『テラフォーミング・マーズ』
伊佳瑠兄さん視点。
角くん中学生の頃。出会って二度目くらいかな。
「あ、えっと、いかさん……でしたよね、よろしくお願いします」
俺の正面に座ったカドさんが、そう言っておずおずと頭を下げた。先月から参加するようになった中学生。
カドさんはさっきまで向こうで新作の卓にいたものだから、こっちに来ると思ってなくて、少し戸惑った。俺の戸惑いに気付いたのか、カドさんはちらりと向こうの卓に視線をやった。
「向こうは人気で。二回目もやるって言ってたので、じゃあ俺は二回目で良いかなって。それに、『テラフォ』の『動乱』は遊んだことないから、遊んでみたいなって」
「ああ、俺も『動乱』は初めてですよ」
俺の言葉に、カドさんはほっとしたように微笑んだ。
テラフォ──『テラフォーミング・マーズ』は、火星開拓をするボドゲだ。とにかくカード量が多くて把握しないといけないパラメータも多くて、勝ち筋もいっぱいある重めのゲーム。『動乱』はその拡張──追加コンテンツだ。
拡張が入ると、ボドゲの面白さが変わる。新しい要素が入って、それまでの効率の良いプレイが通用しなくなったり、新しい勝ち筋が見つかったりする。
それは、新作を遊ぶのとはまた違った面白さだ。
「四人で確定かな。みんなテラフォ自体は遊んだことある感じですよね? 基本のルールは大丈夫?」
ボドゲの持ち主が、箱を開けながら席に座った俺たちを見回す。それぞれが頷くと、今度は『動乱』拡張の説明が始まった。
「じゃあ拡張の説明から入っちゃうけど、この拡張では『世界的命題』と『テラフォーミング委員会』っていう二つの要素が追加されます」
みんなで持ち主の説明を聞く。その傍らふと、こないだも同卓したな、なんて気付いてカドさんの方をちらりと見る。ひょろりと背の高い、真っ黒い髪の中学生。
一口にボドゲ好きと言っても、その嗜好は幅広い。
重ゲーばかり遊ぶ人と軽ゲーばかり遊ぶ人、大喜利系が好きな人、正体隠匿系が好きな人、ワーカープレイスメントが好きな人。本当にその好みは様々だ。
なのだけれど、カドさんとは趣味が合うのかもしれない、ということをなんだかそのときに思ったのだった。本当になんとなく、特に根拠も何もないことだったけど。
『テラフォーミング・マーズ』
・プレイ人数: 1〜5人
・参考年齢: 12歳以上
・プレイ時間: 90〜120分




