私は美しい、私は美しい、私は…
「私は美しい、私は美しい、私は美しい…」
毎朝、私は鏡の前でこう呟くの。仕事に行くのが億劫な朝にこれをやれば、自分に自信が持てて、やる気が沸いてくるってこないだ朝の報道バラエティでやってたわ。でも生憎今日は風邪気味だから、マスクをして仕事に行くわ。これじゃあせっかくの美女が台無しね。
「レイコ!帰りにホームセンターに寄って、手狩り鎌を買ってきておくれ」
もう。うちのママったらいつもこうやってヒトに買い物頼むんだから。自分で使う道具ぐらい自分で買えばいいじゃない。ホームセンターなんて、家から十五分も歩けば辿り着くわ。たしかに今年で還暦だけど、まだまだ歩けるでしょうに。まあいいけど。さ、行こうかしら。
「部長、コーヒーお持ちしました」
「ああ、レイコくん。マスクをした君も美しいね」
「やだ、部長ったら」
マスク姿なのに美しいですって。お世辞かしらね。
今日は部長に褒められたからなのか、風邪気味でも妙に気分がいいわ。さ、ママに頼まれた鎌もホームセンターで買ったし、あとは帰るだけね。
あら?もう夜八時なのに、まだランドセルしょってる子達が歩いてる。危ないわね。でもまあ五人も一緒に歩いてれば少しは安全かな。最近変なヒトがうろついてるからね。そうだ。ちょっと聞いてみよう。
「ねえねえ君たち、ワタシ、キレイ?」
え?ちょっと待って!何を怖がっているの?何で逃げるの?私、怪しい者じゃないわよ?たしかにマスクしてるけど。え?ちょっと待って?何で?何でポマード投げてくるの?やめてよ!そんなに泣くほど怯えなくてもいいじゃないのよ!
何で?何で私、おまわりさんに交番まで連れてこられたの?私があの子達に何をしたっていうの?ちょっと声をかけただけじゃない。え?「これはなんだ?」って?見ればわかるじゃない。鎌よ。うちのママに買うように頼まれたものよ。なんなの?マスクして鎌持って小学生に声をかけたら罪になるの?変な世の中になったわねえ。私をどこかの変質者と一緒にしないでよ。




