作戦を練る
「ベヒモスに勝てる!?孝介、それ本当?」
「絶対なんて事は言い切れないが、可能性は出てきたと思うぞ。」
「そ、それはつまり、旦那様。世界の理を理解することができたということじゃな?」
「たぶん、そういう事だと思う。」
さっき見た夢のようなもの。それは世界の理を表しているものだったのだ。一度俺が倒れてしまったのは単に脳の解読スピードが間に合わずオーバーヒートしたってわけだな。
「世界の理・・・。横井くんがそれを理解したってことは、世界に関する事象を横井くん自身が起こすことができるってわけですね!」
「そういう事だ。これでベヒモスと同等、うまくいけばその上の力を持つことができる。」
「孝介様、すごい、ね!」
これも、みんなやクラスメートたち、
あと・・・ヘルのおかげだな。
「それじゃあ、ベヒモスを倒すための作戦をたてようか。」
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それから俺たちはベヒモスを倒すための作戦を推敲に推敲を重ね、練り上げていった。もちろん、クラスのみんなにも〔本質〕のことを伝えて、少しでもスキルを強くしてもらっている。
それからは数時間、ベヒモスの成長のことも考えてあまり時間は長く取れない中、最高の策を練ることができただろう。
「ベヒモスの今の状況を確認してみたが、今は成長の停滞期に入っているようだ。今日はもうすぐ外も暗くなる。一晩しっかりと休んで、明日の朝出発しよう。」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
俺の呼び掛けに全員が応じる。幸い魔王城にはこの人数でも休めるほどの部屋があるようだ。明日に備えて、ちょっとでも質の良い休養をとってほしいからな。
「俺たちも寝ようか。明日の戦いはみんなの協力が不可欠だ。しっかり休んでくれ。」
「はーい。」
「わかった。」
「わ、わかりました!」
「了解なのじゃ。部屋はあっちにある、ついてくるのじゃ。」
部屋はベットが五つ。それぞれでちゃんと寝られるようになっている。
一人で寝たのなんていつぶりだろうか。倒れたときも誰かはそばにいたしな。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ~」
「ん、おやすみ」
「おやすみなのじゃ。」
「おやすみなさい。」
そして、明日に備えて全員が眠りについた。
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それから2時間ほどして、俺は魔王城のベランダにいた。
コンッコンッコンッコンッ
柵に手をかけて、ボーッと遠くを見つめていると、後ろから足音が聞こえてきた。
「孝介、寝られないの?」
「あぁ、あかりか。まぁ、そんなところだな。」
「まぁ運命は孝介にかかってるっていっても過言ではないわけだもんね・・・。」
すると、あかりが俺のとなりに来て、同じように柵に手をかけて遠くを見つめた。
しばらくの沈黙が、空間を支配する。といっても不自然な沈黙ではなく、風の音や、虫の音が聞こえてくる、そういった沈黙だ。
少しして、再びあかりが話し始める。
「こんな風にしてると、世界の危機が迫ってるなんて嘘みたいだよね。」
「そうだな。」
そんな受け答えがあったあと、またしばらくの沈黙が続く。
次は俺から話を始めた。
「俺にどうにかできるんだろうか。」
「孝介・・・。」
「俺はまぁ、もとの世界ではいわゆるいじめられっ子だったわけだ。そんななかであかりだけは俺と一緒にいてくれた。あのときはちょっと迷惑だなんて思ってたけど、今になっては俺のとなりにはずっとあかりがいて、俺もそれが嬉しい。あかりだけじゃない。ミナも、リリも、あと先生も。
・・・結局俺は誰かがいないとなにもできないのかもな。」
長々と話してしまった。それにあかりは困ったような、寂しいような顔をしていた。
「その、すまないな。変な話だった。」
