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猫は死ぬ  作者: 和田好弘
其の参:地獄の使徒
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02_獄門は顕現する


 マリアマリアは突然の事に驚き目を見開いていた。


 バルトロメがいきなりノエリアとの距離を詰め、その頬を剣で叩いたのだ。


 攻撃をするにしても、なぜそんな攻撃の仕方をしたのか腑に落ちなかったが、これでノエリアがこっちに仕掛けて来る暇はないだろう。


 そう判断し、マリアマリアは自身のすべきことの準備を始める。


 懐から祭具である三鈷杵(さんこしょ)を取り出す。本来は武器として造られた物らしいが、いまでは武器と云うよりは祭具として【使徒】たちは扱っている。


 三鈷杵に祝詞を含み、魔力を込めてから足元に投げる。


 地面に突き刺さった三鈷杵を中心に結界を組み上げる。範囲は出来うる限りで極小。この結界術は本来街全体に掛けるような広域のモノだ。そしてこれから行う儀式術に必須の物。個人や小隊に施すような規模の結界では不足であるためだ。


「広域結界陣、発動」


 三鈷杵を中心とした、球状の結界が張られる。その直径は凡そ500mほどのものだ。マリアマリアの技量では、基準の十分の一程度にまでしか縮小できなかった。

 だが戦闘を繰り広げているノエリアとバルトロメとの距離を考えれば、このサイズは適当であろう。


 マリアマリは使徒の証のひとつである戦槌を傍らに突き立てると、懐からふたつめの祭具、独鈷杵(どっこしょ)を取り出した。


「我、十王が(ろく)変成王(へんじょうおう)が使徒マリアマリア・パンサレスが御願い奉る。

 我が使命を果たすため、一時の間、彼方と此方と繋ぐことご容赦を!」


 右手にもつ独鈷杵が僅かに震え、ほのかに光を灯す。そして世界が変わる。


 足元はそのまま、脛に届くか銅貨と云う程度の草が広がる平原のまま。だがそれは夜であったというのに、まるで夕焼けのように赤く染まった。そしてそれまで地上を明るく照らしていたふたつの月はどこにも見えない。


 よし、第一関門突破。神々は私の行いを認めてくださった。


 次。


「我、変成王が使徒マリアマリア・パンサレスの名と、我が血の触媒を以て御願い奉る。【獄門】召喚!」


 独鈷杵で左手首に当てる。あまり深く切ってはダメだ。出血が多くては決着前に命が尽きてしまう。


 マリアマリアは慎重に、しかし迷いなく手首を切った。


 血がタラタラと足元に落ちる。その最初の一滴が足元の三鈷杵に落ちた途端、結界内の景色がさらに変容した。


 マリアマリアの足元を中心に、結界内を横切る赤い川が顕れる。それは10メートルほどであろうか

だがそれは実体のある川ではない。事実、マリアマリアはその川面に足首まで沈めて立っているが、一切濡れてはいない。


 川が結界の両端に達する。術は進行する。


 その川の向こう側。川べりに突如として巨大な門が落ちてきた。赤い川を飛沫かせ、岩を荒々しく削りだした門柱に挟まれた禍々しいレリーフの施された巨大な門。それは鎖で雁字搦めにされている。


 その門を縛っている4本の鎖は、それぞれが四方に伸び、中空で消えている。


 そして鎖絡む門扉の部分に下がる鎖には錠前が4つぶら下がっている。


 あと成すべきことは、この四つの錠を外すこと。さして難しいことではない。


 問題は、マリアマリアの命がもつかどうかだ。


 マリアマリアは軽く息を吸うと、ゆっくりと吐き出した。


 さぁ、続けよう。


 独鈷杵を天に向ける。


「天の理、冥の理、生の理。これらすべてを正しく守るため、門の解放を願い奉る! 第一の錠、開錠!」


 門を塞ぐ鎖を繋いでいた錠前が外れ、赤い水面に落ちる。


 残る錠はあと三つ。



 ★ ☆ ★



 突如として現われた赤い川に、ソレは一瞬気を取られた。


 そこへバルトロメの斬撃が襲い掛かるも、ソレはかろうじてナイフで弾き逃れた。


 あの暗殺者愛用のこの銀のナイフは非常に有用だ。何かしらの魔法の掛かった逸品だが、生憎どんな魔法の力を持っているのかは不明だ。かつて暗殺者が仕事として害した高位貴族が持っていた代物ということだけが分かっている。


