第17話『逃げることも手向かうこともできず、体がすくんでしまうこと』
【星間連合帝国 アイゴティヤ星 首都中央広場】
<AM10:00>
奇々怪々といった周囲の視線など何のその。ダンジョウは両腰に手を当てて胸を張り、一点にクリフォードに視線を向けていた。しかし不思議な事にいきなり怒号を上げた彼に対して大衆からブーイングなどはなく静寂に包まれている。それはどこか彼の次の言葉を待っているかのようだった。しかし、大衆の望みとは別に次に響いたのは拡声器の前に立つクリフォードの声だった。
「……ダンジョウ=クロウ・ガウネリン……様ですね」
クリフォード・ストラスの発した言葉に大衆は視線を向けると同時にダンジョウは違和感を感じた。クソ野郎と罵った相手が敬語を使ってくる。このような経験はダンジョウにとっては初めてだったのだ。
クリフォードの言葉と同時に彼の立つステージのスクリーンには大々的にダンジョウの姿が浮かび上がる。その表情を見てダンジョウの心情を察したのか彼は不敵に微笑みながら口を開いた。
「まさかこのアイゴティヤ星にいらっしゃるとは想定外でした。……君の想定も外れることがあるのだな」
そう言ってクリフォードは背後の座席に腰を下ろす坊さんに一瞥をくれてから再びダンジョウの方に向き直って続けた。
「今や帝国を揺るがす戦皇団……その首領である貴方だが、前皇帝陛下のご子息でもある。となれば私には貴方様の要件を聞く義務があると言っていいでしょう。その前にお聞きしたい。このアイゴティヤ星に何か御用ですかな?」
「決まってんだろ。テメーみてぇなクソ野郎をぶっ飛ばしに来た!」
ダンジョウは目を吊り上げる。しかしクリフォードの表情は変わらなかった。
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こんな興奮はいつ以来だろうか。そう思うほどにダンゲル・アルケリオは興奮を押さえずにはいられなかった。大学卒業後に報道業界に入った頃から彼の信念は変わらない。それは真実を大衆に知らしめるという事だった。しかし、彼の地位が上がるにつれてそれは叶わなくなった。腐った政治家や企業、マフィアが持つ権力という圧力にに屈さざる得ない状況に陥っていったからだ。
しかし今は違う。このライブ状況は隠しきれるものではないのだ。
「社長! 帝国広報部から放送の中止指示が!」
運用班である男の声が放送室内に響き渡る。その声を聞いた放送機器を操作する配信部の男は放送を取りやめようとするが、ダンゲルは運用班の男の通信端末を奪い取って通信を切った。
「うん、そんな事は放っておこう」
呆然とする運用班に対して、ダンゲルは見向きもせずに中継中の映像を見上げていた。
「あの姓名発表以来世間に顔を出していなかったダンジョウ=クロウ・ガウネリン……さぁ、君は何を語るんだ」
その時、ダンゲルの目は若かりし頃と同じくを燦燦と輝やいていた。
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子どもの悪口。そう言っても差し支えないだろう。しかしこのまま返すのも得策ではなかった。クリフォードにとって今目の前に敵対勢力のトップがいることは好都合でもあるのだ。
「私がクソ野郎ですか。しかし平穏な帝国に不穏を齎すあなた方はどうなのです? 帝国民は日夜戦皇団のテロ行為に怯えている。そのように主導する人間こそ問題があると感じますが? そしてその脅威から民衆を守るため、他惑星に対してヤシマタイトの援助を行う。この行為を行う私と貴方の違いは何ですか?」
クリフォードの演説にも似た言葉の羅列に大衆は顔を見合わせる。中には「確かにそうだな」「知事は皆で助け合おうとしている」といった声が上がっているのがダンジョウの耳にも届いているだろう。
しかし、ダンジョウはどこ吹く風と言った様子で胸を張り再び声を上げた。
「そうだ! 他の星に手ぇ貸してやるってのは真っ当で良い事だ! でもな、その為にオメーは衛星に住んでる人間を苦しませてんだろうが! テメーらはこんな豪勢な式典開きやがるくせにな!!」
ダンジョウの叫びに大衆はピンと来ていない様子だった。恐らく、この星にも衛星を見下す文化があるからだろう。しかし、クリフォードは違った。彼は思いがけない一言だったのか少し眉間に皺を寄せている。その表情を睨みつけながらダンジョウは口を開いた。
