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21-5 鍵がないと秘密の果樹園には入れない

 後半一ヶ所目の星苺(ほしいちご)三つ。(かど)くんはいきなりパスをした。

 それならと、一番小さい「2」の魔力の妖精で星苺を収穫する。「2」の魔力の妖精は大きめの木の実くらいの大きさで、木の実の中に鳥が潜っているような、そんな姿だった。

 その妖精が、頑張って星苺を一つずつ収穫しては運んでくる。三つめの星苺を受け取って「ありがとう」と言えば、そのままどこかに飛んでいってしまった。


 二ヶ所目の星苺六つはわたしから。

 この六つについては、わたしは諦めるつもりでいた。でも、パスしてしまえばさっきのわたしみたいに、(かど)くんは単に小さい数を出して収穫するだけだ。

 だから、わたしは欲しいフリをしてカードを伏せて出す。その数は「5」だ。星苺を持っていない魔力の小さい妖精。

 (かど)くんはわたしの顔を見て、カードを一枚伏せて置く。

 それからわたしは二枚目も出した。

 二枚目に出したカードは「9」で、星苺を一つ持っている。だから、(かど)くんには星苺を取られちゃうけど、一つだけなら大丈夫じゃないかって気がした。

 それよりも、カードを二枚使ってでも欲しい、(かど)くんにそう思ってもらいたい。


 ばれないだろうか。どう思われてるだろうか。

 動悸を顔に出さないように意識しながら(かど)くんを見上げる。(かど)くんはしばらく悩む素振りを見せてから、二枚目のカードを伏せた。

 そして公開。

 (かど)くんの魔力は「20」と「15」だった。(かど)くんにはちゃんと、わたしが欲しがっているように見えてたってことだ。

 うまくいったのが嬉しい。星苺は手に入らないし、逆に取られるっていうのに、わたしは笑ってしまった。


「そういうことか」


 (かど)くんはそう呟いた後、面白そうに目を細めた。

 きっと、(かど)くんにはわたしの思惑が伝わったんだ。何も言わなくても、カードの魔力でお互いの考えていることがわかってしまうんだ。

 なんだかそれが無性に嬉しくて、面白くて、わたしは笑いながら(かど)くんを促す。


「じゃあ、次の場所に行こう」


 わたしの言葉に、(かど)くんは落ち着いた様子で頷く。


「それはもちろん」


 でも、(かど)くんの耳は落ち着かないように動いていた。その耳はやっぱり可愛くて、わたしはずっと笑っていた。




 三ヶ所目の星苺四つはわたしの勝ちだった。

 わたしが「17」と「10」で、(かど)くんが「10」と「11」。これは(かど)くんも、勝つつもりだったんじゃないだろうか。

 わたしは(かど)くんの妖精から星苺を二つ取って、合わせて六つの星苺を手に入れた。


 そして、次はいよいよ鍵の四ヶ所目。

 わたしは持っているカードの中で魔力が大きい二枚を出す。「25」と「22」。これで鍵が手に入るはず。

 そう思っていたのだけど、(かど)くんが出したのは「24」と「23」だった。

 合計はどちらも47。

 現れた妖精たちはみんな大きな体で、お互いに顔を見合わせると何もせずにどこかに行ってしまった。


「鍵、手に入れたら勝てると思ったのに」


 悔しさに声を出せば、(かど)くんがふふっと笑った。


「そんな状態で鍵を渡すわけにはいかないからね、俺としては。それに瑠々(るる)ちゃん、ここまで大きな数使ってなかったから、ここで出すつもりだなってのがわかりやすかったし、それなら全力で邪魔するしかないなって」

