23-7 一緒が良いから
赤いマークのお肉屋さん「ドラコ・ベル」で、集めた「商品」を取り出せば、それは光になって魔法になった。
わたしがかけた魔法は「所くらましの魔肉」。評判は四つ増えた。それから、仕事をしたいドラゴンが一頭やってくる。
ラベンダーという名前の紫のマークのそのドラゴンは、魚のひれのような耳をしていた。なかなかのしっかり者なのだと自慢げに胸を張る姿が可愛かった。
あと、せっかくの新メニュー所くらましの魔肉を一口味見させてもらった。
肉汁したたるお肉を角くんと頬張って、名前の通りにどこかに消えちゃうかのようにとろける口どけに、二人で顔を見合わせて笑みを漏らした。
それから赤いドラゴンのヒッコリーの紹介で、ラベンダーを「ファンキー・ブリュースター・コーヒー」のお店に紹介する。その報酬で評判は三つ増えた。
次の魔法はもうお馴染みの「ポータブルポーション」だ。「エルフエスプレッソ」の魔法で、評判がまた四つ増える。
働きたいドラゴンは黒いマークのコール。がっしりと大きな黒い体に、角も立派で見た目は少し怖いくらいだったけど、話してみれば他のドラゴンたちと同じだ。
やっぱり可愛いな、と思わず笑ってしまう。
魔法を使ったのに合わせて、伝説ドラゴンのスパークルも呼び出した。
スパークルの能力は「魔法の後、町にある魔法一種類につき評判を一得る」というもので、町には黄色赤黒水色緑紫と六種類の魔法があるから、これで評判が六つ増えた。
スパークルは金色の輝く鱗と、ふんわりとピンク色のたてがみと尻尾の、名前の通りに輝くようなドラゴンだった。
魔法のエスプレッソマシンで作ったエルフエスプレッソも味見をさせてもらった。
正直ちょっと味が濃くて苦いなと思ってしまったんだけど、ミルクをもらってカフェラテにしたらとても美味しかった。
気付いたら、それでもう行動は後一回だけになっていた。
手元にある「商品」を使って魔法を使いたい。それから、せっかく来てくれたコールの働き先も探してあげたい。伝説ドラゴンもまた呼び出したい。
地図を見ながら最後の行動を考える。
そして最後は黄色のマークのパン屋さん「クリティカル・ロール」に行くことにした。
まずはここで「インプキンパイ」の魔法をかける。手元の青と緑の商品にコインも一枚足して、評判が八つも増えた。
伝説ドラゴンのトゥインクルを呼び出す。
トゥインクルもスパークルに似ていて、魔法に関係した能力だ。「町にあるそれと同種の魔法一つにつき評判を二得る」というもの。これで評判が六つ増える。
トゥインクルは銀色の鱗をしていた。たてがみや尻尾の先は青っぽい。色以外はスパークルによく似ている。もしかしたら兄弟だったりするのかな。
それから、ここで働いているドラゴンは、黄色のマークのパン、赤いマークのスキュアートとフランベだ。
黄色のドラゴンは、新しく働きたいドラゴン一頭と出会える。赤いドラゴンは、自分のところにいる働きたいドラゴンに働き先を見つけてあげられる。
今わたしのところには、コールというドラゴンがいる。黄色いドラゴンのパンの能力で、もう一頭のドラゴンと出会うことができる。
赤いドラゴンのスキュアートとフランベの二頭の能力で、コールともう一頭のドラゴンの働き先を見つけることができる。
コールには、青いマークの「うろこ量り宝飾店」で働いてもらうことにする。装飾品に使う金属の仕事があるらしい。
新しく出会ったもう一頭は、マルチという緑のドラゴンだった。緑のドラゴンは鱗がまるで葉っぱみたいで、見た目が植物みたいだった。たてがみや尻尾も葉っぱに見える。
マルチには「宿屋 口と前足」での仕事を頼むことになった。宿屋を植物で飾るのだそうだ。
ドラゴンを紹介したから、評判が三つ増えて新しい伝説ドラゴンとも知り合えた。
その伝説ドラゴンを早速呼び出す。
コンカーズという名前の淡い黄色と水色のドラゴンに、残った商品を少しずつ渡す。四つ渡して、そのお礼に評判が四つ増えた。
それで、わたしの行動は最後だった。
なんだかたくさん働いた気がしていて、やりきったような満足感があった。
角くんと二人で噴水脇のベンチに座る。
パン屋さん「クリティカル・ロール」の魔法のオーブンを使ったインプキンパイを食べながら、点数計算だ。
まずはここまで集めた評判を数える。
全部で六十八個。九十どころか七十五個にも届いていない。
「大丈夫だよ、まだ伝説ドラゴンがいるよね」
角くんの言葉にわたしは頷いて、マッチズとブブという二頭の伝説ドラゴンを呼び出した。
マッチズは赤紫色の鱗と立派な一本角のドラゴンだった。「一致するアイコンのドラゴンがいる最初のお店一つにつき評判を一得る」能力。もらった評価は五つ。
ブブは菫色の鱗の、水みたいな炎を吐くドラゴン。「持っている枚数が二つ以下の商品一種類ごとに評価を一得る」能力で、もらった評価はこっちも五つ。
「七十八個! 評価が七十五個超えた!」
角くんを見上げると、角くんも嬉しそうに笑ってくれた。
「まだ終わりじゃないよ」
「他にも何かあるの?」
「コイン、残ってるよね?」
わたしはポーチから、ゲーム中に手に入れたコインを取り出す。「商品」の代わりに使ったりもして、残っているのは二枚だけだ。
「このコインをね、噴水に投げ入れるんだ。そうしたら、一枚で評価一点」
「二枚あるから二点?」
「そういうこと」
角くんがベンチから立ち上がる。わたしも立ち上がって、二人で噴水の前に立った。
水を吐き出し続ける石のドラゴン像の前で、わたしは二枚のコインを握り締めて、ふと角くんを見上げた。
「そうだ、コイン二枚あるし、角くんも投げる?」
「え、でも、炎の理解者は瑠々ちゃんだけだし、俺は」
「いつも言ってるよね。わたしは角くんもプレイヤーだって思ってるって」
睨むように見上げれば、角くんは口元を押さえて視線をそらしてしまった。
「わたしは、角くんと一緒が良いから。はい」
コインを一枚差し出せば、角くんは視線を合わさないまま手を持ち上げた。その手のひらにコインを乗せれば、ちょっとだけ、視線がこちらを向く。
そして照れたように目が伏せられた。
「その、ありがとう」
二人でコインを投げ入れれば、評価の赤いハートの石はちゃんと二つもらえたから、やっぱり角くんもプレイヤーなんだって思った。
その二つも足して、全部で八十点がわたしの点数。
炎の理解者は、わたしの称号。




