21-4 森の奥に秘密の果樹園がある
改めて、新しいゲームが始まる。不思議な地図の上に光が灯って数字が浮かび上がる。
一ヶ所目の星苺は二つ、二ヶ所目は門で、三ヶ所目はまた二つ。四ヶ所目と五ヶ所目は五つと四つ。
それに対してわたしの手札は「6」「13」「14」「18」「21」「25」。
最初の時点で作戦を考える。
できれば数の大きい手札は前半で使わずに後半に残しておきたい。さっきも前半に大きい数のカードが多くて、後半は小さい数のカードが多かった。それで後半は星苺がなかなか手に入らなくて大変だった。
それに、今のわたしの手元のカードは「6」以外全部星苺を持っている。中途半端にカードを出しても星苺を取られるだけだから、だったらパスすることを考えても良いと思った。
そうやって地図を眺めてみれば、星苺二つは諦めても良いんじゃないかって気がした。できれば五つのところは欲しい。それから、門も取っておきたい。星苺十二個はやっぱり魅力的だと思う。
「今度も俺からみたいだから、俺から行くね」
一ヶ所目で角くんはそう言って、少しだけ考える様子を見せた。それからまた口を開く。
「うん、パスする」
そうか、角くんも同じように星苺二つはパスしても良いって考えてるのか。わたしもパスしようかと思っていたけど、今カードを出せば確実に星苺が手に入ると気付いて、やっぱり「6」を出すことにした。
それで星苺二つはわたしのもの。
だから二ヶ所目の門は、わたしからカードを選ぶことになった。わたしがカードに指をかけると、角くんが口を開いた。
「一応言っておくけど、後半で必ず鍵が出てくるとは限らないからね。もし後半で鍵が出てこなければ、果樹園の中に入って星苺を収穫することはできないから」
「鍵が出てこないこともあるの?」
「あるよ。だから、それも考えて選んで」
本当はここで「21」を出そうと思っていた。でも、鍵が手に入らないかもしれないなら、カードを使わない方が良いんだろうか。
ちょっと悩んで角くんの顔を見る。角くんは楽しそうにわたしを見下ろしていた。
「角くんは、門を狙ってる?」
「そういうことは言わないよ。瑠々ちゃんはどうするの?」
「じゃあ、わたしも言わない」
角くんは相変わらずの機嫌の良さそうな顔で、何を考えているかはわからない。わたしは迷った末に「21」のカードを伏せた。
鍵が手に入らない可能性はあるけど、手に入る可能性だってある。だったら、十二個の星苺が手に入った方が嬉しいから、そっちを選ぶ。
角くんもカードを一枚選んで伏せる。これは角くんも門を狙っているんだろうか。「21」だと足りないだろうか。もう一枚カードを出した方が良いんじゃないだろうか。
わたしは「13」のカードも選んで、二枚目のカードとして伏せて置いた。
「なるほど。じゃあ俺は二枚目は出さない」
それで公開された角くんのカードは「3」だった。二枚目のカードどころか「21」だって大きすぎたくらいだった。こんなにカードを使うんじゃなかった。
その時になってふと、角くんが「3」のカードを出した意味が気になった。「3」のカード一枚なんて、数が小さすぎる。勝てる可能性なんかほとんどないのに、なんでパスしないでカードを出したんだろうか。
見上げれば、角くんは楽しそうに目を細めた。
「瑠々ちゃん、俺がカード出したから不安になって二枚目出しちゃったでしょ」
言い当てられて、瞬きをする。
「俺が出した『3』のカードは星苺も持ってないし、数も小さいし、負けても全然困らないカードなんだ。ただ、瑠々ちゃんが門を欲しそうにしてたから、俺も一枚出しておけば、瑠々ちゃんがここでカードを使ってくれるかなって思っただけ」
「つまり……えっと、角くんは欲しいフリをしてたってこと?」
「そうだね。欲しいフリをして、瑠々ちゃんにカードを使わせたんだ。ここまで大きい数を使ってくるとは思ってなかったけど」
