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23-2 一人でも

 噴水脇のベンチに座って、ポーチの中身を確認したけど、ルールブックだけだった。

 角くんと二人でルールブックを開いて覗き込む。そこには「ソロゲーム」と書かれていた。


「ソロゲーム?」


 首を傾ければ、角くんがわたしの顔を覗き込む。


「一人用のゲームルールってことだね。最近は、一人でも遊べるルールのあるゲームが多いんだ。『フレイムクラフト』もそうで……今回はどうやら、ソロゲームで遊ぶってことみたいだね」

「他のプレイヤーがいないってこと?」

「そう。このゲームの場合、それでできるだけ高得点を目指すのが目的になる」


 わたしが「そうなんだ」と頷けば、角くんはさらに説明を続けた。


「このゲームの得点は『評判』て呼ばれてる。でもって、それが七十五点を超えたら『炎の理解者(フレイムキーパー)』として認められる。九十点を越えれば『真の炎の理解者マスター・オブ・フレイムキーパー』だ」

「フレイムキーパー」

「そうなんだ。このゲームのドラゴンたちは『炎の技術(フレイムクラフト)』を持っている。その理解者ってことで『炎の理解者(フレイムキーパー)』」

「とにかく、七十五点か九十点を超えたら良いってこと?」

「ざっくりとそういう理解で大丈夫」


 角くんが頷いてくれて、わたしもほっと頷いた。七十五点を目指せば良いってことは覚えた。


「じゃあ、改めてインストするね」


 指先でルールブックをなぞりながら、角くんがルール説明──インストを始めた。




「このゲーム、やることは割と単純なんだ。まず自分の手番になったら、この町にあるお店のどこか一つを選んで訪れる」

「お店?」

「そう、あそこのパン屋とか」


 角くんが噴水脇のパン屋さんを指差した。

 振り向けば、黄色いドラゴンがパンのトレイを持ってお店の棚に並べているのが見えた。


「この時、前回訪れたお店に連続して訪れることはできないから注意してね」

「必ず違うお店に行かないといけないってことだよね。わかった」

「そう、ばっちり」


 角くんは嬉しそうに頷いて、またルールブックを指差す。


「で、お店でできることは、『もの集め』か『魔法をかける』のどちらか。どちらかを実行したら自分の手番終了」

「もの集めか魔法」

「そう。まずはもの集めから説明するね」


 角くんはルールブックをなぞっていた人差し指をぴんと立てた。


「『もの集め』を選ぶと、まず最初にその店の商品がもらえる。もらえる商品は、店と店にかかった魔法、それと店で働くドラゴンのマークで決まる」

「マーク?」


 角くんがルールブックのページをめくる。そこには、この町の地図が描かれていた。

 噴水の脇のパン屋を指差す。そこには、黄色いパンのマーク。それから「パン」という名前の黄色いドラゴンの姿の絵。そのドラゴンにもパンのマーク。


「このパンのマークは、パンとか焼き菓子とかのマーク。だから、この店でもの集めをすれば、パンや焼き菓子が二つ分手に入るってこと」


 わたしは、噴水の反対側のお肉屋さんを指差す。


「じゃあ、こっちは?」


 そこには、赤い──多分お肉のマーク。働いている赤いドラゴンの名前は「ヒッコリー」で、やっぱり赤いお肉のマークが描かれていた。


「これは肉とかの食べ物のマークだね。こっちの店なら食べ物が二つ手に入るよ」

「わかった、と思う」

「商品は他に、緑の植物、黒の金属、水色のガラスや宝石、紫のポーションやドリンク。全部で六種類あるからね」

「覚えられるかな……色で覚えておけば大丈夫かな」

「遊んでいれば自然に覚えると思うよ。マークもわかりやすいし」


 角くんはまた、地図のお店を指差した。パン屋さんの「パン」という黄色いドラゴンの隣。そこにはパンとお肉のマークが描かれていた。

 さらに隣には、お肉のマークだけが描かれている。


「ここは、このお店で働くドラゴンを募集しているって意味。この店を訪れてもの集めをして商品を受け取った後、もし手元にこのマークのドラゴンがいれば、このお店で働いてもらうことができる。一回で一頭だけだよ。そうしたら、報酬を受け取れる」

「パンのマークかお肉のマークのドラゴンがいれば、ここで働いてもらうことができるってことだよね」

「そうそう。で、一つの店ではドラゴンは三頭まで働くことができる。もし三頭揃ったら、町に新しい店が増えるんだ」

「町が大きくなるってこと?」

「そう、ばっちり」


 角くんはふわりと笑って、親指と人差し指で丸を作った。


「で、その後は、店で働いているドラゴンを一頭だけ選んで、その能力を使える」

「ドラゴンの能力?」

「能力については、遊びながら説明するね。ドラゴンの能力を使ったら、今度は店の能力。ただし、最初にある六軒の店は、能力がないからね」

「そっか、町が大きくなればお店が増えて、その能力も使えるってことか」

「そういうこと。ここまで大丈夫そう?」

「商品を受け取って、働けるドラゴンがいれば働いて、ドラゴンの能力を使って、お店の能力、だよね」

「大丈夫そうだね」


 大きく頷いて、角くんは説明を続ける。


「次は『魔法』。魔法をかけると店の商品を拡張できるんだ。今使える魔法は、ここに一覧がある。で、魔法をかけるためには、商品が決められた数だけ必要。例えば、この『エルフエスプレッソ』の魔法なら、黒の金属が二つ、水色のガラスや宝石が三つ必要」

「魔法のために、商品が必要なんだね」

「そういうことだね。魔法をかけると店が拡張されて、その報酬がもらえる。それから、魔法にもマークがあって、同じマークの店にしかかけられないから、それは注意してね」

「黄色い魔法は、パン屋さんでしか使えないってことだよね?」

「そう。で、魔法をかけたら、その店のドラゴン全員の能力を一回ずつ使うことができる」

「全員? 三頭いたら、三つ使えるってこと?」


 角くんは楽しそうに笑う。


「そうだよ。で、手番は終わり。ソロルールの場合、自分の手番が終わったら手番終わりの処理がある。これは、瑠々ちゃん以外の炎の理解者(フレイムキーパー)もこの町で仕事をしているって考えたら良いと思う」

「わたし以外の?」

「そう。瑠々ちゃん以外の誰かの働きで、町で働くドラゴンが増えたり、店に魔法がかかって店が大きくなったりする」

「他のプレイヤーってわけじゃないんだよね?」

「そうだね、ソロルールだから。評判──点数を持ってるのはプレイヤーの瑠々ちゃんだけ」


 わたしは小さく息を吐いて、頭の中を整理する。

 どこかのお店に行って、商品を受け取るか、商品を使って魔法をかけるか。商品を受け取ったら、ドラゴンに働いてもらって、ドラゴンの能力を使って、お店の能力。魔法をかけたらドラゴン全員の能力。

 自分の順番が終わったら、誰かも町を大きくする。


「うん、大丈夫、だと思う」

「そしたら次は……」


 説明を続けようとする角くんを遮るように、目の前にふわりと煙のような──雲のようなものが広がった。

 それは柔らかな若草の色をしていて、ゆらゆらと揺らめいて──よく見ればそれは、炎だった。

 熱は感じない。若草色の炎が、ゆらりと動いた中から、黒い体のドラゴンが姿を見せて、わたしたちの前に降り立った。

 黒い鱗に金色の角。羽は濃い藍色のグラデーション。脚先は紫色っぽい。たてがみや尻尾は紫と藍色のグラデーション。

 綺麗な姿のドラゴンだった。







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