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2:求められる力

「カミのシんタクだ、ワるくオモウなよ、二んゲん」

玄関前に佇む黒いヒトガタは、奏を先の一撃で潰したと思い込んでいた。

「勝ったと思ってよそ見をする、やっぱ君は本体じゃないね」

黒い人影が前方から聞こえる声に反応し、顔を上げる。そこには、音楽の神に首根っこを掴まれる人間と、どこから取り出したのか、片腕で"トランペット"を構える音楽の神の姿が見えた。

「ガいチゅうガァァ!!」

ヒトガタが剛腕を伸ばしきる前に、音楽の神はトランペットに勢いよく息を吹き込む。

すると黒い人影は後方に吹き飛ばされ、石の塀に衝突する。音楽の神の時とは違い、石の塀は衝撃で崩れた。

「な...なんじゃありゃ...あれが..神?」

「うん、私と同じ神様だよ。暴走気味であぁなっちゃってるけど」

「神って暴走するもんなのかよ!」

音楽の神は奏に自己紹介の時に見せたオカリナを投げ渡す。

「それに君の"好き"を込めろ、難しく考える必要はない、それに応えて力を与えてくれる。私は時間稼ぎをするから、外で待ってるよ」

「ちょっ!おい!説明足らねぇんだよ!」

音楽の神に、奏の言葉は届かなかった。いよいよ音楽の神が言っていた"危険"、そしてそれに対抗する為の力がいることに、実感が湧いてきた。

(たしかこのオカリナに好き?を込めろって?えーと...んーと...うぅー...いやわかんねぇどう言う事だ!?)

好きを込めるだなんて言葉は初めて聞いたし、どうするのかも分からない。この時だけは、1分1秒が惜しく感じた。

(好き..好き..好き..!なにかあれば...ん?)

何を考えれば良いか、そんなことを悩んでいる最中、奏はこう考える。

("難しく考える必要はない"..って言ってたな...)

オカリナを両手で握りしめ、奏は目を瞑った。

集中したい時は、よく目を瞑る事にしている。

そうすれば、視覚と言う雑念が一つ減り、聴覚に全ての感覚を振ることができるからだ。

(風の音、瓦礫の崩れる音、俺の心音、全部..."音楽"だ)

オカリナを握る手に熱が籠ってきた頃、奏は目を開ける。すると無意識か、"吹け"と言わんばかりに、オカリナが自身の口に近づくように、腕が動いていた。

「...ピアノの方が得意なんだけどなぁ」

微笑みながらそう言うと、奏は静かな息をオカリナに送った。

─────────────────────

一方音楽の神は、猫のように背中から殺気を上げる黒い人影の時間稼ぎを頑張っていた。

「そろそろやめにしないかい?君の縄張りに足を踏み入れたことは謝るからさ」

「断ル。たダの人ゲンに姿ヲミられタ。アノ人間はコロス」

(うーん本体が力を増してるのかな?会話が通じるようになってきたね...まぁ好都合だ)

音楽の神は自身の背後を気にする。

「じゃあ私は逃がしてくれるのかい?」

「何ヲ言ウか、オマえハ必ず殺ス」

「そうかい...じゃあ、殺すといい」

そう言うと何をするかと思えば、音楽の神はさっきまで持っていたトランペットを地面に落とし、ハグを求めるかのように手を広げた。突然の降伏に、黒い人影は呆気に取られる。

