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23-6 魔法の光はきらきらと

 ベリーのポーションを飲み終えてから、わたしたちは改めて水色のマークのガラス細工のお店「フラジール・レプトル」に向かった。

 どうやって魔法を使うのかは、なんとなくわかっていた。


 お店の前で、ここまで集めた「商品」を取り出す。

 黄色が一つ、赤が二つ、紫が三つ。手のひらの上できらきらと輝いている。

 握りしめてから、その手を頭上に掲げて「大きくなあれ」とその手を開いた。


 手のひらの中にあった宝石は、きらきらとした光に変わって、その光は周囲に広がって、お店を包み込んだ。

 お店に降りそそぐ色とりどりの光。


「すごい……」


 角くんが思わずといったように言葉をこぼして、光が降り注ぐ光景を見上げていた。その表情に、私は少し誇らしくなる。

 やがて、光が降りやむ頃に手を降ろした。魔法は成功した。


 代わりにわたしの手には、赤いハートの形の宝石が六つ残っていた。


「『運命の指輪』の魔法の報酬は評判が六だから、この宝石がきっと評判なんだね」


 (かど)くんがわたしの手を覗き込む。

 わたしは角くんを見上げて、頷いた。


「多分なんだけど、この評判はみんなの『ありがとう』って気持ちなんだと思う。炎の理解者(フレイムキーパー)って、ドラゴンと話せるだけじゃなくて、そうやってみんなの気持ちを集めることができるみたい」


 それは、わたしが体験してなんとなく気付いたことだった。

 角くんはわたしを見下ろして、にっこりと笑った。でもなんだかちょっと、寂しそうにも見える笑顔だった。


「ドラゴンと話すのも、魔法も、楽しそうだったよ。俺も炎の理解者(フレイムキーパー)になりたいって思ったくらいには」


 そっか。角くんもプレイヤーだったら、角くんはもっと楽しめたのに。


「ごめん、わたしばっかり」


 角くんが慌てたように首を降る。


瑠々(るる)ちゃんが楽しそうで良かったと思ってる。それに、このゲームの世界、楽しいし」

「でも……」

「本当に、大丈夫。俺は自分がプレイヤーになるのも、それは楽しいし、体験してみたいって思ってもいるけどね。でも、こうやって瑠々ちゃんの隣にいるのだって」


 不意に、角くんの言葉が途切れた。わたしを見下ろしていた視線まで、ふいと横を向いてしまう。

 どうしたのかと瞬きすれば、そのあとになってようやく、続きの言葉が聞こえた。


「こうやって、隣で瑠々ちゃんが遊んでるの見てるの、すごく楽しいから。だから、大丈夫」


 角くんの耳がほんのりと染まっているのが見えて、なんだかわたしも急に恥ずかしくなってしまった。

 楽しいだなんていつも言ってることなのに。なんでわざわざ視線をそらしたりなんかするのか。

 こんなの、いつも通りのことなのに。


 いつも通りに思えないのは、どうしてだろう。




 その後も順調に町は発展していった。

 ドラゴンたちの働く姿があちこちに増え、魔法も増えてお店は賑やかになって、空き家だった場所もお店になって。

 わたしが受け取った赤いハートの宝石──評判もたくさんになった。


 それはもちろん、うまくいったことばっかりじゃないけど。

 わたしが落ち込みそうになるたびに、角くんはわたしの手を引いて町を散歩した。角くんがあちこち指差すままに、顔を上げて、賑やかな町の様子を眺める。

 働いているドラゴンたちはわたしの姿を見つけると、嬉しそうに前脚を振ってくれる。お店の人も、笑顔で挨拶してくれる。道行く人たちは素敵なお店の前に足を止めて楽しそうで。

 この賑やかな町並みはわたしの──炎の理解者(フレイムキーパー)の仕事の結果なんだって、そうやって角くんが教えてくれた。


 そして気付けば空き家は全てなくなって、通りにはたくさんのお店が並んでいた。


「ドラゴンか魔法のデッキがなくなったらゲーム終了だから、きっと後何回か──長くても五回はないと思う。町もだいぶ賑やかになったし」

「それしか行動(アクション)できないってこと?」

「多分ね。それでゲームは終わり」

「評価って、いくつ集めたら良いんだっけ」

「七十五点で炎の理解者(フレイムキーパー)、九十点で真の炎の理解者マスター・オブ・フレイムキーパーの称号がもらえるから……まあ、七十五点超えたら良いって思っておけば良いんじゃないかな」

「集まってるかな」


 わたしは腰のポーチの蓋を持ち上げて、中身を確認する。

 たくさんの赤いハートの形の評判と、たくさんの色とりどりの「商品」がきらきらと輝いている。


 特にここ何回かの行動(アクション)で、うまく魔法をかけることができなかったものだから、「商品」はいっぱいある。

 その分、評価はあまり増えていないから、達成できているのか心配だった。


「だったら、あとはできるだけ魔法をかけて、評判を集めなくっちゃ」


 使える魔法は……と考えながら地図を覗き込む。ふふっと角くんの笑い声が聞こえた。

 見上げれば、角くんは楽しそうに目を細めていた。


「瑠々ちゃんはすっかり炎の理解者(フレイムキーパー)だね」


 急に恥ずかしくなって、わたしは帽子のつばを引っ張った。

 角くんが腰を曲げてわたしの顔を覗き込んでくる。


「褒めてるよ」

「それはわかってる。わかってるから恥ずかしいの」


 わたしは角くんの視線から逃れて、地図を見る振りをして、顔を隠すように持ち上げた。

 帽子のつばの下からちょっと覗けば、角くんはまだわたしの顔を覗き込んでいた。なんだかやけに楽しそうに。

 目が合って、慌ててまた顔を俯ける。


「それで、瑠々ちゃん、次の行動(アクション)はどこにするの?」

「待って今考えてるから」


 なんだかすごく落ち着かなくて、わたしはなかなか次の行動(アクション)が決められなかった。

 それでも角くんは、とても楽しそうに隣で待っていてくれた。その視線が気になって、だから余計に決まらなかったのだけど。







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