17-4 アマリリス:本気です
次に角くんが差し出してきたのは、『アマリリス』の『花束』と、『思い出』のペンダント。わたしは少し考える。
赤い『アマリリス』はハートがない。効果は「あなたの花束の花1つにつき+1点」だ。『花束』を選ぶのか『思い出』を選ぶのかはこうやって点数に関わってくるのか、とその効果を見て気付いた。
わたしはさっきの『バラ』ですでに『花束』を持っている。この『アマリリス』も『花束』だから、これを選べばそれだけで二点になるってことだ。
悪くない気がして、わたしは角くんから『アマリリス』の『花束』を受け取った。そのメッセージは「本気です」。
そして、最後はまたわたし。二つの花はどちらも白い。『ヒナギク』と『ラン』。
白い『ヒナギク』はハートがなく、効果は「あなたのハートの無い他の花1つにつき+1点」。白い『ラン』はハートが一つで、効果は「披露の準備:この花は任意の色の花として数える」だった。
任意の色の花として数えるというのは、ピンクと言えばピンクの仲間になるらしい。そうすれば『バラ』の「あなたのピンクの花1つにつき+1点(これを含む)」の点数が1点増えるってことだ。
わたしには「あなたの花束の花1つにつき+1点」という効果の『アマリリス』がある。だからできれば『花束』の花を増やしたい。『ラン』を『花束』にした場合、角くんはこっちを選ぶだろうか。それとも『思い出』を選ぶだろうか。
角くんは「あなたにハートが無いなら+3点」という『ヒヤシンス』を持っている。ハートのある『ラン』は欲しがらないかもしれない。
その可能性に賭けて、わたしは『ラン』を『花束』にする。『ラン』のメッセージは「あなたは魅力的」で、『ヒナギク』のメッセージは「私は純真」。
メッセージはゲームに関係ないってわかっているのに、つい考えてしまう。
角くんはきっと、これがゲームだってわかっていて、その言葉の通りにメッセージのことなんか気にしていないんだろうな、という気がする。だから平気で『花束』を差し出せるし、選べるんだと思う。
メッセージのことなんかいちいち気にしていたら、ゲームを遊べないっていうのはその通りだ。だって、花のメッセージは「愛しています」とかそういう言葉ばっかりで、本当に気にしていたら落ち着かないのだ。
ふと、角くんはなんでこのゲームを選んだんだろう、と頭をよぎったけど、すぐに考えるのやめた。角くんはきっと、怖くないゲームを選んだだけ。それ以上に意味があるなんて──。
白い大輪の『ラン』の『花束』は華やかで、くらくらするほど甘いにおいだった。
角くんはちらりとわたしの手の『花束』を見て、ためらうことなく『思い出』を選んだ。わたしが思った通りに角くんが動いてくれて、それはなんだか嬉しい。だってそれは、わたしでも角くんの考えが少しわかったってことだから。
それで、いよいよ『披露』──点数計算だ。その前の披露の準備で、わたしは『ラン』をピンクの花として数えることを決めた。
角くんのところには新しい花が届けられた。白い『クチナシ』と紫の『ワスレナグサ』。
この新しい花は角くんが持っている『ピンクのヒエンソウ』の効果らしい。自分が持っている『花束』か『思い出』の花一つと、新しい花のどちらかを交換できる効果なのだそうだ。
角くんは『赤いチューリップ』と白い『クチナシ』を交換した。『クチナシ』の効果は「あなたの思い出の花1つにつき+1点」で、角くんのところにある『思い出』は三つだからこれだけで三点だ。
それに、角くんはハートも持っていなかった。だから『ヒヤシンス』の「あなたにハートが無いなら+3点」で、三点。『ヒナギク』の「あなたのハートの無い他の花1つにつき+1点」でも三点。
「だから、俺の点数は全部で九点。大須さんは?」
頷いて、わたしも自分の点数を数える。
まずは『フロックス』のハート二つで二点。『バラ』はハートはないけど、ピンクの花が『ラン』も合わせて三つだから三点。『アマリリス』の「あなたの花束の花1つにつき+1点」の効果で三点。『ラン』はハート一つで一点。
「二と三で五。それに三と一だから……九点」
同点だ。そっと見上げると、角くんはふふっと笑った。
「勝ったと思ったんだけどな」
角くんはそう言って、楽しそうに目を細める。
わたしだって、てっきり角くんには負けてるものだと思っていた。まだちょっと信じられなくて、瞬きをして角くんを見ていた。
角くんは「悔しいな」と言いつつ、あまり悔しくなさそうな顔で笑っている。その表情は、勝ってはいないけど負けてもいないからだろうか。それとも、まだゲームが終わってないから、これから勝つってことだろうか。
もしかしたら角くんのことだから、単に楽しんでいるだけかもしれない。
そんな角くんを見ているうちに、勝ちたいな、と思った。勝ちたいというか、角くんが悔しがる表情を見たい。角くんを本当に悔しがらせたい。
わたしにも勝てるだろうか、やっぱり難しいだろうか。
でも、このゲームでどうやって考えたら良いのか、ちょっとわかってきたような気がする。こうやって、相手が何を考えるのか、こうやったらどっちを選ぶのかとか、推測して当たれば楽しい。
それに今回は同点だったし、わたしだって角くんに勝てるかもしれない。
そんなことを考えながら、『花束』の甘いにおいの中、わたしは角くんの楽しそうな顔を見上げていた。




