意識空間
遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
・・・・・・っ、うぅぅ。
ふと意識が戻る。というのも自分の体の存在を感じたからだ。
だがまだ体は動かないし、なにも見えない。感覚も感じなければ何かの気配も感じない。
ただただ意識だけがあり、自分が倒れているのかも、どこにいるのかもわからなかった。
しばらくして朦朧としていた意識がはっきりしてくる。すると、やっと自分以外のことに意識をさけるようになった。
なぜ俺はこんな状態なんだろうか。
頭が回ってきたのか、少しずつ何が起きたのかも思い出してきた。
サーナ様を無事救出したあと、世界端の石を取り返しに行って、見つかってしまったがそのまま逃げきれた。
異常強化のポーションを取りに行ってくれていたみんなとも合流したところでたしか、ベヒモスだったか、そうだ、ワールドイーターがバードッグ王のせいで蘇って、それで、その・・・。
「攻撃をしかけましたが、負けてしまったわけですね。」
そう、うまくいったと思ったのだが、あの黒い煙はなん・・・ん?だ、誰だ?
「私はいわゆる女神ですね。あなたは死んでしまったので」
頭の中に響くような、つまり念話のような声が聞こえてきた瞬間、やっと体に力が入り、感覚を感じるようになり、そして、目が見えるようになった。
どうやら寝転んでいる状態だったようで、体を起こして回りを見渡して見ると、先程までの真っ暗な世界とは打ってかわって、どこまでも真っ白な世界だった。一瞬目が眩む。
少しして目が慣れると目の前には一人の女性がいた。
スラッと高い背に白く透き通った肌。綺麗な金髪は腰のところまで伸びている。
「あなたは先程の戦いで死に、そして転生することになりました。」
は?転生?
違う世界から転移してきてその先でも転生するのか?
そんなことが頭をよぎったが、次の瞬間にはひとつの答えにたどり着いた。その場に立ち上がり、その女性に向かって話しかける。
「何やってるんだ?ヘル。」
「ふふふっ、ばれてしまいましたか。はい、ヘルです。なぜわかったのですか?」
「わからないが、そんな気がしたんだ。」
「そうですか。」
やっぱりそうなんだな。となると、ここはどこなんだ?
「ここはご主人様の意識空間です。思考回路の中というわけですね。それで、今がどういう状態か説明していきますね。」
「あぁ、頼む。」
「あ、それと転生ってのは嘘ですからね。」
「大丈夫だ。わかってる。」
それからのヘルの話は大まか俺の思い出した話と同じだった。今はちょうど転送で魔王城に来たところまで話し終えた。
「それで、みんなは無事なのか?」
「はい。ご主人様が光線を受けたお陰で皆さんには怪我ひとつありません。今はご主人様も含め魔王城にいます。」
そうか、みんなは無事だったんだな。よかった。
「では、今度はご主人様の今の状態を説明しましょう。それに当たって、まず生物についての説明が必要ですね。」
「生物の説明?」
「はい。生物の体というのは、その生物の魂魄をとどめるための器の役割とその魂魄を守る役割を持っています。なので、簡単な怪我や病気であれば器が傷つくだけですぐに修復することができます。ただし、今のご主人様のように器が耐えきれないほどのダメージを受けると・・・。」
「・・・魂魄に傷がつくわけだな。」
「はい。そして、器の傷と違って魂魄の傷は普通治ることはなく、一定時間たてば魂魄が消滅・・・つまり完全なる死を意味します。ベヒモスが蘇ったのは魂魄への傷が浅く、今のご主人様のような仮死状態が続いていたから、というわけです。」
何となくはわかった。つまりベヒモスの場合はバードッグ王が取り出した世界を構成するエネルギーによって魂魄が修復されたわけか。
「はい。魂魄の修復には二つの方法があります。まずはベヒモスと同じく世界を構成するエネルギーを使うことです。そして、もうひとつの方法は、他の魂魄を混じり合わせることで、その魂魄を犠牲にして修復する方法です。」
他の魂魄を犠牲にする・・・か。まぁ魂魄の修復というのは死者蘇生を意味するからな。やはり代償は大きいか。
「それで、なぜヘルがその事を伝えに来たんだ?」
「それは・・・最初私はヘルプの機能として生み出されました。しかし、普通ヘルプなんて存在しないので、それに変わる存在として私が生まれたわけです。そして、ご主人様がステータスとして成長するにつれて、私の存在というものも成長しました。つまり、私はご主人様の体を器とした魂魄を持ったもの、ひとつの生物になったわけです。」
