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23-3 ドラゴンたち

 目の前に現れた猫くらいの大きさの黒いドラゴンは、後脚だけで立ち上がり、わたしの姿を見て、片方の前脚をわたしに向けて差し出してきた。


「こんにちは、新しい炎の理解者(フレイムキーパー)さん。僕の名前はタリスマン。僕の炎の技術(フレイムクラフト)で君を手伝うよ」


 ドラゴンの言葉に、わたしは慌てて差し出された前脚を握って、握手をした。

 ひんやりとした感触。ドラゴンはわたしが爪で傷つかないように、気を遣ってそっと握ってくれているみたいだった。


「タリスマンさん、どうもありがとう。よろしくお願いします」

「うん、じゃあまた、必要な時に呼んでね」


 タリスマンと名乗る黒いドラゴンは、目を細めてからまた若草色の炎を吐き出して──そして、炎ごと消えてしまった。


瑠々(るる)ちゃん、今、ひょっとして、ドラゴンと喋ってた?」


 見上げれば、(かど)くんはぽかんとした表情のままわたしを見下ろしていた。

 わたしは首を傾ける。


「えっと……角くんには、聞こえてなかった? 今の、ドラゴンが喋ってたの」


 ちょっと残念そうな顔で、角くんが首を振る。


「俺には何も……そっか、プレイヤーは瑠々ちゃんだから、炎の理解者(フレイムキーパー)として喋ることができるのも瑠々ちゃんだけか」


 プレイヤーはわたしだけなんだ。そう思ったら、角くんに申し訳ない気持ちで、何を言えば良いのかわからなくなってしまった。

 角くんはすぐに残念そうな顔を引っ込めて、いつもみたいに微笑んだ。


「それで、今のドラゴンはなんて言ってたの?」

「名前はタリスマンで……わたしのことを手伝ってくれるって。それで、必要なときに呼んでって」

「ああ、そっか。今のは伝説ドラゴンだね」

「伝説ドラゴン?」

「そう。ゲーム的にはボーナス点がもらえるって存在。タリスマンの能力は、ゲームの最後に公開してない伝説ドラゴン一頭につき評判が三増える。伝説ドラゴンをいっぱい持っていれば評判が増えるってことだね」

「伝説ドラゴンって、ゲーム中に増えるの?」

「そう。ドラゴンの働き先を見付けたときの報酬なんかで増えるよ」

「そっか」


 さっきの握手した感触を思い出す。それから、猫みたいな大きさ。柔らかそうなたてがみと尻尾。

 そうやって思い出したら、改めて可愛いなって思ってしまった。きっと、顔が笑ってしまっている。


「可愛かったから、たくさん会えると良いな」

「伝説ドラゴンだけじゃなくて、普通のドラゴンたちにもたくさん会えるからね」


 角くんが立ち上がる。瞬きして見上げると、手を差し出された。

 当たり前のように差し出された手を、当たり前のように握り返す。

 軽く引っ張られて、わたしも立ち上がる。


「ドラゴンたちに会いに行こう。働き先を見付けなくちゃ」


 角くんが指差した先は広場のようになっていて、そこにドラゴンたちが集まっているみたいだった。




 働き先を探している三頭のドラゴンに出会った。

 一頭目は、ムーンビームという名前の、ほんのりピンク色の真珠のような色合いの鱗のドラゴンだ。角に三日月の、尻尾にガラスの飾りを着けている。水色のガラスや宝石の水色のマークだ。

 二頭目はエルダーベリーという名前。ブルーベリーのような紫色の鱗で、脚先は青っぽい。紫のポーションやドリンクのマーク。

 最後の三頭目は、シェール。濃い藍色の鱗のがっちりとした姿のドラゴンだった。立派な角は黒い色だ。これは黒い金属のマーク。


 口々に自己紹介をされて、順番に握手をして、「素敵なお店で働きたいです」と頼まれた。


「わかりました。頑張って働き先のお店を探します」


 そう頷けば、みんな嬉しそうに目を細めた。

 その様子はやっぱり可愛い。思わず頭を撫でたくなるくらいに。

 なんなら抱き上げたい。でも、急に抱き上げたりしたら、やっぱりドラゴンたちも嫌だよね。我慢しなくちゃ。

 撫でるだけなら良いかな。それも嫌かな。


 可愛いドラゴンたちを前に一人はしゃいでいたら、角くんにじっと見詰められていた。

 なんだか恥ずかしくて、帽子のつばを引っ張ってしまった。


 帽子のつば越しに角くんを見上げれば、角くんはちょっと寂しそうな顔をしていた。


「俺も声が聞こえたら良かったんだけど」

「ごめんね。なんか、一人ではしゃいじゃって」

「ううん、それは……その、瑠々ちゃんが楽しそうで良かったなって思ってるよ」


 ふふっと笑い声が降ってきて、わたしはますます帽子のつばを深く引っ張った。

 足元にはドラゴンたちがいて、わたしの顔を覗き込むように見上げている。


「どこに行きますか?」

「働ける場所はありますか?」

「楽しみです」


 ちらりと角くんを見上げる。


「ど、ドラゴンたちは、早く働きたいみたい」


 角くんはもういつものように、にっこりと微笑んだ。


「じゃあ、ゲームを始めようか。最初はどこのお店に行くか、決めた?」

「それなんだけど、この子たちの誰かが働けるお店が良いよね」


 角くんが広げた地図を覗き込んで、考える。


「そうだね。それから、どの魔法を使うかも考えておいて、そのために商品を集めると良いよ」

「そっか、魔法か」

「基本的には魔法をかけると報酬で評判──つまり点数がもらえる。だから、魔法のために商品を集めて、魔法をかけて点数を稼ぐっていうのが、基本的な動きだね」


 並んでいる魔法も眺めて、どの商品が必要かも確認する。

 使える魔法は五種類ある。必要な商品はばらばらだから、どの魔法を使うかを考えて……もしこの魔法ならこの商品が必要で……でも、こっちの魔法ならこの商品で……。


 そうやって、しばらく悩んで立ち尽くしてしまったわたしを、角くんも、ドラゴンたちも待っていてくれた。

 ようやく、そっと顔を上げる。

 角くんは目が合うと、嬉しそうに微笑んだ。


「決まったみたいだね」


 わたしは頷いて、地図上のそのお店を指差した。







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