24-4 うまくいくかわからなくて
後半も順番はわたしからだった。
動き出す前に地図を眺めて考える。
焦って建物タイルを置きたくなるけど、大きな橙色があるから焦らなくても良いはず。
紫色の場所は早い者勝ちだけど、青と隣り合ってなければわたし専用のスペースだって思っても良いはず。
青と隣り合った紫もあるけど、隣の青と合わせても二マスしかない場所だし、他の青いタイルとも離れているし、そんなに急がなくても大丈夫じゃないかって気がしていた。
そうだ、あの時もそうだった。
置こうと思っていた紫色のタイルに先に建物タイルを置かれてしまって、それで自分の建物タイルが置けなくなってしまって、泣きそうな気持ちになったんだ。
そのときだって角くんは、大丈夫って言って笑ってくれた。
それで、取り合いになりそうな紫色がないなら、建物タイルよりもポストカードを先に使った方が良いって教えてくれた。
それをわたしは、今は一人で考えて判断したんだ。
そう思うと少し誇らしくて、でもやっぱりちょっと寂しい気がした。
一人でも大丈夫かもしれないけど、やっぱり角くんに隣にいて欲しいから。
わたしはハンドバッグからポストカードを取り出して、その中から一枚を選んだ。そして、宣言する。
「わたしは、このカードを使いたい」
わたしの頭上で周囲を照らしていた太陽の一つが、ふわりと目の前に降りてきた。
手のひらを差し出せば、その光はわたしの目の前で切手になった。
切手をポストカードに貼って、そのカードを目的の場所にかざす。
ポストカードの表面には、考える人像の絵が描かれていた。
ポストカードの絵と同じように、その場所に色が置かれてゆく。見えない絵筆が座った人の形を書き出してゆく。
ただの絵の具のようだったその色は、気付けば立体になっていて、最後には見事な考える人像になっていた。
考える人像が出来上がると、わたしの手の中の考える人のポストカードはふわりと消えてしまった。
わたしが考える人を置いたのは、橙色が固まってしまったけど街灯がないから建物タイルは置けない場所だ。
考える人像の周囲の空いている自分の色が点数になるから、ちょうど良いと思ったのだ。
わたしの番が終わって、青い月のプレイヤーもポストカードを使った。
海の噴水。海の噴水の周囲にある建物ごとに点数が入る。まだ建物タイルも置いてないのに。でも、青がたくさん繋がった脇に置いたから、確実に置けると見込んでいるんだと思った。
わたしは次もポストカードを選ぶ。
次は、『ムーラン・ルージュ』のカードだ。
そういえば、前に遊んだときは角くんが踊り子さんに見とれていたっけ、なんて思い出した。
あのときはなんとも思わなかったけど、思い出した今更になって、ちょっとむっとしてしまった。それは確かに、あの踊り子さんは色っぽかったと思うけど。
あのときの角くんはやけに慌てていたな、と思い出して、それでちょっとだけ許してあげることにした。
ムーラン・ルージュのカードは空いている繋がったスペースが点数になるから、考える人像の近く、空きスペースになりそうな場所に置くことにする。
派手な風車のような建物が暗闇の中に浮かび上がる。夜の中で、まるで人を吸い寄せるような光だった。
青のプレイヤーは六マスの建物を置いた。
それでも、まだ慌てない。わたしは今度は『画家』のポストカードを選んで使う。
このカードは、繋がったスペースにある街灯の数ごとに点数がもらえる。それを街灯が固まっている場所の隣に置く。
キャンバスを抱えた画家が石畳に足音を響かせてやってくる。腰を落ち着けて、街の景色や街灯が作る陰影をキャンバスに描き始めた。
青のプレイヤーは、次に『セーヌ川の露店古本屋』のポストカードを使った。
さっきの建物の隣にくっつけて、六マスの建物を七マスにする。この建物は四つの街灯に接しているから、七かける四で二十八点だ。
ああ、どうしよう。うまくいくかわからなくて、緊張してきた。
──大丈夫だよ、落ち着いて。
思い出す角くんの声に励まされる。わたしは建物タイルを置く。
そこからは、青のプレイヤーとわたしと、交互に建物タイルを置いていった。街にはあっという間に建物が増えてゆく。
見えない絵筆が建物の姿を描き出して、街灯がその壁に光と影を映し出す。
建物を全部置くことができてほっとした。
それから青のプレイヤーは『シャルティエ』のカードを使った。これは、好きな場所を紫色のタイルに書き換えることができるカードだ。
わたしは街灯の光の届く範囲を一マス大きくできる『大街路灯』を選ぶ。それで青のプレイヤーの建物に囲まれた街灯を大きくする。
いくつも輝く光が、その足元で踊る天使たちの姿を輝かせている。
最後は青のプレイヤーの番。
青のプレイヤーは、考える人像の近くのマスを紫色にして、そこに『植物園』を建てた。
これで、わたしの点数が減って、青のプレイヤーの点数が増える。
大丈夫か不安だけど、もうこれでゲームは終わりだ。
後は点数計算をするしかない。
溜息をついて、緊張を逃す。それでもまだ、自分が勝っているのかどうかわからなくて、どきどきしていた。
角くんが、今ここにいてくれたら良かったのに。そしたら心強かったのに。
「瑠々ちゃん!」
角くんの声が聞こえた気がした。
振り向けば、いつの間にか賑やかになった街並みが見える。ドレスアップした人たちが、笑顔で行き交っている。
その中を、こちらに走ってくる──角くんがいた。
紳士みたいな格好はしてなくて、まるっきりいつも通りの制服姿で、わたしに向かって駆けてくる。
わたしは嬉しいよりも先に、驚いてぽかんとしてしまった。




