中し、わずか半秒、その動きを止めた。
ヴラジはその隙を逃さず、最後の賭けに出る。即座に反撃し、白竜王の首へと牙を深く食い込ませた。
白竜王は狂ったように吠え、黒竜の頭へ何度も爪を振り下ろし、何本もの深い裂傷を刻んだ。黒竜の鱗は黒い雹のように雪原へと降り注いだ。
黒竜の視界が真っ白に染まる。白竜王の雪のような爪が突如その眼窩へと突き刺さり、黄金の竜眼をえぐり取った!激痛に筋肉は制御を失い、ワニのように体をのたうたせる――だが、決して口は離さない。意思の力で痛みを押さえ込み、白竜王の喉へと噛みついたままだ。
二体の巨竜が雪原で絡み合う。まさに今こそ、ナスティアが白竜王を一撃で仕留める絶好の機会だった!
それは分かっている。だが――ナスティアは躊躇した。
ヴラジを巻き込みたくない。
「私……」
「早く!ナスティア様!」カルロフは怒鳴り、大剣を引きずって二竜へ突っ込む。
「わたしは…………っ!グアアア!!生体急凍!!」ナスティアは残るすべての魔力を振り絞り、白竜王の首から下を七秒間、完全に凍結させた。
どうしても――ヴラジにとどめを刺すことはできなかった。
黒竜はそれを見て失望し、同時に力も尽きかけていた。牙が緩んだ瞬間、白竜王に逆に噛みつかれる。さらに白竜王は両腕でヴラジの体を押さえつけ、その喉を噛んで持ち上げた。
「天護の衝撃!」カルロフが叫び、砲弾のように白竜王へ飛び込む。
ヒュッ――横一閃。白竜王の首筋を斬り裂いた。
白竜王は即座に首を折り曲げて傷口を庇おうとするが、かえって無防備な喉元をさらけ出してしまう。
「撃て!!」生き残った狙撃手たちが一斉に発砲!すべての弾が正確に白竜王の眼球へと叩き込まれる!
激痛に白竜王は絶叫するが、凍結により動けない。
その瞬間、黒竜は再び喉腹へ噛みつき、反射的に上へと引きちぎる。
ゴキッ――耳を疑うような骨の砕ける音に、プレイヤーたちは一斉に声を上げた。
黒竜の頭部が引き千切られ、白竜王の喉に噛みついたままの竜の頭だけが宙にぶら下がる。
「耐えろ、ヴラジ様!!」カルロフは天護の衝撃の再使用を待ちながら叫ぶ。
「凝氷術!!!!!!!!!」ナスティアは最後の魔力を振り絞り、白竜王の首の傷口へ続く氷の階段を作り出した。
「早く……生体急凍が……あと……四つ……」ナスティアの瞼は重くなり、意識が揺らぐ。
「うおおお!!」カルロフは野獣のように大剣を引きずり、階段を駆け上がる。踏み切り、一気に跳躍。
ザシュッ――魂喰が白竜王の首へまっすぐ突き刺さる。
白竜王の体が激しく暴れ、氷封に亀裂が走る。
魂喰の大剣をひねり、バキッ!
カルロフは白竜王の頸骨を一気にねじ折った。白竜王はくぐもった声を漏らし、そのまま頭部が地面へと叩きつけられる。
その瞬間、全プレイヤーの視界にメッセージが表示された――
【システムメッセージ: 竜王——ブレイラス 撃破】
【システムメッセージ: 称号獲得 屠竜の覇者】
ヴラジの再登場、皆さんに届いていたら嬉しいです。
次話は、この戦いの“後”です!




