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赤いマフラーの女

 その女性と出会ったのは三ヶ月前。暇つぶしにSNSのチャットで見知らぬ彼女と話しているうちに仲良くなった。実際に会ってみると外見も私好みの女性。名前をレナといい、黒の長髪にクリーム色のオーバーコート。赤いマフラーで口元を隠し、とてもおしとやかな性格であった。何度かデートを繰り返した後、付き合い始めた。

 私は恋愛に関しては経験がまるでない。なので、幼なじみの晴菜に女心やデートの時の心得など、いろんな助言を求めていた。今私がレナと無難に付き合えているのは、晴菜のサポートのお陰でもある。

 ところがある日突然、晴菜と連絡が取れなくなった。晴菜とは高校まで一緒だったが、高校を卒業すると、私は地元の会社に勤めたが、晴菜は地元から遠く離れた都会へと就職した。なので高校卒業以来、晴菜と直接会うことは無かった。ラインでたまに会話する程度だった。

 晴菜の死を知ったのは、連絡が途絶えてから三日後のことだった。会社を無断欠勤した同僚の女の子が、晴菜のいるアパートを訪ねると、バスルームで変わり果てた彼女を発見したという。紅く染められた湯船に、晴菜と一緒に包丁が浮いていたという。自殺の原因は明らかになっていないらしい。

 突然の出来事に、私は戸惑いを隠せなかった。ずうっと会っていなかったからか、晴菜がもういないという実感がない。ラインでメッセージを送ったら既読になるかもしれないとさえ思った。

 それが始まりだったのかもしれない。私のまわりで奇妙な死が続いたのは。私の職場の女性が、次々と不可解な死をとげたのだ。高層ビルの屋上から飛び降りたり、交差点で車に轢かれたりと、自殺ともとれれば事故ともとれる死に方。

 まるで何かの祟りのようで、気味が悪かった。私と親しかった女性が次々といなくなってゆく。ついには私の母や姉までもが帰らぬ人となってしまった。

 父も祖父母も幼い頃に亡くした私は、ついにひとりとなってしまった。心の支えは付き合っているレナ。私は彼女にプロポーズし、結婚した。

「浮気しないでね」

 レナは毎朝、私を仕事に送り出す際、口癖のようにそう言った。

「湯月さん、もしよかったら、お昼一緒にどうですか?ちょっと相談したいことがありまして…」

 会社で、新入社員の指原という女の子に声をかけられた。

「ああ。いいよ」と私。部下の純粋な相談を拒否するわけにはいかない。

 昼休み。会社の近くのファミレスで、指原とテーブルを挟んで向かい合っている。

「湯月さん、奥さんと何処で知り合ったんですか?」

「え?まあ、駅前の本屋で私が一目惚れして…」

 嘘を付いた。ネットで知り合ったと、なんとなく言いづらかった。

「そうですか。実はネット上で、恐い噂があるんです。出会い系ウィルスっていう…」

「出会い系ウィルス?聞き慣れない言葉だな。なんなんだい?それ」

「ある男性が、あるサイトで女性と知り合ったんです。やがてその女性と付き合うことになったのですが、男性のまわりの親しい女性が次々と亡くなっていったんです。いずれも男性の携帯電話にアドレスもしくは番号が登録されている女性で、その男性の携帯電話から回線を伝ってそれぞれの女性の携帯にウィルスが侵入し、感染した所有者を死に追い込んでしまうんです。別名、嫉妬ウィルスと言ってもいいでしょう」

 指原の話を聞いていくうちに、私の背筋には冷たいものが走った。

「信じ難いな。私はそういう心霊的な話は苦手なものでね」

「お願いです!今すぐ奥さんと別れてください!あの人は危険すぎます!」

 すると指原は、窓をみて急に怯えはじめ、席を立った。

「おい指原君!?どうした!」

 店を慌てて逃げる指原。私は食い逃げと勘違いされないように、店のレジに何千円か札を置いて店を出た。すると、店の前の道路で車のクラクションが突然鳴り響いた。車のタイヤとアスファルトがこすれる音と共に聞こえる通行人の叫び声。車の下敷きになった指原の身体から、次々に紅い血が流れ出ていた。その側に、驚くことなく立っていた、クリーム色のコートを着た黒く長い髪の女性。彼女のコートには血が転々と飛び散った跡があり、彼女がしているマフラーは、その血の色とよく似ていた。そのマフラーから見え隠れしていた彼女の口元は、少し笑っていたように見えた。

「浮気しないでね」

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