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ボドゲ仲間と妹のバレンタインを眺めている 2

なろうでは公開してないと勘違いして公開済みのお話を投稿してしまっていたので、1エピソード削除しました。ごめんなさい。

こちらは「ボドゲ仲間と妹のバレンタインを眺めている」の2つ目のお話です。

順番おかしいな?ってなったら、1つ前に戻ってください。

本当にすみません。

 結局、妹の瑠々(るる)を連れてボドゲ関連のグッズも扱っている店に行くことになった。

 場所を教えたけど一人で行くのは不安だと言われてしまった。俺が適当に見繕って買ってくるという提案もしたけど却下された。自分で選びたいと。

 そもそも瑠々(るる)はずっとボドゲ含めてゲームが嫌いだった。体質のせいで。

 今だってそれは変わってないように見える。だというのに瑠々(るる)はボドゲを遊んでいる。カドさんと一緒なら。

 ボドゲがたくさん並んでいるのは怖いらしい。ボドゲ棚がある俺の部屋には近付くこともしなかった。それだってカドさんと一緒なら平気らしい。

 そして今度はカドさんのためにボドゲグッズを自分で見て選ぼうとしている。ボドゲがたくさん並んでいる店に入ってまで。俺に頼ってまで。


「改めて言っとくけど、並んでるからな、ボドゲ」


 家を出る直前、スニーカーに足を突っ込みながら俺はそう念を押した。これを言うのももう何度目かになる。

 その度に瑠々(るる)は眉を寄せて不機嫌そうな声で「大丈夫」「わかってる」と繰り返した。今回はそれにもう少し言葉が続いた。


「前に(かど)くんが言ってたんだけど、わたしの体質は売り物なら起こらないんじゃないかって」

「売り物?」


 靴紐を結び直す手を止めて、後ろの瑠々(るる)を見上げる。瑠々(るる)はリュックの紐を掴んで頷いた。


「なんて言ってたかちゃんと覚えてないけど、確か『売り物は遊べる状態じゃない』って。わたしもよくわかってないんだけど」


 カドさんは瑠々(るる)と何度も遊んでいるらしい。そうやって何度も遊んでいるうちにそういった条件を見付けることができたのかもしれない。カドさんは瑠々(るる)の体質について、もしかしたら瑠々(るる)本人よりも詳しくなっていたりするかもしれない。

 いや、それはまあ、何度も一緒に遊んでいればわかることもあるだろう。納得はできる。

 それよりも気になるのは──瑠々(るる)はカドさんに言われたから大丈夫だと思っているのか──手を止めたまま瑠々(るる)を見上げていたら、睨まれてしまった。


「さっさと靴履いてよ」


 俺はもう何も言わずに視線を足元に戻した。

 本当になんなんだろうなこいつらは。




 カドさんへのプレゼントになりそうなグッズを取り扱っている店。瑠々(るる)の体質のことがあるから、ボドゲカフェが併設されてたりプレイスペースがあるようなところは除く。

 心当たりの店をそんな条件で(ふるい)にかけて、目的地にしたのは小さな店だった。ボドゲだけじゃなくてテーブルトークRPGなんかも取り扱っている。関連の雑誌や書籍なんかもある。ダイスは実用的なものも趣味的なデザインのお洒落なものもある。数は多くないけど、ゲームグッズっぽいアクセサリーも少し並んでいる。

 小さな雑居ビルの三階、狭い階段を登った先の入り口で瑠々(るる)は少し躊躇うように足を止めた。


「外で待ってても良いぞ。何か見繕って買ってくるから」


 俺がそう声を掛ければ、瑠々(るる)は俺を軽く睨んで店の中に入っていった。

 入って正面には雑誌や書籍、新作のゲームなんかがディスプレイされている。店舗スペースは左手側に広がっていて、まずはテーブルトークRPGの書棚、その奥にボドゲ。

 |箱が大きめの重量級ボドゲ《重ゲー大箱》やその拡張シリーズ、十年以上シリーズが発売され続けている定番ゲームの箱が目立つ。どちらかと言えばゲーマー向けのラインナップだと思う。

 店に一歩踏み出したは良いけど立ち止まってしまった瑠々(るる)の肩を軽く叩いて、正面の新作ディスプレイコーナーを回り込んで裏側に向かう。狭い店の入り口付近に立ち止まっているのは迷惑行為だろうから、俺はさっさと動き出した。瑠々(るる)は慌てたように俺を追いかけてきた。

 その辺りが、グッズ系の棚だった。色とりどり、形も様々なダイスが並んでいる。ダイストレイもある。プレイマットもあるし、カードスリーブやモビロンバンドといったものも並んでいる。

