『それはオレの魚だ!』
大須さんの友達視点。
一年の夏休み前。
定期テストも終わって後は夏休みを待つばかり。
わたしは瑠々ちゃんと二人、いつもみたいに季節限定のドリンクを飲んでいた。
さっぱりとしたレモンフラペチーノ。甘酸っぱい冷たさが喉を通るのが気持ち良い。気付けばもうすっかり夏だ。
瑠々ちゃんも一口飲んで、幸せそうな顔をする。
「それで、最近はどう? その、部活は」
一息ついてから聞いてみれば、瑠々ちゃんはちょっと首を傾けた。
ボドゲ部はまだ部活として成立してなくて、仮の状態らしい。そんなボドゲ部(仮)で、瑠々ちゃんは角八降という男子と二人、ボードゲームというものを遊んでいる。
瑠々ちゃんはゲームが嫌いだから最初の頃こそ心配した。一緒に遊ぶようになった経緯もはっきりしなかったし、瑠々ちゃんは「いろいろあって」としか言わなかったから。
それが少し変わってきたと思う。
最初の頃は仕方なくという雰囲気だったけど、最近はなんならちょっと楽しそうに見えることすらある。
だから安心して良いんだろうとは思っていたけど、それでもやっぱり、本人の口から聞いておきたい。
「ボードゲームを遊ぶのには、少し慣れてきた、かな」
「困ってたりしない?」
わたしの質問に、瑠々ちゃんは「うーん」と考え込んでから口を開いた。
「角くんには怖いのが苦手ってちょっと伝わってなくて、ときどき怖いゲームを持ってくるんだよね」
「怖いゲーム、なんてあるの?」
「そう。幽霊とか、お化けが出てくるような」
瑠々ちゃんは溜息をついて、またストローを咥えた。
「そういうの、遊ばされるの?」
わたしが眉を寄せれば、瑠々ちゃんは慌てたようにストローから口を離した。
「あ、わたしが嫌だって言えば、ちゃんと諦めてはくれるから、大丈夫。基本的には、怖くないゲームを持ってきてくれるし。綺麗なのとか、可愛いのとか。ただ、たまにちょっとズレてるっていうだけで」
「大丈夫なの?」
瑠々ちゃんは顔をあげて、わたしを安心させるみたいに、ちょっと笑った。
「大丈夫。かなり気を遣ってもらってるのはわかるし。それに、遊んでみたら楽しいことも多いから」
「なら良いんだけど」
わたしの視線が疑わしそうに見えたんだと思う。瑠々ちゃんはわたしの顔を覗き込んで、さらに言葉を続けた。
「この前遊んだゲームは、えっと、名前は忘れちゃったんだけど、面白かったよ。氷の上でペンギンになって魚を取り合うの。氷の上だから滑っちゃって真っ直ぐしか動けなくて、氷はどんどん割れて最後は海に落ちちゃうんだけど、ペンギンだから大丈夫で。ペンギンも可愛かったし」
瑠々ちゃんが一生懸命に説明する言葉に、わたしは頷いてレモンフラペチーノを一口飲む。
「最後は海に落ちちゃったけど、魚はいっぱい取れて、勝てたんだよね。角くんがいろいろアドバイスしてくれたからだけど。でも嬉しかった」
そうやって笑う顔は、取り繕っているようには見えなかった。
だからきっと、瑠々ちゃんは本当にゲームを遊んで、楽しんでいるんだと思う。あの瑠々ちゃんが。
「そっか。まあ、楽しそうで良かったよ」
わたしがそう頷けば、瑠々ちゃんはほっとしたような顔をして、またストローを咥えた。
瑠々ちゃんが楽しめているなら、わたしにはそれ以上何も言うことはないはず。なんだけど、なんだかちょっと面白くないような気もしていた。
ボードゲームに、あるいはボドゲ部(仮)に、もっと言えばその角八降という男子に、瑠々ちゃんを取られたような、そんな気分。
でも、そんなちょっとしたもやもやは、レモンフラペチーノの爽やかさがどこかに押し流してくれた。
『それはオレの魚だ!』
・プレイ人数: 2〜4人
・参考年齢: 8歳以上
・プレイ時間: 20分前後