「俺はテメーみてぇに自分たちだけがいいって考えの野郎が大っ嫌いなんだよ! ここでピンと来てねーテメーらもだ!」
クリフォードだけでなく会場に集まる民衆に向けてもダンジョウは怒号を上げる。こうなれば大衆も文句の一つでも言いそうなものだが彼らは動かない。まるで彼の姿を見逃さないように、彼の言葉を聞き逃さないように、その一挙手一投足に魅入られているようだった。
「人間っつーのはみんな平穏に暮らす権利があんだ! 全員が真っ当に日々平穏に暮らす世界を作んのが政治家の仕事だろうが! それが出来ねぇってんならオメェ等をブッ飛ばす! そしてそういう世界を作らねぇってのはこの俺に喧嘩売るって事だ!」
ダンジョウはそう告げてクリフォードの方に指を指してくる。その仕草と同時に大衆の視線は一気に彼に向けられた。
クリフォードは冷静だった。だからこそ自身の中に芽生えた恐怖心を認識していた。
「(……この男……何という……)」
ダンジョウ=クロウ・ガウネリンの言葉は理に適いながらも付け入る場所は無数にある。そもそも、食糧輸送が途絶えつつあるのは戦皇団がレオンドラ星に対して圧力を掛けたからに過ぎないのだ。更に言えば衛星の対応は彼の隣で狼狽えた様に固まるセドリック・ガンフォール副知事に一任している。
それでもクリフォードは次に出す言葉が出てこなかった。ダンジョウという男は圧倒的な存在感と揺るがない瞳だけで人心を掌握する力を持っているのだ。その見えない大きさにクリフォードの口から出たのは最も稚拙な言葉だった。
「……貴方には……帝国軍より逮捕命令が出ている。衛兵! テロリストを拘束しろ!」
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大衆が再びざわつき始める。ここまで何故黙っていたのかとダンジョウは疑問だったが、ふと時間が置かれた隙に思い出したかのような帝国軍憲兵たちが「続け!」と無数に姿を現した。
あっという間に取り囲まれたダンジョウだったが、彼は憲兵に見向きもせずにクリフォードを睨みつけながら腰の剣を抜いて彼に向けた。
「やるってんだなクソじじい! テメーと俺でサシでやり合おうじゃねぇか!」
ダンジョウはそう叫ぶと剣を肩に担いで走り出す! 大衆は悲鳴を上げながらその道を開くが、それと入れ替わるように衛兵がその道を塞がれ、彼は思わず足を止めた。
「止まれ! ……じゃなくて、お止まりください!」
「大人しくご同行ください!」
「何をやっている! 相手はテロリストだぞ!」
「し、しかし殿下に対して……」
戸惑いを見せる衛兵の数が見えた瞬間、ダンジョウはニヤリと笑いながら再び叫んだ!
「あのジジイがおかしいと思う奴は黙って道空けろぉッ!!」
その言葉に衛兵たちの表情が歪む。しかし後方から走って来た男が無慈悲にダンジョウに向けてブラスターライフルを向けてきた!
「ぬおっ!」
ダンジョウは慌てて後方に飛ぶと閃光が足元に打ち込まれる。閃光が向かってきた方にダンジョウは視線を向けると、まるでベンジャミンのような巨躯の男が紫煙を上げるライフルを抱えて姿を現した。
「悪いな兄ちゃん。俺は皇族に対す崇拝を持ち合わせちゃいねーのよ」
「何だテメー」
「しがない雇われ傭兵だ。雇われてる以上は仕事させてもらうぜ!」
しゃがれた声で再びライフルを構える大男にダンジョウは「うげ!」と焦りを見せる。大男が引き金と同時に再び閃光がダンジョウに向かってくる! しかしその閃光が彼の眉間を貫くことは無かった。目の前に見覚えのあり過ぎる背中が現れたからだ!
弾かれた閃光は式典会場を彩るドローンに直撃し爆散する。ダンジョウはその爆発の下に大衆がいない事を確認すると目の前に現れた男に微笑みかけた。
「ありがとよビス!」
目の前のビスマルクは巨大な盾を収容すると呆れたように微笑みながら振り返って来た。
「兄貴ぃ……あんま離れんといてくれや。ま、そぎゃんこつよりも……キサン! 兄貴に向かって撃ちよったのぉ! そいばオラにも喧嘩売るっちゅう事じゃ! 死に晒せぇボケがぁッ!!!!」
ビスマルクの怒号に衛兵たちは一気に縮こまる。
その光景を見たダンジョウは百人力と言わんばかりに不敵に笑った。