 近くの棚には数は多くないけどペンダントやストラップ、ピンバッジが並んでいて、それもよく見れば何かしらのゲームに関連したモチーフのものばかりだ。


「見ればわかるだろうけど、この辺の棚がそう」


 瑠々(るる)は恐る恐る周囲を見回している。


「後は一人でも大丈夫だな」

「え、兄さんどこか行くの?」

「店からは出ないよ。ボドゲ棚眺めてくる」


 俺はそう言って、店の奥のボドゲ棚を指差した。瑠々(るる)はその先を見て、あからさまに顔を顰めた。この表情は嫌がっているというより怖いんだろう。

 やっぱり無理っぽいから近くにいた方が良いかと思い直したときになって、瑠々(るる)は俺を見上げて頷いた。


「わかった、大丈夫。兄さんは向こう行ってて」


 可愛げのない言い方に少し苛立って、俺は瑠々(るる)を置いて店の奥に向かった。ボドゲ棚の前に立って振り向けば、瑠々(るる)はたくさん並んだダイスを見ていた。

 その姿に思ったより大丈夫そうだなと安心して、俺は並んだ箱を眺め始めた。




 瑠々(るる)の買い物はなかなか終わらなかった。長い。どれだけ長考してるんだ。

 ボドゲ棚をずっと眺めることはできなくはないけど、ここは店だ。さっきから店員が俺と瑠々(るる)をちらちらと気にし始めている。目が合ってしまって、曖昧に笑って頭を下げると店員も軽く頭を下げた。たまに来る店だからこの店員には顔を認識されている気がする。

 瑠々(るる)の方を見れば、今はアクセサリーの棚を眺めていた。俺は小さく溜息をつくとボドゲ棚の前を離れて瑠々(るる)の隣に立った。


「まだ決まんないのか?」

「何が良いのかわからなくなっちゃって」

「長考し過ぎだろ」

「だって」

「あんまりずっとうろうろしてると他の客だとか店の邪魔になるだろ、狭い店なんだからさ」


 俺の言葉に瑠々(るる)ははっとしたように顔を上げて、辺りを見回した。俺たち以外にも客はいて、瑠々(るる)は人が来たら避けたりはしているらしかったけど、それにしたって限度はある。


「そっか、そうだね、ごめん」


 瑠々(るる)が素直に謝るので、俺は溜息をついて話を進めた。


「それで候補くらいは絞り込んでるんだろうな、さすがに」


 俺の言葉に、瑠々(るる)は嫌そうな顔をした。


「兄さんに話す必要ある?」

「五秒以内にレジにいけるなら話さなくても良いけど」


 そう言ってからたっぷり五秒、瑠々(るる)は黙り込んで、それからようやく口を開いた。


「サイコロが良いのかなって見てたんだけど、形がこんなにあるなんて知らなかったから……種類も多いしどれが良いかわからなくて」


 思わず口を挟みかけて、まだ言葉が続きそうだったので慌てて口を閉じた。


「それに、確かにかっこいいサイコロもあるけど、やっぱりもらって嬉しいのかわからなくて」

「かっこいいものは嬉しいだろ」

「兄さんはそうかもしれないけど」


 カドさんだってたいして変わらない気がする。それにカドさんは瑠々(るる)からもらえるならなんでも喜ぶんじゃないのかとも思った。なんにせよ、アドバイスとしては雑すぎる気がしてそれは黙っていた。

 今このタイミングで必要なのは、瑠々(るる)の納得だ。


「他のグッズはよくわからないし。それでアクセサリーの棚も見て、どういうのが良いのかと思ってたところ」

「それで?」


 話を進めようとする俺を瑠々(るる)は睨み上げてくる。それでもここが店の中だとわかっているからか、大人しく口を開いた。


「ペンダントとキーホルダー、どっちが良いかなって迷ってて」


 どっちでも良いんじゃないか、という言葉をすんでのところで飲み込んだ。


「兄さんはどっちが良いと思う?」


 さっきは俺の意見を切り捨ててただろ、なんで今度は俺に聞くんだよ、面倒くさいと言ってしまいそうになったのも飲み込んだ。

 さっきから飲み込みすぎだ。これ以上飲み込めそうになくて苦しくなった分を小さな溜息と一緒に逃してから応える。


「俺だったらキーホルダーだな。特に根拠も理由もないしカドさんがどう思うかは知らないけど」


 だって身に着けるアクセサリーとかプレゼントとしては重いだろう、とまでは言わなかった。二人の関係性によってはそっちが正解の可能性もある。その可能性を切り捨てるだけの情報を今の俺は持っていない。

 俺の物言いはひどく雑だったけど、瑠々(るる)は動き出した。単に選択のきっかけが欲しかっただけなんだろうな、とまた溜息をついた。

 瑠々(るる)がキーホルダーをいくつか手に取って見比べる。メタルダイスのキーホルダー。ベースの色は銀か黒。ドットの色も何色かあるみたいだった。


「カドさんは黒が好きっぽいな。プレイヤーカラー、黒があるときはいつも黒を選んでる」


 俺の言葉に瑠々(るる)は頷いた。


「小さい頃、黒い色が好きだったって、前に言ってた」

「今もだろ」

「そうかも」


 何を思い出したのか瑠々(るる)がちょっと笑って、一つを残して他のキーホルダーをカゴに戻す。黒いベースに赤いドットのダイスに決めたみたいだった。


「じゃあ、買ってくる」


 満足そうに小さくそう言って瑠々(るる)はレジに向かった。

 近くにあったモビロンバンドを大小一袋ずつ手に取って、俺もレジに向かう。あまりに長時間店に留まりすぎた気がして、何も買わずに出るのは落ち着かない。まあちょうど、そろそろ買おうと思ってたところだったから丁度良い、と自分を納得させた。





続きます。

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