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『ブラッディ・イン』

大須さん視点。

二年の十二月。

瑠々(るる)、二十五日家にいてくれ」


 いつも横暴な兄さんからこんなふうに言われるのも慣れてきたけど、それでもわたしは唇を尖らせた。


「今度は何?」

「カドさん呼んで遊ぶから」


 そう言われて、ふと去年のクリスマスのことを思い出す。あの時は(かど)くんが兄さんのお使いで、わざわざ兄さんのボードゲームを取りに来たんだった。

 兄さんは、わたしに対してもだけど、角くんに対しても横暴だと思う。


「また角くんを良いように使ったりしてない?」

「してないよ。去年はちょっと、いろいろ行き違いがあったんだって。今年は家で三人で遊びたいんだ」

「兄さん、怖いの遊びたがるから一緒に遊ぶの嫌なんだけど」

「今回はちゃんとカドさんに選んでもらうから。少なくとも『ブラッディ・イン』遊びたいとか言わない」


 兄さんが言った『ブラッディ・イン』というゲームは、角くんの説明によれば、人を殺して埋めて宿屋経営するゲームらしい。宿屋経営がどうして人を殺して埋めることになるのかはわからない。

 でも、わたしの体質でそんなゲームを遊んだら、ゲームの中で人を殺すことになってしまう。兄さんはどうしてそれを「遊びたい」って思えたのか、そっちが不思議だ。

 いつものにやにやとした笑顔を浮かべて、兄さんはさらに言葉を続けた。


「俺は遊べれば文句言わないよ、約束する」


 兄さんが妙に素直なので、やっぱり何かあるんじゃないかと勘ぐってしまう。

 だいたい、兄さんは笑顔が怪しい。いつもいつもにやにやと「今からあなたを騙しますよ」なんて思ってそうな詐欺師のような顔をしている。まあ、実際に詐欺師がそんな顔をしてたら、誰かを騙すなんてできないと思うけど。

 しばらくそうやって、兄さんのにやにや顔を眺めていたけど、何を考えているかはわからない。

 結局わたしは溜息をついて、頷いた。


「わかった。角くんがそれで良いって言ったら、良いよ。でも本当に、怖いゲームは遊ばないからね」

「ああ、俺はお前の体質で遊べるなら文句は言わないよ」


 兄さんはそう言って、やっぱりにやにやと笑ってる。何を考えているかはわからない。案外、その言葉は本音なのかもしれないけど。




 二十五日か、と自分の部屋でカレンダーを眺める。

 去年の二十五日、兄さんのお使いで我が家を訪ねてきた角くんに、思いがけずクリスマスプレゼントをもらってしまったんだった。

 そのときの赤い林檎のチャームは、今もペンケースに付けている。

 お返しにバレンタインにキーホルダーを送ったけど、今度はそのお返しにホワイトデーにまたプレゼントをもらってしまって。

 そもそもその前にもブローチをもらってるし、いつもお菓子も作ってもらってるし。わたしは角くんにもらいすぎなんじゃないだろうか。

 それに、そんな角くんのことだから、クリスマス、また何か持ってきてくれそうな気がする。


「やっぱり、わたしも何か用意しておいた方が良いよね」


 角くんへのプレゼント。

 前もすごくすごく悩んで、兄さんに相談してまでしてようやく決めたのに。今度は何にしたら良いんだろう。


 二十五日までに何か用意しないと、と考える。角くんのために、何か。





『ブラッディ・イン』


・プレイ人数: 1〜4人

・参考年齢: 15歳以上

・プレイ時間: 40〜60分


 誤解のないよう、念のため。『ブラッディ・イン』は面白いゲームです。大須さんがそういうテーマのゲームを苦手としているだけです。





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