9 翠の血
*R18*に関わる内容は、別の場所で公開します。
「ふふ~、ずいぶん楽しそうなパーティーだね~」
道の先に、武器も姿も判然としない人物が現れた――黒い外套をまとったプレイヤーだ。
「何者だ?! 名を名乗れ!」
まつみが指さして怒鳴る。
「まつみ!」
パシュスが制止し、息を殺して黒衣の人物を睨む。
「ぼく~は~、だれでしょうね~?」
黒衣の人物は無防備に身を乗り出し、挑発する。
大きな麦わら帽子で顔は完全に隠れ、声色だけが意図を語っていた。
「黒い外套……『PK解放』状態の人」
まこは手を震わせ、魔杖を握り締めた。
「待って! もう検査は受けただろ!」
パシュスが鋭く言い放つ。
「あれ~、そうでしたっけ? 失礼。でも、禁止物を持ち込んでないか念のためです。もう一度、確認してもいいですか?」
黒衣の人物は慌てたように頭を下げた。
「なんでだよ! それに、なんでPK解放なんだ? 朝に事前警告があったはずだろ!」
まつみが詰め寄る。
「一度城外に出ていますよね。再び禁止物を持ち込む可能性がありますので、ご理解を」
黒衣の人物は淡々と答えた。
「朝だけで何回もバッグ見せただろ! 爆薬も集団転送アイテムも持ってねえ!!!」
まつみが怒鳴り散らす。
「待って!」
ニフェトが慌ててまつみの腕を掴んだ。
「へえ~……爆薬と集団転送アイテム、ね」
黒衣の人物は満足げに胸を張る。
「しまった!」
まつみは瞬間的に理解し、歯噛みした。
「集団転送は想定してたけど……爆薬まで禁止とはね……」
黒衣の人物が小さく呟く。
「まさか……攻城側の人間か?!」
まつみが歯を食いしばって問う。
「知る必要はないよ。どうせ、今から死ぬんだから~」
黒衣の人物は邪悪な笑みを浮かべ、紫光を帯びた黒い短剣を両手に構えた。
「おい! 俺たちは城の守備側じゃない! なんで襲うんだ!」
パシュスは盾を掲げ、身構える。
黒衣の人物は金色の竜貨を一枚、指先で弾いた。
「……どういう意味だ?」
パシュスは唾を飲み込む。
「攻城戦が始まれば、城主は金をばら撒く。街の連中はみんな味方になる。こっちには不利だからね~。だから今日から“入城制限”さ」
黒衣の人物は笑った。
「じゃあ、入らなきゃいいだろ! 俺たちは引き返す!」
パシュスが言う。
「ダメだよ~。情報を知った以上、放せない。それに君たち、レベルが低すぎて囮にもならない。だから――死んで」
黒衣の人物は穏やかに告げた。
「くそっ!」
まつみが叫ぶ。
四人が一斉に武器を抜き、空気が張り詰める。
「天使の加護!」
「筋力強化!」
「神速!」
ニフェトが次々と祝福を重ねる。
「くくく……一次転職の雑魚が抵抗するか。まずは神職者からだな~」
黒衣の人物が不気味に笑った。
「やれるもんなら来い!」
まつみは弓を引き絞り、眉間めがけて二連射を放つ。
黒衣の人物は薄く笑い、その場から消えた。
四人は背中を寄せ合い、散開せず構える。
神経は張り詰めた弦のようだった。
ニフェトの足元の草地が、かすかに揺れた。
「うおおっ!」
パシュスが盾を構え、音のした方向へ体当たりし、ニフェトを庇う。
「…甘いな…」
先ほどパシュスがいた位置から、黒衣の声が響く。
ザシュッ。
視界に二つの表示が同時に浮かび上がった。
「注意: フレンド まこ HPが20%になりました」
「注意: フレンド まこ HPが0%になりました」
「……え?」
まこの瞳孔が、わずかに緩んだ。
視線を落とすと、胸元に短剣が深々と突き立っている。
血が噴き出し、止まらない。
力の抜けた身体が崩れ落ち、そのまま光の粒子となって宙に溶けた。
ニフェト、パシュス、まつみが同時に叫ぶ。
「ま――まこ!!!」
まつみは理性を失い、狂ったように叫んだ。
矢を掴み、そのまま黒衣の人物へ突き立てる。
黒衣の人物は再び薄く笑い、姿を消した。
「卑怯だぞ! 男なら正々堂々来やがれ!」
パシュスが怒鳴る。
「……ふふ」
黒煙が突然、パシュスの正面に噴き出した。
反射的に盾を構える。
カンッ! ガキン!