つまり、わたしはまんまと角くんに乗せられて、カードを使わせられたってことだ。
「言ったよね。手加減しないって」
角くんはそう言って、首を傾けた。わたしはそれを睨み上げる。
「わかってるよ、大丈夫。それに、鍵が手に入れば勝てると思うし」
それに本当は、ちょっと嬉しかった。角くんが手加減してないことがわかったから。
次の三ヶ所目の二つの星苺はパスして角くんのもの。
四ヶ所目の星苺は五つ。勝つつもりで「18」を出したけど、角くんは「19」で負けてしまった。「18」の妖精が持っていた二つの星苺まで取られてしまう。
前半最後の四つの星苺もパスをした。それよりも、後半のためにカードを取っておきたかったから。今は悔しくても我慢する。
「瑠々ちゃん、さっきから星苺取れてないけど大丈夫?」
角くんの心配そうな声に、わたしは頷いた。
こういう気遣いもこういう優しさも、角くんの良いところだと思うし嬉しい。
けど、でも今はそれよりも、ちゃんとプレイヤーとして扱われたい気がしている。角くんにプレイヤーとして見られたい。
「大丈夫。後半にいっぱい取るつもりだから」
「なら良いけど」
「それより」
見上げれば、角くんは「何?」と首を傾けた。わたしは少しためらってから口を開く。
「角くんは楽しい? ちゃんと……ちゃんと楽しく遊べてる?」
わたしの言葉に、角くんは困ったように眉を寄せた。
「瑠々ちゃん、そんなこと考えてたの?」
「だって……角くん、いつもわたしに気を遣ってくれるから。楽しめてるのかなって心配で」
「あのね」
角くんが背中を曲げてわたしの顔を覗き込む。
「俺は今もう、めちゃくちゃ楽しいよ。それに何度も言ってるよね、手加減はしないって。俺だって、本気で遊んでるんだよ」
角くんの顔の近さに、わたしはどうして良いかわからなくなって、俯いてしまった。
「角くんが楽しいなら良いけど」
「瑠々ちゃんこそ楽しく遊べてる?」
「え、わたし?」
そういえば、このゲームを始めてから角くんのことばっかり気にしていた気がする。プレイヤーとして見られたいって、そんなことばっかり考えていた。
それはもちろん、楽しかった、とも思うけど。
わたしはちゃんとゲームを遊べていただろうか。ちゃんと遊ぶって、どういうことだったっけ。
「楽しい、よ」
ちょっと自信がないまま言ったから、きっと角くんにはそれが伝わってしまったんだと思う。
ちらりと見上げれば、角くんはまだちょっと困ったような顔をしたままだった。
後半に、わたしも角くんも二枚のカードを持ち越した。特にわたしは、魔力が最大の「25」のカードを持ち越せている。だから、ここからが勝負だ。
二人で地図を覗き込んで、お互いの表情を盗み見て、次からの作戦を考える。
後半一ヶ所目は星苺が四つ、二ヶ所目は六つ、三ヶ所目は四つで、四ヶ所目には鍵、五ヶ所目は六つだ。鍵があることにほっとする。
大きい数は鍵のためにとっておきたい。星苺六つの場所はきっと取り合いになるだろうから諦めて、星苺四つを狙ってみよう。
「ちゃんと鍵が出るなんて、瑠々ちゃんは運が良いんだね」
角くんが面白そうにそう言って、自分の手札と地図を見比べている。
「後半にいっぱい取るつもりって言ったでしょ。わたしだって、ちゃんと勝つつもりだから」
わたしがそう言えば、角くんはふふっと笑った。
「楽しみにしてるよ。じゃあ、一ヶ所目の星苺の場所に行こうか」
余裕がありそうな態度に、わたしは唇を尖らせた。でも、すぐに笑ってしまう。
だって、角くんの毛の生えた耳が自慢げにひくひくっと動いて、可愛いって思ってしまったから。
わたしたちは夜の森の妖精だった。
それぞれの手に星苺が入った袋を持って、星明かりの中、くすくすと笑いながら歩いていた。