「悔しい」


 溜息をつけば、(かど)くんが地図を指差した。


「さ、まだ一ヶ所残ってるよ。最後まで続けよう」


 促されて、(かど)くんと二人で夜の森を移動する。

 立派な壁に囲われた秘密の果樹園の、大きな門を思い出す。あの門の中に入ってみたかった。秘密の果樹園を見てみたかった。

 そんなことを思いながら歩いていた。


 最後は星苺が六つ。

 わたしの手元には魔力「14」のカードしか残っていないので、それを出す。(かど)くんも残っていた二枚を出した。

 公開すれば、(かど)くんの魔力は「4」と「7」で、わたしの勝ちだった。

 星苺が六つ手に入ったけど、これでわたしは勝てるだろうか。


 二人で星苺の数を数えれば、わたしは十七個、(かど)くんは二十個だった。結局負けてしまった。


「悔しい。ちょっとうまくいきそうな気がしてたんだけどな」

「そうだね。鍵が手に入っていれば勝ってただろうし」

「あんなに全力で邪魔されると思ってなかった」

「それはまあ、俺だって勝ちたいから」


 そう言ってから、(かど)くんはちょっと悩むように口を閉じて、わたしの顔を覗き込んだ。


「アドバイス、いる?」


 わたしはちょっと考えてから頷いた。(かど)くんはほっとしたような顔をして、それから人差し指をぴんと立てた。


「じゃあ、一つ。このゲーム、使われたカードの数を覚えておくのは大事だよ。一回使ったカードは二度は使われないから。例えば今回、瑠々(るる)ちゃんは魔力『25』のカードを持ってるけど、それがもう出たのか、まだなのかで俺は動きを変えることができる」


 (かど)くんの言いたいことはわかった。(かど)くんの使ったカードを覚えておけば、最後の方は(かど)くんの持っているカードがわかるってことだと思う。

 でも、とわたしは唇を尖らせる。


「わたし、そうやって覚えるのできる気がしない」


 (かど)くんが苦笑する。


「その辺りは慣れもあるからね」

「だって、わたし慣れるほどボードゲーム遊んでないもん」

「じゃあさ、もっと遊ぶ? 俺は良いよ、何度でも」


 (かど)くんが首を傾ける。妙に余裕ぶった表情だったものだから、わたしは勢いで頷いた。


「もう一回遊ぶ。次は、ちゃんと勝つから」


 わたしの言葉に、(かど)くんは楽しそうに笑った。




 新しいカード。新しい地図。ゲームの中に入り込んだまま、何度もゲームを繰り返している。

 いつまでもいつまでも、夜が続いて、このまま夜が明けないんじゃないかって、そんな気持ちになってくる。

 それなのに、わたしはなかなか勝てなくて、でも何度か遊んでいるうちに、少しずつわかってきたこともあった。

 後半のことを考えて前半でカードを残しておくことも大事だけど、それも時と場合によるってことだ。前半で星苺をあまり集められないと、後半に集めても間に合わないことだってある。

 それから、秘密の果樹園の十二個は魅力的だけど、それに集中しすぎても星苺の数で負けてしまう。かといって、秘密の果樹園の門と鍵でパスすると、単に(かど)くんが得をするだけ。

 どれを手に入れて、どれは欲しいフリをして、どれはパスするのか。

 わたしだけじゃなくて、(かど)くんはどう思ってるのか。

 お互いの気持ちをそうやって読み合うゲームなんだっていうのが、何度も遊ぶうちに少しわかってきた気がする。


「悔しい。待って、もう一回」


 こうやって言うのも、もう何回目だっけ。

 (かど)くんは嫌な顔もせずに、いつもの機嫌の良さそうな顔で頷いてくれる。


「良いよ、何度でも。一回のプレイが短いゲームだと、何度も遊べて良いよね」


 わたしのわがままに付き合ってくれてるってだけじゃなくて、きっと、(かど)くんも楽しんでくれている。そう思ってる。


 そして、また新しいゲームが始まる。

 今度こそ。そんな気持ちで、わたしは新しい地図と、手札を見比べる。

 一ヶ所目が星苺二つ、二ヶ所目が三つ、三ヶ所目が六つ。四ヶ所目は鍵で、五ヶ所目は五つ。

 鍵に惑わされちゃいけない。そう思いつつ、やっぱり秘密の果樹園に入ってみたいって気持ちはある。

 今回はどうしよう。せっかくだから狙ってみようか。


「さ、じゃあまたゲームを始めようか。一ヶ所目の場所に行こう」


 (かど)くんに促されて、二人で夜の森を歩く。星明かりの中、妖精たちのざわめきを聞きながら。





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