『ウィングスパン』
伊佳瑠兄さん視点。
角くんが中学生の頃。
「『ウィングスパン』、面白かったです。勝てなかったのは悔しいけど……やっぱり卵を増やすのが良いんですかね」
ボドゲ会で『ウィングスパン』という鳥の観察がテーマのボドゲを遊んで「ありがとうございました」と頭を下げあった後に、中学生だというカドさんが興奮した面持ちで喋り出した。
このボドゲは日本語版が発売されたのが去年の秋で登場からしばらく経っているのだけど、カドさんは初めて遊ぶと言っていた。ずっと遊びたいと思っていたのだとも。
同卓した人たちもカドさんのお喋りに乗っかって、この鳥の能力が強いとか、ここは卵を増やす場面だったとか、今のプレイを振り返って感想戦を始めた。
お喋りしながらそれぞれにプレイ後の写真を撮ったりもする。
俺もあの能力の使い方が良かっただとか、あの鳥のタイミングが良かっただとか、そのお喋りに混ざる。
写真を撮り終えれば、お喋りは自然と片付けながらになる。これもプレイ後の楽しい時間だ。
その中で、カドさんが丁寧な手付きで鳥のカードを集めているのが見えた。内容物の扱いが丁寧なのは好感が持てる。
このゲーム会には、俺も最近参加するようになったばかりだった。社会人が中心の集まりで、大学生の俺だって彼らの中では若い方だった。そして、中学生だというカドさんは一際若い。
未成年の参加に、主催者の人は最初は警戒した。ボードゲーム自体は健全な趣味なのだけど、賭博を疑われたり物騒な言葉が飛び交うこともあったりして、誤解されやすいものだ。少額ながら参加費として金銭の遣り取りもある。
何かあれば会場が借りられなくなってしまう。だから主催者は運営にかなり気を遣っている。未成年は何かあれば保護者が出てくることになってしまうから、問題が大きくなりやすい。そんな警戒も仕方ないものだ。
そして、カドさんの参加についてのあれこれを見て、大学生とはいえ未成年の俺も最初は警戒されていたのだと知ることになった。
ゲーム会の終わりにはレンタルスペースを片付けて、解散になる。とは言っても、大人たちは打ち上げと称した飲み会を建前にしたボドゲ二次会に行くらしい。
アルコールのある場なので、二十歳未満の俺とカドさんは参加を禁じられている。なんとなく二人で顔を見合わせて、そのまま二人で帰り道を歩く。今日遊んだボドゲの感想なんかを話しながら。それで、家が近いことも知った。
妹と同い年だな、なんてその横顔を見上げて思う。背だけはひょろりと高いけど、その表情は妹と同じでやっぱりまだどこか子供っぽい。
それでも趣味が同じだからか、話は盛り上がった。まあ、ボドゲの話しかしなかったわけだけど。
そのときには、こんなに長い付き合いになるなんて、まだ思ってもいなかった。
『ウィングスパン』
・プレイ人数: 1〜5人
・参考年齢: 10歳以上
・プレイ時間: 40〜70分