「俺の体を共有しているわけか・・・。なんだか変な話だが、ヘルの言うことだしそうなんだろう。」
なんてったってヘルプだしな。
「それで、先程言ったように他の魂魄を犠牲にすればご主人様を蘇生することができます。それなら、私の魂魄を使ってご主人様を蘇生すれば・・・。」
「ちょ、ちょっとまて!そんなことしたらヘルはどうなるんだ?」
聞かなくても答えはわかっている。それでも少しの希望から聞いてしまう。
「もちろん、私の存在が消滅します。」
でも、答えは変わらなかった。ヘルプだもんな。正しいことなんだろう。
「でも、そうしなければご主人様は生き返ることはできません。ご主人様はベヒモスを倒せる最後の希望と言っても過言ではないでしょう。ここでもしご主人様が蘇生を受け入れてくれなければ、あかりさんも、ミナさんも、リリさんも、先生も、勇者であるクラスメートの方たちも、今までの旅で会った人たちも、この世界、いえ、すべての世界の人が救われないわけです。」
すべきことはわかっている。それでも体が受け付けてくれない。自然と目は熱くなり、とめどない涙が溢れてくる。
「私はご主人様のヘルプです。困っているご主人様を助けられなければ、何より私が救われません。」
その瞬間、腹の底から体の隅々へと冷たさが走った。そのときにはもう、どうしようもなかった涙は止まっていた。
「俺は勇者じゃない、ただの異世界人だ。だって、今だってとてつもない恐怖を感じているからな。それでもやらなきゃならないなら・・・ヘル、頼めるか?」
「はい。それにご主人様は勇者ではありませんが、ただの異世界人なんかではありませんよ。ほら、」
ヘルが手を振ると、近くに俺のステータスが表れる。そこには
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横井孝介 17歳 Lv99
全てを救う者(仮) 本質解放者
HP 150000/150000
MP 300000/300000
シールド 250000
レジスト 230000
スピード 240000
耐性 180000
スキル 《想像》〔本質〕
《威圧》《鑑定》《強化》
《飛行》《圧縮》《地面操作》
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いつのまにかレベルがカンストしてるな。
「この蘇生方法は、魂魄を犠牲にするというかは混ぜ合わせるというべきでしょうか。これは私の魂魄がご主人様の魂魄に混ぜ合わさったときのステータスです。私もそれなりにステータスがあったので、混ぜ合わせることでカンストしたのだと思います。」
そうなのか。というより職業の場所が・・・
「《全てを救う者(仮)》か。たしかにただの異世界人ではなかったが・・・。締まりが悪いなぁ。」
「ご主人様が全てを救うのはこれからなので。・・・ではそろそろ始めましょうか。」
俺が頷くとヘルが淡く光り、ひとつ光の玉になった。
ふよふよと漂いながらこっちに近づいてきて、目の前で止まる。
(そうでした。最後に二つだけ話さないといけないことがあります。)
「わかった。」
(一つ目は、私のスキルについてです。今までのようにステータスを表示させられたのは私の持つ《分析》というスキルによるものです。《鑑定》の上位互換のようなものですね。これを、ご主人様に渡そうと思います。これで、今まで以上にステータスコピーがやり易くなります。ベヒモスを倒して、ステータスをコピーしないといけないですしね。)
「そうだな。そう考えると少し楽しみだ。」
(そして、二つ目は・・・。)
また光の玉がふよふよと動き出して、俺の胸の中にすうっと入っていく。抱き締められているような暖かさを感じる。
(あかりさん、ミナさん、リリさんの他にもご主人様に好意を寄せている人は二人います。それは、私と・・・先生です。)
そうか・・・。え?ちょ、聞いてな・・・。
(ふふふっ・・・。それでは、ご武運を・・・。)
最後にとんでもない発言を残して、ヘルの気配が消える。それと同時に、俺の意識も遠退いていった。
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