 おかげで、たかがナイフであるというのに、バルトロメの段平を弾いても折れることもない。


「あれはなに?」


 顎が砕けているためか、ややくぐもったような声でソレが問うた。


「これからお前さんを招待する場所への扉だ」

「招待?」


 繰り出したナイフが弾かれる。


「あぁ、楽しみににしとけ」

「……」


 ソレとバルトロメの攻防が続く。ナイフを弾く。段平を躱す。


 その攻防は奇妙だ。それもそうだろう。一方は殺す気でナイフを振るい、もう一方は死を選ばせないために段平を振っているのだ。


 そしてバルトロメは、そうと悟らせないように剣身に殺意を載せている。経験の浅いソレは、そのことには一切気付いていない。



 ★ ☆ ★



「第二の錠、開錠!」


 ふたつ目の錠前が落ちる。


 ガンッ!


 と同時に、異様に鈍い打撃音が響いた。


 わずかに開いた門。その門扉がなにかに叩かれている。打撃音が断続的に続く。


 その音にマリアマリアはたじろいだ。


 当然のことながら、マリアマリアはこの儀式術を実行するのは初めての事だ。故に、なにを成すのかは知ってはいるが、実際にそれがどう起きるのかは理解していない。


 なにかが門を強く叩いている。


 その事実にマリアマリアは僅かながらに怖じけ、口元が引き攣れた。


 なにかが出てこようとしてる? そんなの聞いてないよ!?


 だが、ここで儀式を中断するわけにはいかない。


 歯を食いしばり、しっかりと地面を踏みしめる。


「其は理を外れしモノ。其は理を犯せしモノ。其は理を速めしモノ――」


 術式の詠唱を再開する。


「咎に塗れし其を彼方に送らんがため、門の解放を御願い奉る!」


 薙ぎ払うように独鈷杵を振り、天に掲げる。


「第三の錠、開錠!」


 三つ目の錠前が落ちる。門が叩かれさらに開く。隙間ができる。


 その隙間からナニカが覗いた。


 見上げるほどの上方。そこからこちらを覗き見る目が見える。


 体が震える。


 足の力が抜けて来る。


 マリアマリアは再度、歯を食いしばった。


 この寒気は、確実に出血のよるものばかりじゃない。



 ★ ☆ ★



 ソレはこの状況に恐れを持ち始めた。


 なんだアレは?


 段平を躱しつつ、僅かに開いた門の隙間から覗く目が恐ろしい。


 攻撃を躱す。


 視線をバルトロメに戻す。あらためてソレは暗殺者の技術を身に着けていたことに安堵した。


 一方、バルトロメはソレの予想外の技量に焦りが出始めていた。


 自分のやるべきことは死なせない事と時間稼ぎ、そしてなによりもマリアマリアの安全確保。それに合わせ得物を段平に変えて来たのだ。もっとも阻止が難しいであろう自害を防ぐため、相手の顎を砕くことを目的として。


 本来の獲物であるシャムシールは細身の曲刀であるため、骨を砕くなどということには向いていない。下手をすると折れてしまう。


「アレはナニ?」


 ソレはバルトロメに先ほどと同じ問いをした。


「さっきいったろ?」

「ソレじゃない」

「向こうの住人だ。お前を迎えに来たんだよ」


 あの門を開かせてはいけない。


 本能的にソレは感じ取った。どうすればいい?


 ――簡単だ。術者を実験すればいい。


「連れていかれるにはまだ早いわね」


 ソレは云う。


 向こうに行ったならば、恐らくはもう実験はできないだろう。もはや知りたいことを知る機会はなくなるに違いない。


 まだ死を理解していない。分かっていない。それではこれまで実験してきたことが無意味になる。故に、それを選ぶつもりはない。


 振り下ろされるバルトロメの斬撃を躱す。踏み込み、ソレはナイフを突き出す。だがそれは(ガード)で弾かれる。


 ここまではこれまどと同じ状況。だがここからがこれまでと違った。


 ソレは引かず、さらに踏み込む。右肩を巻き込むように前面に出し、そのまま半身を回転させて背からバルトロメに体ごと当たった。


 己のあまりの失態にバルトロメは歯噛みした。単調な作業のような攻防、そのために変化に対応できなかったのだ。


 ソレはバルトロメに背を預けるようにあ当たったあとも体を反転し体勢を立て直し、マリアマリアの方へと体を向けた。


 マリアマリアは門に向き合っており、こちらに背を向けていた。


 距離にして100m程だろうか。


 これなら届く。


 ソレはその距離を一気に詰めた。暗殺者から得た【縮地】という技術だ。


 マリアマリアは突如として自身の右脇に現われたソレに、驚愕に表情を強張らせた。




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