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『キャンバス』

角くん視点。

多分『ポーション・エクスプロージョン』のあたり。

(かど)くん、今日のゲーム」


 傘越しに、大須(だいす)さんの声がする。それぞれの傘と傘を叩く雨粒の音に阻まれて、声が聞こえにくい。

 俺は傘をかいくぐるように頭を下げて、傘の向こうの大須さんの顔を覗き込んだ。


「面白かったよ。出来上がった絵が綺麗で、楽しかった」


 大須さんは俺の顔を見上げて、そう言って笑った。楽しかったって、ゲームが終わった後も聞いたけど、何度聞いても嬉しい言葉だ。ほっとした俺も、きっと笑っていると思う。


「面白いゲームだよね。テーマも良いし、内容物(コンポーネント)も良いし」

「名前、なんだっけ」

「ゲームの?」

「そう、ゲームの」


 傘がぶつかって、俺は慌てて姿勢を戻した。

 俺と大須さんの身長差は、今は多分二十センチよりも大きい。

 雨の日は傘のせいでいつもより距離が離れるし、雨音みたいな邪魔もあって、普段よりも声が聞き取りにくい。大須さんとこうして話すようになって、俺は雨の日がますます嫌いになっていた。

 もともと雨は嫌いだ。ボドゲを持ち歩くのに、雨の日は気を遣う必要があるから。


「『キャンバス』だよ」


 今日遊んだのは、透明なカードにモチーフが描かれていて、それを重ねて絵を完成させるゲームだ。モチーフにはそれぞれ特徴があって、指定の特徴を持った絵を完成させれば点数になる。

 モチーフごとにタイトル用のワードが書かれていて、それによってタイトルが決まるところも面白い。

 大須さんのボドゲの世界では、絵筆を振るえばキャンバスの中に絵が浮かび上がってきて、それも楽しかった。


「え、ごめん、聞こえなかった」


 俺の声はどうやら大須さんには届かなかったらしい。それもこれも雨のせいだ。

 もう一度、背中を丸めて腰を曲げて、大須さんの傘の下まで顔を下げる。


「『キャンバス』……」


 大須さんは傘を傾けて、俺を見上げた。

 それで、大須さんと俺は傘の下で真っ直ぐに見詰めあってしまった。

 思いがけない距離感に足を止めれば、大須さんも足を止めた。色素の薄い瞳が、瞬きをして俺を見上げていて、吸い込まれそうになる。


 傘の隙間から落ちてきた雫が、俺の髪を濡らす。

 雨粒の冷たさに、俺は慌てて体を起こした。


 何か危なかった、気がする。


 なぜか心臓は大きく跳ねていて、収まる気配がない。冷たい雨粒がなぞる頰が、熱い。傘を持つのと反対の手で、口元を押さえる。


「『キャンバス』か」


 大須さんは何もなかったかのようにそう呟いて、そして歩き出した。その後ろ姿が何かの絵のようで、そのまま大須さんがどこかに行ってしまいそうで、慌ててそれを追いかけて歩き出す。

 横に並ぶ。ちらりと隣を見ても傘に阻まれて大須さんの顔は見えない。

 雨も傘も嫌いだけど、今だけは、傘の分だけ開いた距離に感謝していた。おかげで大須さんに今の顔を見られずに済んでいるから。





『キャンバス』


・プレイ人数: 1〜5人

・参考年齢: 14歳以上

・プレイ時間: 30分前後




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