「ほら、どうしたんだい?もしかして...お得意の"善人ごっこ"かい?」

その言葉を聞いた瞬間、黒い人影を覆う黒い霧が勢いを増す。そして意味不明な怒声を音楽の神に浴びせ、両腕を伸ばしながら飛び掛かる。

「谿コ縺励※繧?k繧医け繧ス螳ウ陌ォ縺鯉ゥ!!!」

...黒い人影の両腕は、音楽の神を捉えた。だからなのか、その両腕が黒いヘドロのような血で染まるのが見える。黒い液体は、神の血を表すからだ。

今度こそ駆除した、そう思っていた。

「手間ヲ...アァ...?....は?」

付いた血を拭こうと、黒い人影はオオカミのように巨大化した口から舌を出して、腕を舐めようとした。

しかしいくら舌を動かしても、なんの感触も生まれない。何故かを確認する為、下に目を向けると、見えたのは肘から下が無くなった自身の両腕だった。

「素晴らしいじゃないか、やっぱり君は史上最高の契約者だよ」

「説明が足りん!あと助けてもらったんだから感謝ぐらいしろ!」

音楽の神は間一髪で奏に助けられ、抱き抱えられていた。しかも、奏は空を飛んでいる。一見すると空気の上を座っているように見えるが、よく見るとベッドほどの大きさの丸い"4部音符"が宙に浮いていて、それが奏の体を支えていた。

「ごめんごめん、言い忘れてたけど抵抗はするから、まぁ頑張ってね」

音楽の神が黒い人影を更に煽る。

奏はその様子を見て、また飛びかかってくるのかと警戒したが、意外にも黙り込んでいた。

しかしただ黙っているわけではない、音楽の神によって引きちぎられた両腕が生えている。なんなら前より長さを増している。

「あの腕、さっき千切った分はすぐに消えちゃったから...アイツの体に本体の"目"があるね」

「え?なに?俺このまま浮いてていいの?」

奏はまだ、自身の力を認識しきれていなかった。

何故かって?今から説明しよう。

...これはさっきの出来事だ、オカリナを吹いた瞬間、巨大な四部音符が穴の一つから膨れて出てきた。

その音符はまるで意思を持っているかのように、音楽の神へと奏を乗せて飛び出したのである。

そしてその流れで、今も空をプカプカ浮かんでいる。

「奏...君の能力はまだ完成系じゃない。今は私の指示に従ってくれると嬉しい」

「そうか?...そうだな、分かった。まぁ今はそうするのが良いわな」

奏は巨大な四分音符からオカリナを渡される。

「あぁ、ありがとう...ってか何コレ?!コイツも神なのか!?」

「それは私の音楽の神としての能力の一部、意思を持つ音符でね、そうだねぇ...四分音符だし"シブちゃん"

って呼ぼう」

どうやら音楽の神はネーミングセンスを母体に置いてきてしまったらしい。

「しぶちゃん...良いな、それ」

お前もかよ。

「そうそう、オカリナはこの子を動かすのにも使えるから。意外と強いよ?この子"達"」

奏達がそんなことを話している間に、黒い人影は両腕を回復させるどころか全身がボコボコと肥大化し、奏の家一階分の大きさになるまで膨れ上がっていた。

それだけでも恐怖だが、更に奴は肥大化した肉を一点に集中させ、奏達が飛ぶ高さまで大きく裂けた口を伸ばしていた。もはや人型じゃなくて化け物だ。

「うをぉおお!?やべぇえ!!」

しかし直前でシブちゃんが動いた事で、奏達はその噛みつきを避けることができた。

「危ねぇ!今避けてくれたのか!?」

「君が避けようと思えばそれに反応するだけだ!」

音楽の神の一言で、奏はシブちゃんの性質を理解した。口に続いて伸びてきた2本の剛腕も、奏の意思で左右に軌道を描き、次から次へと避け続けた。

「こりゃ便利だな!毎朝使いたいくらいだ!」

「褒め言葉として受け取るよ。でもこのままじゃ時間が掛かる、だからね...」

音楽の神は奏の耳元で作戦を呟く。

「...は?マジで?」

「うん、良いよ」

奏は躊躇う様子を見せるも、直ぐに躊躇う必要なんてないことを思い出す。

そして黒い化け物の攻撃を掻い潜っている最中に、いきなり空中でブレーキを掛けた。

それは化け物にとって隙を晒しているも同然、更に余りにも動く様子がないので、念には念を、化け物は奏達を一撃で仕留めようと、伸ばしていた手足を引っ込め、ギチギチと力を貯める。

「そんなに殺してぇか?じゃあ...コイツやるよ!」

奏は突然音楽の神を化け物めがけて投げつける。

「バ繝舌き縺梧ュガ!!!????サ縺ュ繧?ョウ陌ォ縺ヨ!!!!!!!」

化け物は狙いを音楽の神に変え、縮めて力を凝縮させた手足を解放し、一気にぶつけた。


 バチュッッッ!!


