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『花火』

角くん視点。

『なつめも』の後。

 夏祭り、誘ったのは俺だ。

 だというのに、待ち合わせに浴衣を着て現れた瑠々(るる)ちゃんの姿に、俺はすっかり慌ててしまった。

 濃い赤い色に白い小花を散らした模様。浴衣の濃い色で、肌が余計に白く見える。髪の毛はまとめられて、黄色い花の飾りが揺れている。


「あ、(かど)くん」


 人混みの中で俺を見付けてほっとしたように微笑む姿が、なんだかやけに大人っぽく見えた。




 この夏祭りは神社のもので、だからまずはその神社にお参りに行く。下駄で歩く瑠々ちゃんに合わせて、いつもよりもさらにゆっくりと歩く。


「花火もあれば良いのにね」


 歩きながら、瑠々ちゃんがそんなことを言う。残念ながらこのお祭りで花火はあがらない。


「見たかった?」


 そう聞けば、瑠々ちゃんは花の飾りを揺らして頷いた。


「あった方がお祭りっぽくない?」

「そうだね。ゲームの中では見たけど」


 何気なくそう言えば、瑠々ちゃんは急に口を閉じた。さっとその頰に赤みがさしたかと思うと、不意に顔を俯けた。うなじの白さがやけにくっきりと見える。

 その反応に、俺もゲームの中でのことを思い出してしまった。二人で、人混みで、手を繋いで花火を見たんだった。でもあれはゲームの中のこと。

 それでも、その思い出は確かに瑠々ちゃんと俺の中に存在していて、どうして良いかわからなくなってしまった。

 すっかり黙り込んでしまった瑠々ちゃんに並んで歩きながら、落ち着こうとあれこれ考える。

 花火の話題から離れた方が良いのか。それとも続けた方が良いのか。そういえば『花火』ってボドゲがあったな。でも、今すべきはボドゲの話じゃないってことはわかる。

 結局、神社でお参りを済ませるまで、俺は何も話せなくなっていた。瑠々ちゃんも何も言わなかった。




 瑠々ちゃんは林檎が好き。だから林檎飴。

 単純な発想だとは思うけど、「食べる?」と聞けば「食べたい」と返ってきたので、なんだかそういうところはいつも通りで良かったって安心して、それで林檎飴を買って手渡した。

 林檎飴を食べるのに団扇が邪魔そうだったので、何気なくそれを受け取った。

 空いた手に気付いて、ふと、人混みを理由に手を繋いでも良いんじゃないかって、頭を過ぎった。

 いや、でも、どうだろう。瑠々ちゃんはどう思うだろうか。

 これまで、ゲームの中で手を繋いだことはあったけど、そうじゃないときに触れたことはなかった。あれはゲーム中だったから大丈夫だっただけで、今ここで急に手を繋いだりしたら、嫌がられたりするんじゃないだろうか。

 少なくともびっくりはされる気がする。困った顔なんかされたら嫌だな。

 頭の中でいろいろなことを考えているうちに、瑠々ちゃんは空いた片手を持ち上げて、林檎飴の棒を両手で握った。

 残念なような。でも、正直ちょっとほっとしてもいた。




 『花火』というボドゲは、協力ゲームだ。自分の手札は見えなくて、他の人にヒントを出してもらいながら、他の人にヒントを出しながら、見えない手札から条件に合う花火のカードを出さないといけない。そうやって、全員で花火の打ち上げ成功を狙うゲーム。

 なんだか今、そんな気分だった。

 つまり、自分の手札が見えないまま、手札を選ばされている気分。

 どれを選んで良いのかわからない。どれを出したら駄目なのかわからない。瑠々ちゃんの視線が、表情が、動作が、ヒントをくれているはずなのに、正解が何もわからない。

 林檎飴を食べる瑠々ちゃんの姿を見下ろして、なんだか今日は負けた気分だった。





『花火』


・プレイ人数: 2〜5人

・参考年齢: 8歳以上

・プレイ時間: 25分前後





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