鋭い刃が盾を貫き、腕を裂く。
「遅い」
もう一本の短剣が、腰を狙って突き出された。
「注意: フレンド パシュス HPが20%になりました」
「ぐああっ!!!」
腰に深い裂傷が走り、盾と片手剣を取り落として腹部を押さえる。
「回復術!」
ニフェトが必死に詠唱する。
「ニフェト!!!」
まつみが咄嗟にニフェトを引き寄せた。
短剣が、ニフェトの喉元をかすめて通り過ぎる。
「……反応はいい。でも、ここまでだ」
黒衣の人物は嗤い、双剣を掲げてまつみに突進した。
ニフェトを背後に庇い、まつみは燃えるような眼差しで睨み返す。
カッ――
突然、光柱が降り注ぎ、黒衣の人物を弾き飛ばした。
足元に、魔法陣が展開する。
「なに!?」
まつみとニフェトが同時に声を上げる。
「まさか……!」
黒衣の人物が距離を取る。
ドンッ。
黒い薄紗のロングドレスに身を包み、分厚い魔導書を携えた少女が、まつみの前に立っていた。
「ふふ……初心者いじめなんて、趣味が悪いわね」
かなが微笑む。
「高レベルプレイヤーだと……!?」
黒衣の人物の声が揺れた。
「怖い? 今なら犬みたいに足を舐めて謝れば、許してあげるかもよ?」
腰に手を当て、かなは楽しげに言う。その佇まいは、殺戮を楽しむ魔女そのものだった。
「くっ……!」
黒衣の人物は斗篷を翻し、再び姿を消す。
かなは口角を上げ、魔導書を宙へ放った。
放たれた光が地面を照らし、円を描く。
その中で、歪んだ影が蠢いている。
「尻尾巻いて逃げてもいいけど? あなたたちの“秘密”、知ってるのよ。数百人まとめて全滅してもいいの? 失敗したら、ギルドからも罰が待ってるでしょう?」
かなは嘲るように囁いた。
杖を地面に軽く突き立てると、周囲に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「逃げ道がないって分かったなら、大人しく死になさい」
舌なめずりし、かなが告げる。
ヒュンッ――
二本の毒針が空を裂いて飛来した。
前方の空気を凍結させ、薄氷の盾を形成する。
チリン――
氷晶が砕け散り、無数の粒となって舞う。
次の瞬間、背後から黒煙が噴き上がり、黒衣の人物が一気に距離を詰めた。
宙へ跳び、短剣を振り下ろす。
かなは、動かない。
パチン、と指を鳴らす。
足元の草地が、一瞬で溶岩へと変貌した。
「ぎゃあっ!」
黒衣の人物は慌てて身を翻すが、片足を溶岩に沈める。
「たかが二次転職のアサシンがPK解放? 修羅場をくぐってきたお姉さんが、直々に教えてあげるわ」
かなは冷笑した。
「かな! これ……!」
まつみは溶岩の上に立っていたが、傷一つなく、熱さすら感じていなかった。
「安心して。私はPK解放してないわ。もう卑怯者が背後から狙うこともない」
「スキル名も叫ばないなんて、そんな戦い方が公平かよ!」
黒衣の人物は溶岩から這い出し、みじめに叫ぶ。
「まあまあ~。苦労して賢者まで育てた理由を聞く? PvPで相手を一方的に蹂躙するためよ」
かなは魔杖を構え、ガトリング砲のように魔法弾幕を撃ち出した。
黒衣の人物は、かなの周囲を高速で駆け回る。
その足取りは軽く、魔法弾ですら追いつけない。
「はっ!」
かなは獣のように目を見開き、指を鳴らす。