...すると肉の潰れる音が辺りに轟き、それが化け物の口を緩める。だがそれは、奏も同じだった。

「良かったよ...テメェが馬鹿で!」

化け物が声に反応した頃には、もう遅かった。


ゴッッ!!プヂ...ブチ...グシャッッ!!!


...顔面から順に、化け物はシブちゃんに押し潰された。抵抗したが、奏の上からの力も加わり、ジワジワと体の繊維を潰された後、一気に砕けた。

「ハァ...ハァ...もう無理、疲れた...」

奏はシブちゃんの背中で大の字になるように倒れる。その衝撃に反応したのか、シブちゃんの中からなんと潰された筈の音楽の神が顔を出す。

「ぷはっ!はぁ、やっぱり君達の中は居心地が良いね」

「能天気だな...俺は今心臓バクバクだよ」

音楽の神は化け物によって殺された筈、じゃあ何故無傷で生きていたのか、まず何故奏は音楽の神を投げ飛ばしたのか、その理由は音楽の神の耳打ちにある。

「私を奴に向かって投げろ、隙が生まれたらシブちゃんで押し潰してくれ」

音楽の神は化け物のヘイトが自身に向いていることを察知していたため、自ら囮役を選んだのだ。

そして攻撃を喰らわず、シブちゃんの中から出てきた理由は...

「私と私の契約者は、シブちゃんの体の中に入ることができる。奴の噛みつきを防いだ後、私はシブちゃんの体内に入って避難したんだ」

おや、丁度説明してくれたようだ。

「なるほど...てか私の契約者って、俺もコイツの中に入れるのか?」

「もちろん入れるよ、まぁ今は必要ないけど」

音楽の神の言葉に反応するように、シブちゃんは突然姿を消し、その上で大の字に寝ていた奏は、その体制のまま地面に落下した。

「痛ったッ!!なんで?!なんで消えた?!」

「このまま出してても邪魔だし、引っ込めたんだよ。そんなことより奏、これ」

老人のように腰をさする奏に、音楽の神は野球ボール程の大きさと質量を持つ、猫の目のような球体を差し出す。

「うわっ!なんだこれ...もしかしてお前が言ってた"本体の目ってやつか?」

「そう、正解。初仕事の報酬だよ、受け取ると良い」

奏は首を激しく横に振り、無言で断った。

「要らないのかい?じゃあ私が持っていよう」

音楽の神がその目玉をポーチの中に入れるのを見届けると、奏は深く息を吐き、周囲を見渡した。

それで見えた景色に、奏は声に出さない驚きを覚える。壊された筈の外壁も、潰れた道路も、全て元通り...まるで今までの出来事が、全て無かった事にされたようだった。

「ん?どうしたんだい?...あぁ、君の家なら心配しないでくれ、神や◾️◾️◾️◾️はこの世界に...」

(ん?なんだ?今なんて...)

奏は立ち上がり、音楽の神にもっと近寄ろうとするが、糸が切れたようにそのまま倒れる。

(あ、やばい...今は...)

辛抱堪らず、地べたの冷たさを肌で感じながら、奏は気を失ってしまった。

「...まぁ仕方ないね、まだ生まれたてで本調子じゃなかったし、今日は休ませるか」

音楽の神はオカリナを吹き、シブちゃんを呼んだ。

「じゃあ奏をさっきの部屋までよろしくね」

シブちゃんが奏を背負って移動を始めようとするその瞬間、音楽の神は背後から気配を感じ取り、シブちゃんの動きを止める。

「今日はチャーハンかしら...あら?あなた...」

聞いたことのない声、音楽の神が振り返ると、そこには奏より年上であろう、スーツ姿の女性が立っていた。

「おや...奇遇ですね、"お母様"」

突き刺すような争いの終わり...しおりを挟むには、

まだ早いだろう。


















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