第13話『理非を考えず、むやみやたらに発揮する勇気』
【星間連合帝国 アイゴティヤ星 首都中央広場】
<AM09:25>
久し振りの屋外、大勢の人だかり、数えきれない出店から漂う様々な香り。
お祭りの賑やかさに当てられれば誰もが心が躍るものである。ましてや日ごろから隠れるように生活している者からすればそのワクワクは倍増すると言っていい。
今の目的は一つ。この大量に購入した串焼きを船にいる面々に持ち帰る事である。しかしダンジョウは我慢できずに思わず袋から一本取りだして頬張った。
「ンマッ!」
いつの時代でも甘辛いタレに付け込んだ肉を焼けば美味い。そんな人類の宿命ともいえる旨味を感じながらダンジョウは行き交う人々を避けながら船へと向かっていた。
首都中央広場は賑やかさにダンジョウは不思議に思った。恐らく、今日は何かお祭りなのだろう。まだ朝と言ってもいい時間帯でありながらも、出店の店主や近隣の住民たちの笑顔は絶えない。木陰の方には遊びまわる子供たちの姿もあった。
「(……平和なもんだな。フィーネが住んでたスラムとは大違いだ。……もしかしてあの地区だけが貧乏で他の星は結構幸せにやってるもんなのか?)」
自らの使命に対してダンジョウは疑問を持った。彼は今宰相派と戦っている。しかしそれは貧困や差別、そして他国との友好関係を結ぶためだったと言っていい。しかし、こうしてアイゴティヤ星を見ていると、少なくとも貧困については少ないように見えた。
しかし、そんなダンジョウの思いは杞憂だったという事がすぐに発覚した。
「おい! 待てガキ!!」
後方から走ってくる小さな影にダンジョウは目を凝らす。それは外套と呼ぶにはボロボロの布切れを纏った小さい子供のようだった。
何かを抱える子どもが息を切らしながら走り、それを盗まれた店の店主と思しき男が追いかけている。子どもがダンジョウの前を走り去ろうとした瞬間、ダンジョウはその外套の首根っこを掴んだ!
「わぅ!」
振り子のように子どもの身体が弧を描く。ダンジョウはそのまま子どもを床に組みふせると、追いかけてきた店主はダンジョウに微笑んだ。
「ありがとうよ兄ちゃん! オイクソガキ!」
店主はその大柄な体を駆使して有無も言わさずに子どもを蹴り上げた!
「おい!」
ダンジョウは思わず制止しようとするが子どもはすでに地面を転がっており、花壇にぶつかって止まると動かなくなった。
「やめろ! 相手はまだガキだろ?」
ダンジョウは店主の腕を掴むと、店主は蹴り上げた時と打って変わって再び柔和な笑みを浮かべてて振り返って来た。
「兄さん観光かい? だとしたら知らねぇだろうな。このガキは上の衛星から密入星したガキだよ」
店主はそう言って蹲る子どもの方に歩み寄ると、隠されていた顔を露にして子どもの髪を掴み上げた!
「い、痛い痛い!」
その悲痛な声から察するに少女だろう。
少女は髪を掴む店主の腕を掴むが、店主はまるで虫けらを扱うように少女に鋭い眼光を向けた。
「おい衛星のガキ! オメェみたいなもんが何首都に入ってんだ?! 何より今は衛星の連中は惑星に入んなって命令が出てんだろうが!」
店主の怒号を聞いた周囲の人間が口々にウンザリとした表情を浮かべた。
「なーに? 衛星の子ども?」
「軍警察に突き出せよ」
「ったく。今日は式典だってのに貧乏人を入れんなよ」
その言葉にダンジョウは先程の自身が思ったことが杞憂だったと感じとる。
結局どの星にも貧困や差別が存在するのだ。ここ一年、宇宙海賊と共に隠れ家ともいえる小惑星帯で過ごして来た時には感じえない状況にダンジョウは思わず眉を顰めた。
「まったく気に入らねぇ!! 軍警察に出す前に殴らねぇとな!」
店主が拳を振りかざす。その時、ダンジョウの脳裏に昔の光景がよみがえった。
妙な機械を押し付ける軍人
その機械の作動と同時に悲鳴を上げるフィーネ
ダンジョウは自分が走り出している事に気付いた時には腕を振りかざす店主の眼前に迫っていた。
彼はまるで身体が勝手に動いたかのように飛び上がる! そして店主の顔面に飛び膝蹴りを食らわせていた!
「ぐへぇ!」
店主が天を仰ぐと「ベキッ」という鼻の骨が折れる鈍い音と、晴天には似つかわしくない鮮血が宙を舞う。周囲はウンザリとした表情から悲鳴や驚きの声に切り替わるのには時間は掛からなかった。
「キャー!」
「おい! 何だ何だ!」
店主はまるで糸の切れた人形のようにそのまま仰向けになって倒れ込む。
地面の落ちた少女は自身を捕えた人間に助けられるという状況に戸惑っているのか、尻もちをつきながら呆然としていた。
「あ、一応目立つなって言われてんだった」
急に頭の冷えたダンジョウは思わずシャインの言葉を思い出す。そしてこの後の状況を予想するとその顔は徐々に青褪めていった。
「……や、やばい……ババァに殺される」
恐怖心に煽られたダンジョウ、戸惑う少女、顔面が血だらけで倒れる店主、周囲がどよめく中で軍警察の警笛音が響き渡った!
「どけー! 何事か!」
「やべ」
ダンジョウは慌てて少女を担ぎ上げる。そして腰から液体金属の両手剣を引き抜くと、周囲を取り囲む面々の中に突っ込んでいった!
「オラ―! どけどけ! ぶっ殺すぞ!」
無茶苦茶な行動を起こす不審者に周囲の面々は別の意味で恐怖心を覚えたのだろう。ダンジョウを突っ込むと取り巻きはまるで蜘蛛の子を散らすように道を開けて行った。




