そして
「どうしてこうなった」
ロリ(仮名)お嬢様を町まで護衛しつつ帰った後、確かに指名依頼は出された。
何故か王都行きの直行指定で。
王都なんて変装なしで行きたいとも思わない。
傲慢な父や弟なんかと顔を合わせたら何をされるかわかったものではない。
だがしかし女性の涙というのは年齢問わず凶器である。
致し方ないと受領したのが運のつき。そのまま何故か護衛従者としてついてきてみれば、辿り着いたのはこの国の王宮。
正に敵地と言えるような場所である。
まさかの隣国のお姫様で密使としての旅とかあの護衛から判る訳がなかった。
そして案の定現れた弟と何故か現在対決前である。
理由は至極簡単で、弟がノートに突っかかりそれにロリ(仮名)もといエルフィナーゼ王女がキレただけである。
密使である為に非公式での会見の場でである。いくら非公式の場といえど相手は国賓対応なのにこの事態である。
単純に言えば王女の言は嬉しい話だったが、困った事にそれに対抗して父まで乗り出してきて罵倒してくれた。
事態の悪化を防ぐ為にと国王が鶴の一声として「では納得のいくように戦えばよいのではないか」と言った……。
それによって現在の状況である。
近衛騎士団の若手のホープとして活躍している弟VS家を出て冒険者として活躍している兄(人知れず)の対決である。
自分に自信がないノートであるが魔術まで使えばなんとかギリギリいい勝負じゃないかと思っている。
そして王女は自分が知る限りノート以上に強い者など居ないと確信していた。
そのあたりが不幸な意見の相違というところであったのだが、コンプレックスの原因に立ち向かえば悪く考えるのも致し方ないものだろう。
だがこのノートの考えは非常に危険なほど現状の把握という点について狂わせていた。
「始め!」
その掛け声を聞いた瞬間に弟は魔剣を発動した、だがその一瞬に『3倍の魔力による筋力強化の速度』で尚且つ『風の補助を受けた』ノートの一撃が鎧越しに叩きつけられて『近衛騎士弾の若手のホープとして活躍中』の弟は10m程吹き飛ばされ、一瞬の決着をみてしまった。
「見た事か! これがノートの実力じゃ」
「っっ!?」
嬉しさのあまりジャンプをしながら力説するロリいや王女。
そして自慢の息子が放逐した息子に敗れるという悪夢を目の当たりにして声も出なかった父。
「あれ?」
と一人納得していない張本人のノートという図が出来上がっていた。
「貴様、許さん其処になおれ!」
激昂し唾を飛ばしながら怒鳴り散らす父親。
余りの態度にノートも何を思えばいいかと困惑してしまった。
それはこの場にいる者達の心情でもあったのかエルフィナーゼ王女が代弁してくれた。
「何をとち狂っておるのじゃこの男は」
「王女よ、そやつは吹き飛ばされた者の父親である」
呆れたと言った風に国王が告げるのは事実のみ。
「ふむ、と言う事はノートの父だった男ということじゃが、何を勝手にぬかしておるのじゃろう」
旅の途中で色々語った為にエルフィナーゼは全てを知っている。それ故に父親の行動が理解出来ないのだろう。
息子でさえ、理解出来ないのだから当然だ。
「まったくのう、これほどの逸材を同盟国とはいえ他国へ渡してしまったとはの」
「陛下! 違います、この男は息子を語る偽者でございますれば」
事の結果に呆れ失望した国王の言葉は冷え切っており、その眼差しは汚物を見下すが如くだった。
言い寄る父は尚もノートを愚弄しようと言い訳を述べる。
「もうよいのじゃ、聞き飽きたのじゃ」
「下がれ!」
「陛下!」
「衛兵摘み出せぃ!」
これ以上は聞くに堪えないとエルフィナーゼが言い、それに国王が答え、結果として父親は衛兵に捕まれて引きずり出されていった。
陛下ーと叫ぶ声と共に退場する父を哀れみながらノートは自信の力にやっと気がついた。
「どうじゃ中々素晴らしい魔法騎士じゃろ」と王女が褒め称えてくれている。
魔法騎士、旅の途中で魔法剣士を目指してSランクになりたいといった事からだろうか……
知らず知らずのうちに涙が溢れていた。
町の人達に受け入れられそれなりの成功も収めていた。
だが自分が失っていたモノ。
それを王女が与えてくれたと実感できたから。
「我が剣、我が魔法を貴女の為に捧げましょう。この命尽きるまで、必ずや貴女をお守りいたしましょう」
その後のノートはロリもといエルフィーナゼと結婚し大公として活躍したと言う。
エルフ皇国の統治は栄えに栄え、平和的に次々と隣国を吸収しながらも発展した陰には、常にノートの政策があったと言われている。
子供に跡を継がせたノートは愛する王妃と共に旅に出て、今も何処かで暮らしているのだそうだ。
読んでいただきましてありがとう御座います。
文章の一部を改稿しました。
大まかなストーリーに変更はありません。