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10 翠の血



かなの肩がもう一発撃ち抜かれ、その弾丸は背後のまつみの腕まで貫通した。


「うああ!!!」

まつみは撃ち抜かれた腕を押さえ、激痛に叫ぶ。


「どうするんだ!?」

パシュスは慌てて盾を掲げ、発砲音の方向へ無闇に構える。


シュッ――カン!


かなは前方に、分厚く硬質な巨大氷壁を展開し、それは主城の方向へ一直線に伸びていった。


「……あなたたち、先に逃げて……」

かなの意識が次第に遠のいていく。


「動け! かな!!」

パシュスが叫ぶ。


「麻痺は……あと一分……間に合わない……」

力なく呟き、かなの口元から血が滲み始める。


「まつみ、先に走れ!」

パシュスは叫ぶと、かなを腕に抱え、氷壁を盾に主城へ向かって走り出した。


ニフェトはまつみを簡易治療すると、すぐ後を追う。


「……もう……だめ……」

かなは目を閉じる。


「耐えろ! 主城には神官がたくさんいる!!!」

パシュスは脚に力を込め、必死に城門へ向かう。


「重度の流血付与です! 三分間、毎秒HPが減少しています!!!」

ニフェトが、かなに残る流血効果を指差して叫ぶ。


「……私……」

かなは蒼白な顔で、最後の力を振り絞る。


「喋るな!!! もうすぐだ!!!」

パシュスは目を閉じ、城門へ突進した。


「私の連絡先……KanaaOOm……また……一緒に遊べたら……」

かなはかすかに笑い、そう言い終えると、両腕が力なく垂れ下がった。


【注意: フレンド かな HPが0%になりました】


「護心石!? ……まずい!」

まつみの胸が、重く沈む。


「そんな……」

パシュスは足を止めた。


かなの身体は、彼の腕の中で光の粒子となり、風に散っていった。


「くそおおおお!!!」

まつみは振り返り、長弓を拾って銃声の方向へ狂ったように矢を放つ。


シュッ――パァン!


弓が撃ち抜かれ、真っ二つに折れた。


「畜生!!!!!!!」

まつみは短剣を抜き、罵声を吐き散らしながら平原を突進する。


シュッ――パァン!


短剣も弾き飛ばされた。


「楽しいか!? 出てこいよおお!!!」

まつみは狂犬のように、銃声へ向かって走り続ける。


遠方には、長銃を構えた黒衣のプレイヤーが立ち、まつみの頭部を正確に狙っていた。


「離れろ!!!」

パシュスとニフェトが同時に叫ぶ。


「うおおおおお!!!」

まつみは止まらず、真正面から飛び込んだ。


「……バカだな」

黒衣の人物は小さく呟き、引き金を引く。


「神よ! 俺の最後の盾になれ!」


シュッ――パァン!

眉間を正確に撃ち抜かれる。


【注意: フレンド まつみ HPが0%になりました】


まつみの身体は力なく崩れ落ち、眉間から血が溢れ続ける。


「ふん……」

黒衣の人物は、ゆっくりとまつみと刺客の亡骸へ歩み寄った。


その瞬間、金色の聖光がまつみを包み込む。


「……げほっ、げほっ!」

まつみは意識を取り戻し、眉間の傷は完全に塞がり、血も止まっていた。


「……え?」

自分の身体を見下ろし、信じられない様子で呟く。


「ちっ!?」

黒衣の人物は苛立ち、再び引き金を引いた。


「重力歪曲!」


弾丸は空中へと引き上げられ、天へ舞い上がる。


「みんなー!」

城門から、まこが駆け出してきた。


その背後には、朝に遭遇した赤髪の魔導士と、黒髪の女神官が続いている。

二人の装備にも、龍紋のギルドエンブレムが刻まれていた。


黒衣の人物は舌打ちし、踵を返して姿を消した。


仲間たちは一斉に、まつみの元へ駆け寄る。


「……俺、復活したのか?」

まつみは自分の身体に触れ、呆然と呟いた。


「それは私の復活加護よ。」

女神官はしゃがみ込み、ガラス瓶を取り出して、まつみの口元へ差し出す。

「体力と精神を回復する聖水。飲んで。」


「他の連中は!?」

魔導士が問いかける。


「……逃げた……」

まつみはそう呟いた瞬間、声を上げて泣き出した。


「まつみ~、みんな無事だよ……」

まこが寄り添い、必死に慰める。


「……かなが死んだ……」

パシュスは絶望した表情で呟く。


「え……?」

まこは雷に打たれたように固まった。


「助けに来てくれたんだ……でも狙撃されて……護心石を持ってなかったから……」

ニフェトが声を詰まらせて言う。


「嘘でしょ……かなが……」

まこは震える手でフレンドリストを開く。


【フレンド: かな 0日前4分前に死亡。最終位置:プラムス中央要塞・東門】


「お願いです! かなを助けてください! さっきまつみを復活させたでしょう!? かなも――!」

パシュスは女神官の手を掴んで懇願する。


女神官は静かに首を振り、ため息をついて自分のフレンドリストを開いた。


【フレンド: 名前考え中 3日前32分前に死亡。最終位置:プラムス中央要塞・北門】


【フレンド: バッタ 3日前32分前に死亡。最終位置:プラムス中央要塞・北門】


【フレンド: 可愛いは正義 3日前32分前に死亡。最終位置:プラムス中央要塞・北門】


【フレンド: 闇・幻影黒竜 5日前18分前に死亡。最終位置:黒木沼地】


【フレンド: バンディ 6日前45分前に死亡。最終位置:プラムス中央要塞・北門】


「……もし、復活させる方法があるなら……私が一番知りたいわ……」

女神官は長い一覧を見つめた。


「でも、さっき……」

ニフェトが言いかける。


「さっきのは“加護”よ。死亡する前にかける必要がある。護心石と同じ理屈だけど、その場で復活して三秒間無敵になるだけ。」

女神官は淡々と説明する。


三人はその場に座り込み、数日間かなと過ごした冒険の日々を思い返していた。


「数日前から北門では、敵対ギルドがPK解放してプレイヤー狩りを続けていた。まさか東門にも現れるとはな……」

魔導士が低く言う。


「気をつけて。今は人手が足りないの。攻城戦の一、二日前にならないと、友好ギルドも集まらない……正直、こちらも手一杯よ。」

女神官は疲れた声で言った。


三人は黙ったまま、地面を見つめていた。


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