黒衣の人物の周囲に、円形に巨大な岩の陣が出現した。
「捕まえた!!!」
まつみが歓声を上げる。
「なにっ!?」
数メートル級の巨岩に囲まれ、跳び越えることもできず、黒衣の人物は青ざめた。
「許してくれ……俺は命令されただけなんだ……」
「ふふ……さっき私の仲間を殺した時、許す気はあった?」
かなはゆっくりと歩み寄る。
「スキル名を聞きたいって? じゃあ、ちゃんと叫んであげる」
かなは大きく笑った。
「重力歪曲!」
岩の檻が地面ごとわずかに浮き上がる。
「うわああっ!!!」
黒衣の人物が悲鳴を上げた。
「天洪!」
かなは魔導書を岩牢の上へ掲げる。
黒雲が渦巻き、豪雨が降り注ぎ、黒衣の人物の身体を半分まで沈める。
「冷たい! 頼む、許してくれ! 俺は下っ端なんだ!」
必死に岩を叩きながら叫ぶ。
「寒い? ごめんなさいね。……じゃあ、す~ぐ~温めてあげる」
かなの瞳に血のような光が宿り、悪魔の笑みを浮かべた。
「星火連焼!」
魔杖を地面に突き立てると、岩牢の下で炎が轟々と燃え上がる。
岩牢は一瞬で巨大な煮沸釜と化し、黒衣の人物を生きたまま煮立てた。
「はぁ……ダメージが跳ねる瞬間、いつも最高にゾクゾクするのよね……」
かなは目を閉じ、断末魔を愉しむ。
「うああああ!!! 熱い!!!」
凄惨な叫びが響き渡る。
「かな! まこが……」
まつみが不安げに声を上げる。
「大丈夫。護心石が発動して、主城の教会に転送されてる。すぐ戻ってくるわ」
かなは冷静に答えた。
やがて、悲鳴は静かに途切れた。
「どうして俺たちが危ないって分かったんだ?」
パシュスが尋ねる。
「システム通知よ。HPが20%を切ると、オンライン中のフレンドに自動で通知が行くの。誰かが助けに来られるようにね。ただし、フレンド転送は24時間クールタイムがあるから、できるだけ一緒に行動したほうがいいわ」
かなは淡々と説明した。
「はぁ~……さっきは本当に肝が冷えた……」
まつみが額の汗を拭う。
「ほんとよ。次は―――」
かなが言いかけた、その瞬間。
シュッ――パァン!
遠方から、狙撃銃の乾いた発砲音が響いた。
まつみとニフェトは反射的に伏せ、パシュスは盾を構えて立ち上がる。
「伏せて、パシュス!!!」
ニフェトが叫ぶ。
「かな……?」
まつみは、動きの鈍いかなを見つめた。
胸元から大量の血が溢れ、賢者の黒い薄紗を赤く染めている。
手足は痙攣し、思うように動かない。
「……麻酔弾? 油断したわ」
かなは地面に倒れ、感覚のない指を軽くつねった。
「ニフェト!!! 早く治療して!!!」
まつみが叫ぶ。
ニフェトはすぐに駆け寄り、震える手で祝詞を唱える。
「効かない……麻酔の悪性付与が消えません!」
「三次転職スナイパーの特殊弾ね……最低でも二次転職神官の『聖母祈祷』じゃないと解除できない……」
かなは苦しそうに息を吐いた。
シュッ――パァン!
「注意: フレンド かな HPが20%になりました」
「注意: フレンド まつみ HPが20%になりました」
更新は基本【毎日1話】。
さらに、
ブックマーク10増加ごとに1話追加、
感想10件ごとに1話追加します。
書き溜めは十分あります。
一緒にテンポよく、魔王討伐まで突っ走りましょう :)