「ううん・・・・・・あのね、私はそんなこと思わないよ。孝介がなにもできないだなんて。ねぇ、私が孝介を好きになった理由を話したの、覚えてる?」
あの洞窟での話か。
「あぁ、覚えてるよ。」
「そのとき、孝介は私を助けてくれたよね。それは誰かに言われたわけでも、誰かと一緒にでもない。孝介自身がしてくれたことだった。だから、孝介は何だってできるんだよ!だって《想像》すれば何だってできるんだもん。」
あかりは俺を見つめながらそんなことを言った。夜の暗がりのなかでもわかるほど、あかりの顔は真っ赤になっていた。そして、俺も同じように真っ赤になっていたのだ。
「そうか。ありがとな、あかり。・・・それに、今だってあかりがいてくれる。心配する必要なんてなかったな。」
空気を変えようと、ハハハと軽く笑う。すると、あかりもニコッとしてくれた。
「孝介、こっちに来て。」
「え、あぁ。」
あかりが少し恥ずかしそうに言う。雰囲気で何となくわかった。
徐々に俺とあかりの顔が近づいていく。したことはあるのに、いつもとは違ってなぜか緊張してしまう。
そんなことを考えているうちに、二人の唇と唇が触れあう・・・。
「ふわぁ~、眠れないです・・・。ん?横井くんに井上さん、そんなところで何を?」
「「え?」」
直前で硬直する。まさかの先生が起きてきたのだ。突然のことに、顔を近づけた状態のまま固まる。その間に先生の思考回路が回復したようだ。
「二人とも・・・?な、なにやってるんですかぁ!き、きき、キスなんて、私はまだしてもらって、じゃなくて、ふしだらなこと、許しませんよ!」
せ、先生・・・。それ、本音もれてませんか?
「先生、やっぱりキスしてほしいんだぁ~。」
「い、井上さん!?そ、そんなわけ、な、ないじゃないですか!そ、それより、先生に向かってその言い方はなんですか!」
あかり・・・。さすがにそれは。
「それを今言うんですかぁ?だって、今の私と先生の関係は、孝介の妻同士って関係の方が強いですよね。それに、孝介にも先生って呼ばれるより"恵"って呼んでほしいんじゃないですか?」
「そ、それは・・・。」
さすがに先生がおろおろしてかわいそうだったので、ここらで止めておこうか。
「あかり、先生困ってるだろ。それ以上は・・・。」
「よ、呼んでほしいです・・・。」
え?今なんて言った?
「横井くんに、名前で呼んでほしいです・・・。あと、その・・・キスもしたいです・・・。」
「へ?」
ヤバイヤバイ、頭の解読スピードが間に合ってない。ちょっと前になったばっかりなんだが!
「え?そ、その、名前で読んだ方がいいか?」
「は、はい。」
空気を読んでなのか、あかりが静かにフェードアウトしている。おぉぃ・・・。
「え、そ、その、恵?こ、これでいいか?」
「ひゃぅ。は、はい。嬉しいです。」
さすがに先生だった(今もそうだとは思うが)人を名前で呼ぶのには抵抗がある。だが、そうしてほしいならそうするべきだろう。
先生がなんだかモジモジしている。えーっと、なんでだ?あ、その、キスか・・・。
「その~、き、キス、するか?」
「ひっ・・・。」
さすがに今は無理だったか。いまは大丈夫か、と話しかけようとしたそのとき、
「・・・もぅ!」
「え?うわっ、んっ、んん~」
唇に柔らかく、暖かいものが触れる。勢いよく抱きついてきたからか、思いっきり顔がぶつかってしまったがそれでも強く唇を押し当ててくる。
「ん~・・・んんっ・・・ぷはぁ、はぁ、はぁ」
「はふぅ、あ、その、ごめんなさい!」
「そ、その~、嬉しかったよ。」
「ひゃふ?」
驚いたのか、変な声が出てしまったみたいだ。突然だったので、二人揃って黙ってしまう。すると、
「ひゅ~。お熱いですねぇ。」
「い、井上さん!?なにいってるんですかぁ!」
「あはは、これで恵も孝介とキスできたね~。」
「うぅぅ・・・。」
なんだか先生・・・恵が弄られてるが、そろそろ止めようか。
「ほら二人とも、早く寝るぞ。」
「はぁ~い。」
「は、はい!」
色々あったおかげか、それからはぐっすりと眠ることができた。
全員がキスをしましたw