23-4 嬉しいって気持ち
わたしが最初に訪れたのは、お肉屋さんだった。
お店の名前は「ドラコ・ベル」。
店頭で赤いドラゴンが火を吹いてバーベキューをしている。道ゆく人たちはそのにおいに足を止めて、こんがりと焼かれたソーセージだとかお肉の塊を買って食べている。
火で炙られた脂が煙になって、また人が足を止める。
けど、わたしは別にお肉のにおいにつられてこのお店を選んだわけじゃない。
魔法の中に『呪文唱えの鋳鉄』というものがあった。それの材料は、赤い食べ物が二つと、紫のドリンクが三つ。
二種類で、揃えやすそうだと思ったのだ。
それに、このお店では黒の金属のマークのドラゴンを募集している。
それならシェールがこのお店で働ける。
角くんに聞いたドラゴンの能力のこともある。
そうやって、わたしなりにいろいろ考えてのことだった。
角くんと、三頭のドラゴンと一緒にお店を訪れる。店内には、燻製肉やソーセージがぶら下げられていたり、切り分けられたお肉がショーケースに並んでいたりした。
お店の人はわたしを見ると「炎の理解者さんですね」と嬉しそうに笑った。
そういえば、商品を受け取るってどうするんだろう。まさかこのお肉をもらって帰るのかな。
どうしたら良いかわからないでまごまごしているうちに、目の前にほわりと丸い光が現れた。
それは、赤く光って、ふわふわとしている。
何だろうと手を差し出すと、その光が少しだけ強くなって、それからぎゅっと集まって、二粒の宝石になって、わたしの手のひらの上に落ちてきた。
ぼんやりしていたら、足元でドラゴンたちが騒ぎ出した。
「それは、このお店やここで働くドラゴンの嬉しいって気持ちです」
「炎の理解者さんへのお礼なんです」
「その気持ちで魔法が使えますよ」
その言葉でようやくわかった。つまりこれが「商品」なんだ。
「それは?」
角くんが不思議そうな顔で、わたしの手のひらの上を覗き込む。
いつもは角くんが説明してくれるけど、どうやら今はわたしが説明しないといけないみたいだ。
「これが、炎の理解者が扱う『商品』みたい。嬉しいって気持ちなんだって。それで、これで魔法を使えるって」
角くんは何度か瞬きをしてから、目を細めた。
「商品ていうから、てっきり食べ物をもらって帰るのかと思ってたよ」
「わたしもそう思ってた。でも、確かにこれなら魔法に使えそう」
二粒の赤い宝石を握りしめれば、なんだか温かい気がした。それを大事に腰のポーチにしまう。
次はシェールをお店の人に紹介する。シェールはその炎でフライパンや鍋のメンテナンスをする仕事をするらしい。
「頑張ってね」
そう声をかければ、シェールは嬉しそうに目を細めて、その黒くてがっしりした少しいかつい体でぺこりとお辞儀をした。
ドラゴンの仕事を見付けた報酬として、伝説ドラゴンを紹介してもらった。
トゥインクルという名前の伝説ドラゴン。魔法を使った後に呼び出せば、ボーナスの報酬がもらえる能力らしい。
どんな姿だろう。会えるときが楽しみだ。
そして、今度はドラゴンの能力。
赤い食べ物のマークのドラゴンの能力は「ドラゴン一頭にどこかのお店で働いてもらう」こと。もちろん、そのお店で募集していないといけないし、募集に見合ったドラゴンじゃないといけないけど。
わたしはそのお店で働いていたヒッコリーに手伝ってもらって、「ポータブルポーション」というドリンク屋さんで、エルダーベリーを雇ってもらう。
これで、次に「ポータブルポーション」を訪れて「商品」を受け取れば、紫が三つ手に入る。
そうすれば、わたしが持っている商品は赤が二つと紫が三つになって、「呪文唱えの鋳鉄」の魔法を使うことができるようになる。
そこまで考えての最初の行動。自分ではうまくいった、という手応えがあった。
角くんも、いつもみたいに「良いと思うよ」って言ってくれたし。
エルダーベリーの働き先が見付かった報酬は、コインが一枚。
コインは、どの商品の代わりとしても使えるし、ゲームの最後には評判になるのだそうだ。
わたしはずっしりとした金色のコインも腰のポーチにしまった。
わたしの行動が終わった後は、わたし以外の炎の理解者によって町が発展する番。
パティナという黒い金属のマークのドラゴンが、「スミス・マート」という鍛冶屋で働くことになった。
そして、そのまま「スミス・マート」のお店に魔法が使われる。それは「呪文唱えの鋳鉄」の魔法だった。
「え、使おうと思ってた魔法なのに」
鍛冶屋の中に入っていった、黒いマントの人。あれが、わたし以外の炎の理解者なのか。
悔しいって感情をどこに持っていけば良いのかわからないまま、ぼんやりと通りの先にある鍛冶屋を眺める。
「あー……まあ、タイミング次第ではこういうこともあるんだよね。あ、ほら、こっちの『運命の指輪』は赤二つ紫三つとあとは黄色一つあれば良いから、計画をあまり変えずに対応できると思うよ」
「でも……黄色一つ、どこかで手に入れなくちゃ」
「ドラゴンたちも手伝ってくれるし、なんとかなるよ」
角くんに慰められて、ふと足元を見れば、淡いピンク色の鱗のムーンビームがわたしを見上げていた。
不安そうな視線に、わたしは慌てて笑顔を返す。
「あなたの働き先、ちゃんと見つけるからね」
ムーンビームは嬉しそうに目を細めて、大きく頷いた。
「はい。働けるのが楽しみなんです」
その可愛さに、元気になれた気がした。そうだ、わたしが頑張ってこのドラゴンたちの働き先を見つけなくちゃ。
角くんを見上げて、笑ってみせる。
「そうだね。頑張ってみる」
ほっとしたような笑顔で、角くんも頷いた。




