表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EgoiStars:RⅠ‐3358‐  作者: 紅城楽弟
帝国暦 3358年 <帝国標準日時 7月6日>
18/20

第16話『条件などにかなっていて、都合がよいこと』

【星間連合帝国 アイゴティヤ星 首都中央広場】


<AM10:00>


 「コウサ、時間だ」


式典会場ステージ前室でくつろいでいたコウサ=タレーケンシ・ルネモルンはネメシス・ラフレインその言葉に小さく溜息をつく。しかしそれも仕方がない。彼にとって数少ない楽しみの一つである毎週更新の漫画が今まさに急展開を迎えた時だったからだ。

 コウサが二次元ディスプレイから手を離すとまるで溶けるように消えていく。ディスプレイが消え切る前に彼は立ち上がるとネメシスの方に振り返る。すると彼の心情を察しているのかネメシスは少し口角を上げていた。


「スピーチの内容は頭に入っているか?」


「入っとらん。っちゅうたらどうなるんや?」


「カンペ用の二次元ディスプレイは一応準備してあるさ」


用意周到なネメシスにコウサは小さく鼻を鳴らすと、彼と並んで前室を後にした。

 海陽系を騒がす戦皇団に備えてフマーオス星にヤシマタイトの支援を送る。その支援式典はすでに始まっている。コウサとネメシスが歩くステージ裏の通路にはステージ上の映像が映った二次元ディスプレイが並んでいるが、かなり多くの人が集まっているようだった。


「アイゴティヤの愛国者をかなり集めたそうだ」


「サクラの前で決められたスピーチするっちゅう訳か。思った以上につまらん仕事やな」


「道化を演じるのは上に立つ者の宿命だぞ」


「その通りだ」


ネメシスとの会話に立ち入る言葉にコウサは振り返る。そこに立っていたのはアイゴティヤ星知事であるクリフォード・ストラスだった。


「おー知事はん。相変わらず見事な角でんな~。一辺触らしてくださいや」


「枢機卿には聞きたいことがある。式典の事前打ち合わせに欠席した理由、そして私に到着の挨拶が無かった件だ」


尊大にして傲慢な言葉にコウサは小さく肩を竦めた。

 一宗教家であれば迷える人々を救うために説法や加護を与えたいのが本質である。しかし枢機卿となればそれだけではない。世の中は綺麗なだけではないのだ。そんな中で支援式典でスピーチは綺麗な仕事に当たる。しかし蓋を開けてみればプロパガンダに利用されているにすぎないのだ。


「……大物顔が仰山おりまんなぁ。さすが知事はんや。こないな人たちと一緒の会議は緊張しますさかい。あと、知事はんは忙しそうやし挨拶は遠慮させてもらいましたわ」


コウサはそう言いながら周囲の反応に気が付いた。クリフォードが気付いているのかは知らないが、周囲のスタッフたちは皆こちらの様子を窺っている。そしてその中で一際聞き耳を立てているように見えたのがバリアント政経社社長ダンゲル・アルケリオだった。

 面倒なことを口走り厄介な事を広められる訳にもいかない。コウサはなるべく穏便に済ませるつもりで対応していたが、それを察したネメシスは割って入るように口を開いた。


「お二人とも、そろそろ登壇です。ご準備を」


ネメシスの言葉にクリフォードは無言のまま鼻息を小さく鳴らすことで答えてコウサを横切っていく。コウサはネメシスに笑顔でウインクしてからクリフォードの後に付いて登壇すると歓声が響き渡った。

 ディスプレイとその目で見る実際の光景には違いがある。それを証明するように観衆の数は壮大だった。しかし海陽系において最大の質量を誇るアイゴティヤ星ならばこれくらいの人数を集めるのは容易なのではないかとコウサはどこか冷静に思っていた。それもこれも大勢の前で公演などを行ってきた賜物だろう。

コウサはまず来賓用の席に腰を下ろすが、クリフォードはそのまま演説台に向かい始めた。タイムプログラムではここからクリフォードの式典の開幕宣言である。彼が演説台に立ち拡声器の前に顔を近づけると、必然的に観衆は彼の言葉を待つように声を静めていく。そしてクリフォードがようやく口を開こうとしたその時だった。


「オラーーッ! テメーがクソ知事かこの野郎! 偉そうな髭しやがって!!」


式典会場に急に怒号が響き渡った。屋外であるにもかかわらず響き渡るその声に誰もが振り返るが、コウサは瞬間的に自らの記憶を巡っていた。昨年……とある映像の中でその声を聴いた記憶があったのだ。

 記憶を意図を紐解いたコウサはパッと目を開き声の先に視線を投げる。そこには中継用のコンテナがあり、その屋根の上に立っていたのは黒髪紅眼の青年だった。そしてその姿は髪型は違えど何度となく相まみえた現皇帝ランジョウ=サブロ・ガウネリンに酷似している。その姿を見てコウサは思わず呟いた。


「……ダンジョウ=クロウ・ガウネリン」


式典会場である屋外のコウサは思わず小さな笑みを浮かべて立ち上がる。

 こうなれば式典は中止だろう。そんな事態を引き起こしたダンジョウにコウサは心の中で感謝した。


「(スピーチ、覚えとらんかったから助かったで)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